Episode0 私の話
特撮。
それは特殊撮影技術の略称で映画やテレビなど色んな場面で使われている。
なかでも、子供向けのヒーロー番組は特撮をふんだんに使われており正義のヒーローが毎週派手なアクションやバトルを繰り広げるのは毎回手に汗握るシーンばかりでいつも引き込まれてしまう。
私は、なかでも特撮ヒーローが大好きだ。
ピンチの時に変身道具でかっこよく変身して、様々な乗り物やアイテムを使いこなして敵を倒していく。
何よりもビジュアル、戦闘シーンに関しては文句の付け所が毎回なくて私は幼い時から特撮ヒーローに憧れて育った。
いつかヒーローと一緒に戦うのが夢だった。
しかし、成長するに連れて現実を知っていったのだ。
特撮ヒーローの中身は主人公じゃなくてスーツアクターと呼ばれる人たちが入っていることを………。
人々を困らせる怪人なんていないことを………。
ヒーローはこの世にはいないことを………。
特に女子は成長するに連れて子供番組なんかを見ていたらすぐに馬鹿にされたり仲間はずれの対象にされたりしてしまうので、私は皆に隠れながら特撮番組を見るしかなかった。
そして、現在………
私は高校2年生になった。
学生という生き物は大いに面倒な生き物だ。
何故なら学生とは、大人以上にシビアな世界で生きている。
あの子は自分のメリットになるかどうか
あの人に逆らってはならない
あの子より自分は多少上だという高揚感と自分より上だと羨望と嫉妬を向ける気持ち
そういったものを見極めながら日々学生生活を送っている。
先生や大人が皆、仲良くしましょうなんて言っている。
表面上は、皆は良い子で返事をしているけれどそんなことは不可能だ。
だって、大人は口先だけだって波風立たせたくないからって知っているから。
それに学生の世界というのは、大人以上にシビアである
あぁ、今日もまた………
「ゆ、ゆゆ………許してください………!」
地面に必死に頭をこすりつけて許しを請う男子生徒。
彼の目の前には5人の生徒が男子生徒を見下ろしそれを周りで遠巻きで見ている生徒の反応も様々だ。
ある者は目をそらし、またある者は嘲笑い、ある者は面白がって写真を撮り、ある者は彼の噂を他人と喋る。
私、鳴神由花が通う私立英王学園。
小中高大一貫のエスカレーター式学園で超マンモス学園といっても過言ではない。
教育方針は学園長曰く、生徒の自主性がうんちゃらかんちゃらとか言ってたような気がするが私が通う高等部では生徒によるカースト制度が制定されているのだ。
この学園は4つのスクールカースト制度に分けられている。
一番トップにいるのは生徒会
二番手は三人公と呼ばれる人物たち
そして、三番手は一般生徒
最後の四番手………これは主に生徒会に反発を起こした人や粗相をやらかしてしまった者達がこの部類にあたり彼らは最下位と呼ばれて生徒達から差別的な目で見られる。
最下位になった人たちは、生徒に何をされても反発してはならない。発言権すら許されないのだ。
それをいいことに様々な嫌がらせなどをされて色々と溜まっている一般生徒のストレス発散の道具にされてしまう。
生徒会はそれを見ても勿論何も言わないし助けることなどしない。
よって、最下位になった者達は逃げるように学園を辞めるか全て諦めたかのような無表情で好き勝手されている。
学園で一番逆らってはいけないのは生徒会だ。
まず生徒会トップは、生徒会長である城崎英知。またの名を帝王
S財閥という世界を股にかける財閥の御曹司であり容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と3つの最高要素を持った天に愛された人である。
普段は温和な笑みを浮かべており女子生徒の憧れの的だが同時に学園の規律を大いに乱したものや反乱を起こしたものには冷酷な表情を浮かべそれを見た者達を恐怖に貶めるまさに帝王と呼ばれるに相応しい人物だ。
次に権威があるのは生徒会副会長、浮橋佳祐。またの名を参謀。
生徒会長の次に成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群といった3つの最高要素を持っている人物で有名企業の会長の息子である彼も女子に人気が高い。
ただ、滅多に笑うことなど見せずとても規律に厳しい人物で1秒の遅刻も許さずもし破ってしまったら反省文200枚に減点対象としてブラックリストに載せられるなどとかーなーり恐ろしい人物である。
この学園の規律そのものみたいな人なのであまり遭遇したくはない人物である。
そして生徒会副会長はもう一人いる。
名前は、雪野香澄。またの名を女帝
茶道の家元である雪野家の娘でその美しい容姿と凛とした佇まいでモデルもやっているという才女であり男子からの人気が非常に高い。
だが、ものすごくプライドが高く彼女の前でうっかりヘマなんぞしたら即最下位行きが決定してしまうため彼女が前を通ったら必ず一礼をしなければならないという暗黙のルールもあるほどだ。
生徒会4人目は生徒会書記である秋羽氏奏、またの名を番人。
生徒会長同様、普段柔和な笑みを浮かべて温厚な性格をしており一般生徒でもある程度絡みやすい人なのだがその実態は常に生徒会に不穏な動きをしていないか見張っており、ちょっとでも不穏な動きがあると裏で制裁を行うため実は副会長よりも怒らせてはいけないんじゃないかと思っている。
そして最後の5人目は生徒会会計である波風薫、またの名を帝王の愛子。
この子も財閥の御曹司で他の生徒会全員が2年生の中で1年生ながら、生徒会に所属している。
その可愛い容姿に弟にしたい!と思う女子や禁断の扉を開きかける男子などと周囲を魅了しているとても愛らしい子なのだが………
裏の顔は、とてつもなくS級ワガママ王子でいきなり人をとっ捕まえてプリンが食べたいやら飲み物を買ってこいと様々な生徒をパシリにする逆らえば権力使って即最下位行きととてつもなく恐ろしい。
常に秋羽氏君と一緒に行動しており、特にこの波風君に何かあったら即効で秋羽氏君に秒殺されてしまう。
と、いうのも秋羽氏君の家は代々波風家と主従関係らしく秋羽氏君は彼の忠実な部下なのだ。
この学園に入った私は、常に大人しく過ごしてきた。
何故なら、彼らに逆らって酷い目に会いたくないから。
教師ですらも逆らえない生徒会。
だって逆らえば先生ですらも最下位にされてしまう恐ろしい存在。
最下位になった生徒が悲惨な目にあっているのを見て私は絶対に最下位になりたくないと思い目立たない、必要以上に発言をしない、常に隅で生きる、これを胸に過ごしてきた。
正義のヒーローなら、本当はこんなことを絶対に見逃さないだろう。
やめろ!と言って最下位になった人を助けるだろう。
だけど私にはそんな真似なんて出来ない、何故なら自分の身が可愛いからだ。
だって、特撮ヒーローなんてどこにもいないのだから。
わざわざ、自分の身の危険を犯してまで助ける人なんかはどこにもいない。
これからも、私はひっそりと目立たずに周りに合わせていけばいい。
それでいいんだとそう思っていた。
私は知らない。
もうすぐ、自分の運命が大きく変わることを。
私は知らない。
学園や人々の運命が自分の手にかかっていることを。
私は知らない。
憧れていたヒーローに変身することになることを。
何も知らない………