静岡、トンネルの中で
「鹿出没注意」の看板で意識が外に向かった。
今どこを走っているのだろう。気がつけば街の明かりはなくなっていて、あたりは山のシルエットをした闇の眷族たちが迫るように横を抜けていく。トンネルが多くなってきた気がする。暗いイメージのトンネルだが、この辺のものは明るくて眠気と苦闘するドライバーたちを安心させる。
人生のトンネルなんて言い方があるが、最近の人間はちょっとした挫折でトンネルに入ったなんていう。それも、このような現代風なトンネルなら納得だ。まるで闇への直視を避け、一人閉じこもるように存在するこれらは、まさに彼らが逃げ込むには都合が良いだろう。だがそれでは幸福は得られない。世の中は発展を遂げ随分と豊かに平和になったが、平和と幸福は別物なのだ。何も起こらないのが平和だとするならば、何かを起こし獲得するのが幸福なのである。どちらかというとベクトル的には逆なのだ。
ふと目をあげれば左手には起伏の少ない平地とたくさんの光の点。東京からはもうかなり来てしまったと思うが、どこであっても人間は暮らすのだなと思うとそこはかとなく安心感を覚える。そんな自分を自分が感じて、ああ自分もやはり人間なのだなと考える。真愚かなり私。