非情なる者②
『いったいどういうことだ。』
銃弾で倒れたはずのちひろが、笑っている。暗殺者は混乱していた。
『おじさん、生きたい?死にたい?選ばせてあげる。』
そんなもん、生きたいと答えるに決まっている。だが、あえて選ばせるのだ。
分身仏のちひろは、徐々に体を大きくさせていく。魔人バブーに変身だ。魔人バブーとは、幼いちひろの変化形。暴れまくりたい時、敵を脅す時に変身するのだ。
『バブバブバブ、、、バア!』
部屋の壁をボロボロに砕き、ドアというドアをぶち壊した。そして、逃げ回る暗殺者を捕獲し、右腕を掴み振り回した。ガクッという音がして、男の右肩が外れた。
『おじさん、答えは?早く答えないと、死んじゃうよ。バブビブ。』
『た、た、助けてくれー。死にたくないです。生きたいです。』
魔人バブーは、腕を放した。男は床に叩きつけられた。
『おじさん、生かしてあげるね。でも、言うことを聞いてね。』
『わ、分かりました。』
そう言いながら、男の目は何かを探している。カバンだ。カバンの中の拳銃を取ろうとしている。男は、カバンのところに走った。ざんねーん。魔人バブーの方が足が速い。魔人バブーは、カバンの中から拳銃を取り出した。
『おじさん、嘘ついたでしょ。この拳銃で、また私を撃とうと思ったのね。バブバブバブ。』
『ちがう、ちがう、違います。どうか助けて下さい。』
『おじさん、私は拳銃で倒せないよ。だから、これは返してあげる。撃ちたかったら、撃っていいよ。でも、よく考えてね。』
分身仏は、男の心を読みながら遊んでいる。そして、拳銃を男の足元に投げた。さあ、どうする?やはり、男は拳銃を手に取った。だが、すぐに放り出した。少しは頭を使ったようだ。
『よく出来ましたね。おじさん、合格。私の子分にしてあげる。浦島さんのところに連れて行って。』
『えっ、どういうことですか。』
『こらこら、子分は質問しちゃダメよ。でも、教えてあげる。おじさんは運が良かったの。もし、私が死んでいたら、おじさんは浦島さんに殺されてたのよ。そして、私の言うことを聞かなかったら、私に殺されてたの。ね、運がいいでしょ。おじさんは、私の子分になったから、浦島さんから守ってあげるね。』
『は、はい。』
『もう一つ教えてあげる。私は人の心が読めるの。だから、嘘を言ったら、すぐに分かるからね。じゃあ、教えて、浦島さんと、21時にどこで待ち合わせしてるの?』
当然、すでに心は読み取っている。場所は品川の水族館。浦島さんは水族館にいる。なかなか、洒落が効いている。分身仏は遊んでいるのだ。
『品川です。』
男は怯えながら答えた。
『品川の水族館ね。』
心を読まれたことを知り、男は、すでに暗殺者の面影は全くなくなっていた。