Episode3 小さな英雄
『………い、………ろ………!』
まどろみの世界に声が聞こえる。
あれ?お母さん帰ってきたのかな?
でも、お母さんにしては声が低いし父さん?
でも、確か父さんは出張で母さんは仕事が今佳境を迎えているとかメールで見たから帰ってこないはず………
………じゃあ、誰?
『いい加減起きろ!』
ハッキリと聞こえた声に慌てて身体を起こす。
部屋の中は薄暗くなっていて窓の外は夕陽が沈みかけておりだんだんと夜の色へと変わっていた。
そうか、私帰ってきてからそのまま寝ちゃったんだ。
グッと背伸びをすればパキパキと骨の鳴る音が聞こえ、あんなに重たかったはずの身体が軽くなっていくのを感じる。
『ようやく起きたか』
「誰!?」
再び聞こえた声に左右を見るが誰もいない。
ま、まさか幽霊じゃ………!?
ちょっと、やだよ!?出るならせめてスーツアクターの幽霊が私的には美味しい………じゃなくて塩!?塩まいたほうがいいの!?
パニックになって塩が、塩がとテンパる私に声は溜息を吐くとこう言った。
『下を見ろ』
声の言うとおりに恐る恐る下を見ればそこには変わったぬいぐるみのようなものが立っていた。
青と白銀のツートンカラーの身体に出足は黒、それを覆うように白銀の装甲のようなものが肘や膝などにつけられていて胸元の装甲には金のラインでライオンのような模様が描かれている。
頭の部分は顔に当たる部分が青、それをライオンが咆哮しているかのような牙や目のようなものが白や金で出来たマスクで覆われておりまるで特撮番組にに出てきそうなヒーローがデフォルメのような姿をしてそこにいたのだ。
ま、まさかこのぬいぐるみが喋ってるの!?もしかしてこれドッキリ!?特撮ドッキリ!?カメラはどこ!?大成功はどのタイミングで言えばいいの!?とまたしてもパニックになる私にぬいぐるみヒーローはまた溜息を吐いていた。
『ふう、流石にシンクロ後で疲労したとはいえ少し寝すぎだぞ』
「あ、すんません………」
『大体年頃の娘が制服も脱がずに寝るな!皺くちゃになるだろう!せめてブレザーくらいは脱げ!アイロンがけをする身にもなってみろ!』
オ、オカン………!?
このヒーローもしかしてオカン属性なの!?
シワ一つなくハンガーにかけられたブレザーを見て思わず礼を言えば、ぬいぐるみヒーローは説教を止めて私の膝へと飛び乗った。
『ふむ、やはりそうか………』
「あのー………」
膝に飛び乗るや否や人の腹を触り何かをブツブツ呟いているヒーロー。
すいません、出来れば腹を触るの止めていただけないですかね!?
最近太ったんですよ、贅肉タプタプなんですよ!?
『自己紹介がまだだったな、俺はレオライザー
宇宙保安警備隊に勤めている』
「あ、鳴神由花です」
ご丁寧に頭を下げてきた、ぬいぐるみヒーローことレオライザーに私も頭を下げる。
『この地球に来たのは、暗黒生命集団バギーを追ってきた』
「バギー?」
レオライザー曰く、暗黒生命集団バギーというのは生き物の負の感情………すなわち
妬み、悲しみ、嫉妬、怒りなどといった感情を吸収して成長をする生命体でバギーと取り憑かれた者は負の感情が増幅して破壊活動や陰湿な作戦を考えて罪のない人を陥れ仲間を増やすのだとか。
『今まで、バギーによって様々な星が壊滅してしまったんだがこの間、ようやく全てのバギーを捕まえて宇宙牢獄の入れることが出来たんだが………クソ上司が賄賂受け取りやがって全て逃がしてしまってだな………
上司は俺たちの手で半ご………いや、何でもない。
上司は然るべき処分を受けているからまあいいのだがよりにもよって逃げ出したバギー全てがこの地球に、君が通っている学び舎に逃げてしまったんだ』
今、このヒーロー半殺しって言おうとしてなかった!?
しかもクソ上司とか言ってるし相当何かが溜まっているような気がしてならない。
「でも、なんで学園ってピンポイントに分かるの?」
『バギーが好むのは負の感情、特に君たちのような年頃は子供というには大きすぎるが大人と言うには少し幼い………
まあ、簡単に言ってしまえば一番不安定な時期で心の変動が大きいが故にバギーの餌になりやすいのが現状だ』
負の感情………
そうだ、ウチの学園ってカースト制度あるから特にそんなのありまくりじゃん!?
ってことはバギーにとっては最高の餌場ってこと!?