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松山行紀  作者: 雨奈麦
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さらば自分

皆さんは主語に何を使うだろうか。

僕?俺?私?

僕は僕で、俺は俺で、私は私。

自分はこうである事にすがりたくなる。安心感を覚えるからだろう。ブレないものはかっこいいし強くて頼もしい。

僕は俺で、俺は私で、私は僕。

でも実際はこうであって、自分はそれに底知れぬ不安を抱く。まるで分裂したような自我は互いの意識を行ったり来たりしながら、しかもきっと同時に存在している。でもそれは紛れもなく自分であって、だからこそ自分というものに纏め上げるのに苦労する。

そうやって苦しんでいるのは僕だけだろうか。現代になって個性が叫ばれるようになった。僕が僕である事にこだわろうとするのは、きっと自分の尊厳を保つためだ。

僕は僕である事に疲れてきた。疲れているのは僕だけだろうか。現代は絶対的な個を持った孤独なスーパーマンを理想とするが、そうやって作り出したのは、不安定な個を持つ孤独な人間なのだ。


バスのフロントガラスに、いつしか冷たい雨が打ち付け始めていた。東京は雨なんて微塵も感じなかったのに。きっと遠い彼の地が雨を呼んだのだろう。

僕が僕であるなんてそもそも無理なことだ。人は人との関係性の中で価値を発揮していく、そういう性を持って生まれてきた種族なのだと思う。

浜名湖を渡っている。暗闇の中でも橋のすぐ下で波がうねるのがわかる気がする。

尊厳なんて踏みにじられるためにあると思えば何も恐れることはない。最近は雨が多い。外を見れば丸い水滴の向こうに街の明かりが滲んで映っている。そろそろ休憩だろう。バスが車線の一番左にのりかえた。喉が渇いたので何かを買いに行くことにする。

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