非情なる者④
GPSの位置情報を頼りに到着した大森のマンションは、なかなか豪華な建物であった。ただし、ネーミングセンスが悪い。
『サンライズ竜宮』
笑ってしまう。浦島さんは、竜宮に暮らしているらしい。エントランスに入り、郵便BOXで名前を確認していく。浦島に関係する名前を探す。見つけた。403号室。亀海。竜宮で暮らしている亀海さんは、浦島さんと名乗っている。面白い奴だ。俺は、体を小さくし、昆虫サイズになった。そして、403号室の換気口から、部屋に入る。部屋は片付いている。というより、生活感がない。亀海は、ベッドに横になっていた。いびきをかいて眠っている。俺は、奴のおデコに着地した。頭の中を読み取る。なるほど。この男も雇われだ。そして、予想通り、宅配員を装った男を始末するつもりでいる。
俺は、亀海の記憶の操作をした。報酬の300万円を渡したあと、予定通り男を殺した。今は、仕事を終えて、ベッドで休んでいるのだ。眠りから覚めたら、ボスに連絡しないといけない。ここまで、記憶を刷り込んだ。
俺は分身仏を見張りに残し、品川の水族館に飛んだ。
21時ちょうどに、宅配員を装った男がやってきた。
『どうして、先に来てるんだ?どうやって来たんだ?』
『私は空を飛べるの。凄いでしょ。一緒に飛んでみる?』
『い、いいえ、遠慮します。』
『みんな、戻っておいで。』
俺は男を見張らせていた分身仏を呼び戻した。
『はい、これ。』
俺は、亀海の部屋にあった300万円を持って来た。そして、目の前でビクついているこの男に差し出した。
『なんですか、これは。』
『300万よ。浦島さんからもらってきてあげたわ。これは、おじさんにあげる。だから、もう暗殺者から足を洗いなさい。おじさんに暗殺の仕事は無理よ。新宿のヒロさんって知ってる?』
『は、はい。我々の社会では伝説の人です。999連勝後、引退したと言われてます。』
『ピンポーン。正解です。私はヒロさんを知ってるよ。ヒロさんを負かした人も知ってるわ。だから、本当は全勝ではないの。ヒロさんは3人に負けてるの。でもね、一番強いのは、ヒロさんでも、その3人でもないのよ。わ、た、し。私が一番強いの。覚えておいてね、おじさん。』
『ちひろさん、俺を許してくれるのですか。』
『そうねえ、修行させてあげるわ。新宿に戻るわよ。』
俺は、魔人バブーに変身した。
『バブバブバブ、、、バア。』
男を掴み上げ、手のひらに乗せた。
『空の旅よ。楽しんでね。』
夜の空を歌舞伎町まで、飛んでいった。