非情なる者③
こんなヘボな男が俺を殺しに来るとは。おそらく捨て駒だ。様子をうかがわせたに過ぎない。もし、そうなら見張っている奴がいるはずだ。品川まで、この男と二人で行くのはまずい。俺が倒されたからこそ、浦島さんが、この男に会いに来る。ならば、俺は身を隠さねばならない。
『おじちゃん、品川までは一人で行ってね。行けるよね。ちゃんと21時に到着するんだよ。裏切らないように、この子たちを見張りにつけるからね。』
分身仏のちひろは、ポケットから、昆虫サイズの分身仏を五体出した。分身仏とは、本体である俺の分身のことである。俺は、この分身仏を無限大に作ることが出来るのだ。
『ちひろさん、これは何?』
『この子たちは、私の姉妹よ。小さくても、強いからね。大丈夫、浦島さんからは必ず守るから。』
『お願いします。』
男の肩に、分身仏が飛び乗った。
『はい、出発の時間よ。私も後から行くから。』
男は渋々、事務所から出て行った。
俺はMr.Tに電話をした。
『こんばんは。Tおじちゃん。』
『ヒロ様、違った、ちひろ様。Tおじちゃんと呼ぶのはやめて下さい。恥ずかしいですから。』
『いいじゃないのよ、それくらい。調べて欲しいことがあるの。』
『了解です。』
『まだ、何も説明してないけど。』
『ちひろ様の依頼なら、断りませんよ。それで、何を調べれば良いのですか。』
『今から言う電話番号の所有者と、現在の居場所を知りたいの。大至急頼むわ。電話番号は、090*******よ。分かったらすぐに教えてね。』
宅配員を装った男がかけた浦島さんの電話番号を、分身仏が俺に教えたのだ。俺は、GPSから居場所を突き止め、先回りしようと考えた。
5分ほどで、Mr.Tからメールが入った。
『ちひろ様、ご依頼の件、お調べ致しました。所有者はプリペイド式の携帯電話の為、特定できず。現在の居場所は、大森駅近くのマンション。GPS情報を添付しておきます。』
上出来だ。大森駅近くのマンションなら、品川まで時間はかからない。まだ、出発はしていないであろう。浦島さんは、あと1時間はマンションにいる。俺は、そのマンションに向かい瞬間移動をした。