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婚約破棄、しません  作者: みるくコーヒー
最終章 おわりのはじまり
24/38

殿下に現実を見せてあげましょう


 お兄さまは、魅了状態が解かれてからは以前のように、いやそれ以上に働くようになった。

 そして、リマさんの近くで寝泊りをしていたがそれもなくなり、今はちゃんと家に帰ってきている。


 お兄さまがロンド地区に送られるのは、一先ずこの事態が収束してからということになった。

 お兄さまには、魅了状態の間にも裏で手を回して貰うことが何度かあったため、引き続きその件について動いてもらっている。


 さて殿下なのですが、彼にはこの国の現状を見せる必要があるので、私が自ら彼に城下町を案内することにしました。


 実際、リマさんに最も心酔しているのはリューク殿下であり、国庫をリマさんへの贅沢品に費やす愚行ぶりに王国の重鎮たちは頭を抱えていた。


 リマさんが慈善行為だと思って行なっていることは、現実にはどうであるのか。彼女の豪遊よりも優先すべきものは何なのか。国の中でいかに苦しんでいる人たちがいるのか。

 次期国王としてそれをハッキリとさせなければなりません。


 しかし、これがなかなか予定が合わず、彼の時間を抑えることに時間がかかってしまいました。


「ユニ、準備は出来たのか?」

「ええもちろん。今日もよろしく頼むわね、オズウェル。」


 護衛にはオズウェルを筆頭とした騎士団の数名が付いてくれている。

 なんだかオズウェルと一緒のことが多くて、彼は私の専属か何かなのかと勘違いしてしまう。


「ユニさーん! お久しぶりでーす!」


 ぶんぶんと手を振って声をかけてくるのはダァくんだ。彼も今回の護衛に付いてくれている。2人がいるだけでとても安心だ。


「シエとエドワードさんが結婚なんてことになったら、ボクたち晴れて親戚ですよ〜!」

「そうだとしても随分先のことだわ。良い? 決まってもいないことを言いふらして回るのはやめなさいね。」

「勿論、そんなことはしませんよ。心外だなぁ。」


 ダァくんは相変わらず犬のようで、嬉しそうなオーラ全開だ。いつからこんなに私に懐いたんだっけ?


 そして、オズウェル。じっと睨まないで頂戴、怖いわよ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 私たちは王城にリューク殿下を迎えに行き、歩いて街の様子を見る。勿論、私たちの警備は厳重だ。


「殿下、市場を見て何か気づいたことはありますか?」

「以前視察した時よりも総じて値は上がっているな。」


 以前の視察時の値を覚えているし、それよりも値が上がっていることには気付けるのね。

 それすら気づくことが出来ないと思っていたけれど。


「ええ、そうです。ベネダ家の横暴による被害と言えましょう。」

「ふん、これだから成り上がりは。しかし、値が上がっても活気があるのはリマの聖女としての活躍のおかげだな。」


 殿下が満足気にふっと笑う。


「ベネダ家の横暴は、元はと言えばリマさんの要求によるもので、活気の要因も市井の方々が努力をしてくれているからです。」


 私はムッとしながら殿下の言葉に異を唱えた。

 殿下は、リマさんを批判されたことで瞬時に私を睨みつける。


 しかし、私は事実を言ったまでだ。


「リマを侮辱するなと何度言えばわかるのだ!!」

「今回の視察は、殿下にこの街の現状を知って頂くことが目的です。私が真をお伝えしなければ視察を行う意味がありませんので、怒らないで頂きたいですわ。」


 相変わらず、すぐ激昂する。

 それに対して怒りを示しては拉致があかないので、私は感情を鎮めて冷静に殿下へ言葉を投げつけた。


「そ、そんなことはわかっている!」


 怒らないでと言ったのに、また怒鳴られた。


「そもそも、リマさんが来たことで国がプラスに働いているのなら以前より貧困層が少なくなっているはずですよね?」

「あぁ、リマが聖女として活躍することで人々に希望を与え、活力が生まれているはずだ。」


 私たちは、先ほどの賑わいのある市場を少し曲がって路地に入る。

 賑わいが急になくなり、街並みが貧しくなる。道の端にはゴミが散らかり、子どもの服もツギハギが見えている。


「なんだ、これは……スラム街がここまで広がったのか?」

「スラム街ではありません。ここは一般市民の住む住宅街です。これがこの国の市民たちの通常になってしまっているのです。」


 日用品の高騰により自分たちの暮らしで精一杯になり、他に気を配る余裕がないため見えない通路は汚くなっていく。衣類関連のものが通常時の値段より何倍も高くなっているため、新品を買わず壊れても修繕しツギハギの状態で使うようになった。


 そうした悪循環の結果が、オルドロフ様のような悲劇を生んでしまったのだ。


「一般階層の人々がここまで貧しくなっていることに対する危機的状況はわかりますよね?」

「あぁ。しかし、ベネダ家が捕らえられたのだから貿易に関しては少しずつ戻るだろう?」


 何もわかっていない。

 いや、これを見せただけではまだ魅了状態の彼には理解するに至らないだろうか。


「スラム街へ行きましょう。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 スラム街へ移動すると一般市街より遥かに、そして以前よりも酷くなっている。


 人々の服装はボロボロで、家と家の間の奥には死体が転がり、街の匂いはとてもじゃないがまともな顔ではいられない。ぐっと顔を顰めてしまう部分がある。


 アレグエッド王国は城壁により街の区分が分かれている。王城の外に暮らす貴族街、その外が一般市街、そして更に外がスラム街だ。ただ、スラム街は正門とは逆にあるため外部から来た人々の目には触れないようになっている。


「これが、今のスラム街……こんなのはゴミ溜めの場所だ、人の生活できる場ではない。」

「よく分かっていらっしゃる。国のことを考えるべき人間が国庫を使い贅沢をした結果です。」


 私のこの言葉には、リューク殿下は一切口答えをしなかった。流石にここまでの酷い状況を見れば少しはわかったのだろうか?


「国の現状はよく分かった……しかし聖女の望みを叶えることも国の使命ではないのか。」

「この期に及んでまだそのようなことを……更にこの状況を悪化させる気ですか? 良いですか、殿下。この光景を目に焼き付け、そして豊かにする策を練る。それが貴方の、そしてこの国の最優先すべきことです。」


 そう殿下に話しているうちに、目的の場所に着く。


 私たちが訪れたのは、スラム街の一画にある施設だ。「サンブルグ孤児院」というスラム街の中では2番目に大きな孤児院である。そこは、国からの援助に加えいくつかの貴族の支援で成り立っている。


 ただ、受け入れ人数もそれなりにいるためギリギリの生活を強いられてしまっているのが現状だ。


「ここは、以前と変わらぬようだな。」

「この孤児院にはリマさんが寄附をされているようですね。」

「リマの寄付している孤児院はここだったか! やはり、彼女は思慮深いのだな。彼女の行いは極めて良いものではないか、ユシュニス・キッドソン公爵令嬢。」


 リマが善行を行なっているとわかり、リューク殿下はあからさまに再び私を敵視し始める。


 これだからバカは困る。

 自身が少しでも強く出れるところだけを見つけて上から強く物を言う。その割には何も言えない状況になると急に大人しくなる。


 わかりやすい部分にしか噛み付かないなら一生黙ってろ、煩わしい。


「何も考えず多額の寄付金をこの孤児院だけに渡しているのに、むしろ現状維持しか出来ていないなんてあり得ないことだと気づかないのですか? なんと愚かな。」

「な、誰が、誰が愚かだと! いい加減にしろよ、小娘!!」


 殿下が私を殴ろうとするが、すぐにオズウェルとダァくんがそれを止める。


「リュドリューク殿下、女性を殴るのは如何なものかと思います。」

「わかっている! 脅かしただけだ!」


 リューク殿下は、ふんっとオズウェルに掴まれた腕を振りほどく。

 私の前に割って入ったダァくんは、クルリと振り向いて私の耳元に顔を寄せた。


「ユニさん、めっちゃ煽りますね! ボクそういうの嫌いじゃないです。」


 そう囁き、彼は少年のようケタケタと笑った。


 2人がしっかり守ってくれるという安心感を得て、多少言い過ぎても大丈夫かもしれないという謎の自信を得る。


「殿下、普通ならば分配して寄付すべき額を一つの孤児院に渡しているのです。それだけあって元の状態より良くなっていないというのは、それを嗅ぎつけた他のスラムの人間に金を無心されたか、院長たちが着服しているかのどちらかでしょうね。寄付をするならするで、もっと考えて行うべきです。」


 ただ、寄付を行なっているという点に関してだけ言えば賞賛に値することであった。

 口では何とでも言えるが、それを行動に移せる人間は少ない。事実、寄付を行う貴族たちの割合がどれだけのものかを考えると、それは多いと言えるものではなかった。


「まぁ、今回の視察で多少現状がわかって頂けたのなら良いのですけれど。」


 今日は孤児院の中まで視察をするつもりはないので、私は踵を返して再びスラムの道を歩き出す。


 すると、小さな子どもたちが数人わらわらと私に寄ってきた。


「ごはん……ごはんちょうだい?」


 服装からもそれなりの富裕層だとわかるからか、そして群がっても無駄だとわからない子どもたちが私に群がることは当たり前と言えるものだった。


「私から直接渡せるものはありません。もう少しすれば配給が行われるでしょう、そちらに向かいなさい。」


 私は、しゃがみ込んで子どもたちと同じ目線で話しかけるが、子どもたちは分からないというように顔を見合わせた。


 しかし、ここでこの子たちにお金やら食糧やらを渡したら周りの人たちも集り出す。キリがなくなる。

 そして、それが可能なのだとスラムの人たちがわかって仕舞えば、また貴族へ集る。それが習慣化してしまえば、それで良いのだと浸透してしまい強奪さえ生まれる。


「ユシュニス、なぜ彼らを助けない。目の前にいる困っている者たちを助けることからこそ、救いは始まるのではないか!?」

「目先のことだけを考えた施しは何の解決にもなりませんので。行きますよ。」


 私が子どもたちから離れようとすると、リューク殿下はごそごそと懐を探り始めた。


「何をしているのですか、殿下。」

「金を施すのだ! 困窮しているものを見過ごすことが王の役目か!」

「!? おやめください! こんな場所で渡したところで強奪が生まれるだけです!」


 私が先ほど懸念したこともあるが、弱者である子どもたちにここで食料や金銭を渡しても、私たちが去った後でスラムの大人たちに奪われるだけだ。


 だったら、配給先の国の監視下にある場所で安全に食物を食べるべきだ。その場所への案内は、同行している騎士の1人にでも任せれば良い。


 わざわざ、私たちがゾロゾロと列になってすることではない。


「ええい! お前もリマの善行を手本にし、救済を行なったらどうなんだ!」


 私が殿下の手を握りそれを制しするが、ドンっと突き飛ばされ失敗に終わった。

 突き飛ばされた私は、オズウェルが受け止めてくれたので無事だったが、安くない額の硬貨は子どもたちに渡ってしまった。


「あぁ、なんてこと……。」


 結局、殿下は現実を見たところでリマの幻影から逃れられず、国の未来を見据えて行動など出来なかった。


 私は、余りにも殿下に期待しすぎていたらしい。

 彼が正気に戻れば優れた国政を行えるだろう、と熱心に勉強していたあの姿に私こそ幻想を抱いていたようだ。


 子どもたちは嬉しそうに笑顔を浮かべるが、それを見ていた周りの大人たちもわらわらと寄ってくる。


「俺にも……俺にも寄越せ!」

「私にも赤ちゃんがいるの!! 金を、金を!」

「施しだー! 金だー!」


 ぷつん、と何かが切れたようにどっと人々は殿下を取り囲み群がる。


「な、なんだお前ら! やめろ!! おい騎士共、こいつらをどうにかしろ!!!」


 騎士たちは貧困層の人々を次々となぎ倒し、捕らえて行くため殿下へ大した危害は加えられず服が多少汚れた程度で収まった。

 しかし、殿下はさも被害者のような表情を浮かべる。


 1番の被害者は彼ら貧困層の人々だ。

 ここではすべての人々が、自分が生き残るために毎日戦いの日々を過ごしている。

 国も孤児院の設立や配給などを行なっているが、勿論それではまかない切れない上に、現在の国の状況ではそれらも以前より規模が小さくなり貧しくなっている。


 その元凶こそが、リマさんや殿下たちの横暴なのだ。


 そして、殿下が無責任にも金銭をチラつかせ、生きるためにそれを欲しがったがゆえに騎士たちに捕らえられる。


 全てが殿下のエゴのせいでしかない。


 そうして、その行動はただただ貧困層の不満を募らせただけであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 護衛に付いていた騎士団がその場を収め、私たちは城へ戻り部屋にいた。


 結局、奥の手として殿下に魅了状態を解く薬の入ったお菓子を食べて貰うことになった。

 殿下が倒れることになり、事情を知らない者は大騒ぎするので、お兄さまの時とは違い奥の手として使う術としていたが、結果としては使わざるを得ないと判断した。


 倒れることに関しては、常日頃の疲労ということにしよう(一体何の疲労だというのか)


「今日はお前のせいで酷い目にあった。」


 殿下は腕を組み、ちっと舌打ちをする。


「それは申し訳ありませんでした、殿下。市井で人気のお菓子をご用意致しましたので、それでも食べて落ち着いて下さいませ。」


 そのお菓子というのに薬を混ぜ込んである。

 お菓子は小包装してあるので、毒か何かが入っているだろうと疑われはしないだろう。


 市井で人気と言ったが、ただうちのパティシエに作らせたものを包装しただけである。


 殿下は「うむ。」と何だか大人しく頷いて、お菓子を手に取り口にした。


 まさか、こんなにも上手くいくとは思わず拍子抜けだ。


「うむ、美味いな。」


 だが、殿下は一向に倒れる様子もなく、ムシャムシャとお菓子を頬張った。


 薬が入っていないのか……? いや、まさか、私自身作られる過程をしっかり見ていた。


 ではなぜ……もしかして、そもそも魅了状態にかかっていないのか?


「殿下、今は私が婚約者だという事実は置いて、いくつか質問に答えて頂いてもよろしいでしょうか?」

「質問にもよるが、何だ。」


 リューク殿下は腕を組んで私の問いかけに応じる。


 現在、この場には私とリューク殿下、そして護衛としてオズウェルがいる。

 侍従はお茶の用意をした段階で事前に部屋を出て貰っていた。扉の外ではダァくんが警備をしている。


「殿下は、リマさんに愛情を抱いているということで間違いはありませんか?」

「あぁ、そうだ。」


 婚約者であることを置いて良いとは言ったが、余りにも配慮のないストレートな答えに一瞬眉をひそめてしまう。


「そうですか、ではいつからそう感じたのでしょう。それは唐突なものではありませんでしたか?」

「いいや、唐突なものではない。初めは馴れ馴れしい女だと思ったが、話すうちに心が癒され徐々に彼女に惹かれたのだ。」


 唐突ではない……?

 彼女の魅了を受けたものは、いつのまにか彼女の存在に心が支配されていたと言うのに?


 最悪のシナリオかもしれない。

 もしかしたら、殿下は……。


「そろそろリマのところに向かわねばならない。今日、視察に付き添ってくれたことには感謝を述べる。」

「お待ちください、殿下! もう一つだけ、もう一つだけお聞かせください。」

「何だ、手短に質問を言え。」


 殿下はあからさまに苛立ちを見せるが、これを聞かないことには私の考えに確信が持てない。


「リマさんの側にいる時、強い匂いを感じたことはありませんか? ふわりとした匂いではなく、鼻の奥を突くような匂いを。」


 魅了されていたものに共通して感じていたものは、リマさんの側で感じる匂いだ。

 それを嗅ぐと意識が別の人格に支配される感覚になり、いつしかリマさんの虜になっている。


 私は彼女から、女性らしいふわりとした匂いしか感じたことがなく、強い匂いをは感じたことがない。

 その匂いを例えるならば、花の匂いを更に強くしたものらしい。


「いや、特にそのようなものを感じたことはない。では失礼する。」


 そう一言残して、殿下は部屋を出て行った。


 その言葉で私は確信した。彼は魅了状態にかかっているわけではなく、本当にリマ・ベネダに愛情を抱き、心の底から彼女を喜ばせるために愚行を行なっているということを。


 彼をリマ・ベネダから解放することは不可能だ。

 彼は堕ちるとこまで堕ちてしまっていた。


 私は、リュドリューク・アレグエッドを救うことを諦め遂に最終手段を決意した。


久しぶりに7000字近く書いてしまいました!長い!!!

誰よりも救いようのない王子のお話でした。


この後は、この事件の真相解明まで一気に加速する感じになります。みなさま最後までお付き合い下さい。

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