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序
空が、燃えていた。轟々と、火の神が嗤う。夜は揺らめく炎に真っ赤に染まり、熱と、悲鳴と、血の匂いが充満していた。
これは夢だ、と。
五感は鮮やかで、それでも、この臨場感が紛い物である事を知っている。
自分はまだ幼い子供で、護られるだけの存在だった。悲鳴を上げてしまいそうで必死に口を押える両手は誰かを護るにはあまりにも小さくて、家の戸棚の中で絶望が過ぎ去るのをただ震えながら待つしかなかった、あの頃の自分。
母の悲鳴が響いて、父の怒声が聞こえる。
白刃がぶつかり合う甲高い音が数回響き、母の悲鳴が大きくなる。見なければいいのに、戸棚の扉の隙間から、両手を広げた母の背中が見えた。その身を刃が貫いて、引き抜かれると同時に迸った鮮血が降りかかる。
叫んでも、過去は、何一つ変わらないのに。
ただ。
扉の隙間から確かに出逢ったその宝石の瞳を。
背後から掛けられたその者の名前を。
――私は決して、忘れない。