Episode5 ヒーロー誕生!
夜の道を幸いにも誰にも見つかることなく走り、着いた場所は学園。
時刻は7時、最終下校時刻になっているはずなのに何故か学園からは声が響いていた。
それも叫び声や悲鳴、時には罵声などと様々で不審に思いながらもレオライザーに引っ張られ正門を通り声のする方向へと走ればそこには衝撃の光景が広がっていた。
校庭に一人の生徒が佇んでいる。
だが、一人の生徒の周りには無数の生徒が倒れていてますます異様な光景になっていた。
確か佇んでいる生徒は以前、私が見かけた生徒会に土下座をしていた男子生徒。
しかし、彼の腕は大きく肥大して巨大なトゲが鋭い爪が闇夜に光りギラギラとした目で捉えているのは生徒会のメンバー。
生徒会長を守るように書記の秋羽氏君と浮橋君が前に立ちその後ろではさらに守るかのように生徒会長が後ろに雪野さんと波風君を庇っていた。
他の生徒も怯えた様子で固まっていて何人かの生徒は、生徒会長を守れと秋羽氏君や浮橋君の周りへと立っている。
やがて、男子生徒が咆哮するとその身体は異形の者へと姿を変えた。
赤黒い肌に鋭い爪、瞳は爛々と輝きその姿に人の面影は全くなかっのだった………。
『あそこまでバギーと一体化するとは彼は相当の負の感情を持っていたようだな………』
「な、にあれ………」
『バギーが負の感情を吸収すると話したが、通常は吸収するだけで事足りるんだがあまりに負の感情が強いとバギーと同調して姿を変えてしまうことがある
そうなってしまえば、バギーを倒さない限り助け出すことは出来ない
バギーが今まで星を滅ぼしてこれたのはこうやって同調して異形に変えることで強さを蓄えていたんだろうな』
もしかして………
あんなのと、私が戦えっていうの!?あんな恐ろしい怪物と?私が?戦えっていうの………?
いつも、テレビ画面越しにしか見たことがなかった怪物が目の前にいる。
ヒーローショーとかで見てもそんなに怖くないはずの、異形の怪物がヒーロー達が倒してきた怪物を私が倒すの?
だって、私は見る専門だよ?特撮を見るのは好き、だけどそんなはい戦ってくださいなんて言われたって………
「無理だよ………」
『由花?』
「戦うのなんて無理だよ、戦えっこないよ………!」
だって、私はただの特撮好き以外変わったとこがない普通の女子高生だもん。
ヒーローじゃないのに、あんなのと戦ったら私絶対死んじゃうに決まってるじゃん!
ヒーローは作られたお話で、それをスーツアクターさん達が演じてるからカッコイイわけであってそれを私がいきなり本物の怪物と戦えなんて言われたら負けるに決まってるじゃん………。
『由花!このまま放っておいたらバギーはどんどん増えてしまうんだぞ!』
「でも………!」
『君とシンクロした時に、初めて分かったんだ。
由花、君は今でもヒーローはどこかにいると信じている。だけどそれを絶対に表では言わない………それでもヒーローを信じ愛している心があったから私は由花とシンクロすることが出来たんだ
信じる心はとても強い、だから由花どうか私を信じて力を貸して欲しい………頼む!』
レオライザーの真剣な声。
戦うのは怖い、でもこのまま全部が終わっちゃうのはもっと怖い………!
流れてくる涙を無理矢理拭って立ち上がるとレオライザーは私の肩で大きく頷いた。
「こうなったらやってやるわよ!
あんなの、さっさと倒してすぐに帰って見終わってない特撮見るんだから!!!」
特撮歴ピー年の特撮女をなめんなよ!
これでも昔、特撮ヒーローになりたかったし今でも見て動きとか覚えてるんだからな!!!
『よし、由花これを掴むんだ!』
そう言うなり光に包まれるレオライザー。
だんだんと形を変えていきその姿は人型から一本の剣へと姿が変わる。
金と青と白銀のトリコロールカラーに前後に巨大な刃が着いた大きな武器。
真ん中の部分には金色のライオンの顔が装飾されていて、持ち手の部分を引けばライオンの口が開いた。
『これをライオンの口に入れて持ち手を上に引き上げろ!そしてチェンジレオライザーと叫ぶんだ!』
空中に現れた私が拾った青い石を掴んでライオンの口に装着して持ち手を引き上げる。
ガシャンと金属がぶつかり合う音が響く中で私は剣を持ち上げ思いっきり叫んだ。
「チェンジ!レオライザー!!!」
その瞬間、空から稲妻と共に金色のライオンが私に向かってくる。
ライオンが私と重なった瞬間、私の身体は金色の光に包まれてその姿を変えていった。
白銀と青のパイロットスーツが全身を覆うと、ライオンが口を開いたかのようなマスクが被せられる。
そこに西洋甲冑のようなものが腕やら足やらに装着され最後に胸元に装甲が装着されるとそこには金色のライオンのような模様が現れた。
本当に私、変身したんだと少しシワがよっているパイロットスーツに包まれた手を動かしているとレオライザーのすまなさそうな声が聞こえた。
『すまない、本来由花は女子だから可愛らしい衣装か女性的なものにするつもりだったんだが私のをそのまま装着させてしまった…』
「いいえ、ご褒美です!」
憧れのヒーローに本当に変身したんだという高揚感に大きく剣を振りかざせば私の存在に気がついたのかバギーが大きな咆哮をあげる。
大丈夫、もう開き直ってるしむしろご褒美状態の私はアンタなんて怖くない!!!
切っ先をバギーへと向けた私は、高らかにこう叫んだ。
「レオライザー登場!」
そこからは、あっという間だった。
襲ってきたバギーを剣で応戦し、バギーのトゲが飛んでくるたびにまるで蝶になったかのようにヒラリヒラリと交わしていく。
自分の身体のはずなのに全く別人のようで、軽々と動いていく私。
やがて、一気にバギーを追い詰めるとバックルに装着されていた玉を剣に入れた。
稲妻が剣にまとわり、飛びかかってくるバギーに体制を低くしてから一気に剣を振りかざした。
「いっけえええええええ!!!」
光の刃がバギーの身体を貫く。
その瞬間、炎を上げて爆発するバギーに剣を下ろすと手元に何かが飛んでくる。
飛んできたものを掴むとそれは透明な水晶玉で、燃え盛っていた炎は消えそこには取り憑かれた男子生徒が眠るように倒れていた。
『安心しろ、あの炎はバギーの吸い込んだ負の感情だけを焼くだけで取り憑かれた者には一切被害はない』
「そっか」
耳元で聞こえるレオライザーの声にホッとしていたのも束の間、すぐにある事を思い出し恐る恐る振り返れば生徒会は勿論、震えていたはずの生徒がポカンとした表情でこちらを見つめていた。
「レオライザー問題です、私は今何を考えてるでしょうか」
『さっさとずらかりたい』
「正解!」
待って!と生徒会長の声が聞こえたような気がしたがそんなものは聞こえないふりをして驚異の跳躍と脚力でその場から逃げ帰った私はそのまま再び布団にダイブ。
ありがとう、とレオライザーの優しい声に何とか頷きなからも思考は再び眠りの世界へと旅立っていく。
これが
私、鳴神由花と
レオライザーのヒーローとしての始まりの一歩だったとさ。




