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婚約破棄、しません  作者: みるくコーヒー
第二章 たたかいのはじまり
13/38

黙ってください


『びぇえええええ!!!』


 少女は森の中でペタリと座り込んで泣いている。いや、森と言えるのだろうか……彼女の周りは殆ど破壊されてしまっている。焼けて、折れて、崩れて、酷いという言葉以外に何と言おう。


『酷い有様じゃなぁ……原因はおぬしか、娘よ。』


 突然の声かけにビクリとして、少女は眼前の黒い髪と瞳を携えた美しい青年を目を丸くして見つめた。

 しかし、3秒ほど見つめてまたすぐに泣き出す。


『おろろ、人の子よ。もう泣くのは止してくれぬか? 森がなくなってしまう。』


 青年はわたわたと慌てて、どうにか少女を鎮めようと声をかけた。

 だけれど、その泣き声は止まない。声に呼応するかのように森の破壊は進んでいく。


『おぬしの悲しみは、一体なんじゃ。』


 青年は少女の頬に伝う涙を拭いながら問いかける。

 

 私の悲しみは……。




「ん、んん……。」


 パチリと目を覚ます。

 見慣れない天井が視界に広がった。


 いや……良く見たら見慣れた天井だ。

 いつも仕事で嫌と言うほど見ているアレグエット城の天井で間違いないだろう。


 それよりも『サシャ峠要塞奪還作戦』はどうなったのだろう。あのとき倒れて、それで……ずっと眠ったままだったのだろうか?


 むくりと身体を起こす。

 特に身体が痛いわけでも重いわけでも無いのが不思議だ。まるで何も無かったかのように……なぜ私は倒れたのだろう。


 ちょうど良くガチャリと扉が開く。


「おやおや、様子を見にくればタイミングが良いですねぇ。」


 現れた人物はライオットさんだった。

 私とは倍近く歳が離れているので雰囲気から余裕さが感じられる。


「一体、何が……作戦はどうなったのですか?」

「こちらの圧倒的勝利に終わりました。キッドソン家には感謝の限りです。」


 言葉を発しながら、コツコツとライオットさんはこちらへ近づいてくる。そしてベッドの側まで来たところで「はい」と書類を渡してきた。


「あ、あの……これは?」


 私がいきなりの事に戸惑いながら、おずおずと問いかけると彼はわざとらしくニコリと笑みを浮かべた。


「もちろん、今回の戦争に関する書類ですよぉ。3日も眠り続けていたので、仕事はたんと溜まっていますからねぇ。」


 いや、鬼かっ!!


 内心で、どうしようもなく叫んでしまう。


「いや、あの、何が起きたのか未だに理解出来ていないのですが……一応私も目覚めたばかりで、病人と言いますか、えっと。」


 目覚めたばかりで頭がグルグルと混乱しているためか、上手く言葉を伝えることが出来ない。


「大丈夫ですよ、すぐに治癒魔導師も寄越しますし。その机の上に今回の戦争についての概要資料がありますので、読めば大方理解出来ると思いますよ。」


 ベッドの横にある小さな机を見れば、そこにはトンと十数枚程の紙が置かれていた。


『サシャ峠要塞奪還作戦について


 開始時刻から、おおよそ1週間で終結。


 アレグエット国

 死者 134名

 負傷者(軽・重傷者) 1563名


 絶対王政主義国家ルジエナ

 死者 約250名

 負傷者(軽・重傷者) 約1000名

 破壊機械兵数 約2000体


 また、此度の支出においては5頁に記す。』


 手にとって最初のページを見てみると、今回の戦争についての内容が記されていた。


 死者も比較的少なく抑えてはいる。

 そして、敵国であるためおおよその数値でしか測れてはいないが、ルジエナにとっては防衛戦だったために機械兵への被害が圧倒的に多い。


 だが、機械兵とて作る場合も輸入する場合にも多額の金がかかる。これだけ壊されてしまえば相当の痛手であろう。


「もちろん、全ての報告を読んで私が作成致しましたので、ミスは無いと思いますよ。」

「流石ですね、ライオットさん。」


 しかし、出来れば日を改めて欲しかった。

 せめて1日……いや半日、頭を整理する時間が欲しかったが。


 どうも頭がポーッとするのだ。

 きっと起きたばかりで、ずっと寝ていたからなのだろうが。


「それでは頼みますよ、ユニさん。」


 ライオットさんはクルリと私に背を向けてドアへと歩く。そして、そのまま部屋を出て行った。


 残されたのは私と大量の書類。

 ……はぁ、また書類整理の地獄だわ。


 渡された書類を脇に置いて、先にライオットさんがまとめた戦争についての報告資料に目を通す。


 全体概要の次にどの部隊にどれ程の怪我人がいるかが示されている。元々の所属人数が多いこともあるのだが、やはり騎士団と魔法師団の被害が大きい。


 次に支出についてだ。

 何にどれだけ使っているか、また物資をどれほど使ったかも記されている。予定よりも大幅に支出を抑えられているので、一先ず金銭への心配が減った。


 その次に、開戦から終戦までの流れ。

 目で追って行くと、第1陣地の部分の記述で私が倒れたことが記されていた。


 そこからオズウェルが私を本部へ連れて帰ってくれたことも記載されている。あの声は、幻聴ではなかったということか。


 しかし、どこにもあの少女のことは記されていない。いや、もしかしたら私の思い違い……夢か何かと混ざっている?


 いや、今はそれよりも把握が先だ。


 私が倒れたあと、第1陣地はすぐに落とされたらしい。それと同時にサシャ峠要塞と第4陣地に各々の部隊が派遣され、陥落したと。


 とりあえず概要は分かった。

 処理すべき書類を見る、中々に面倒そうだ。


『物資・貿易関連』

『魔道武器の修繕要請書』

『各団からの軍事費要請書』


 書類の処理がめんどくさいこともあるが、何と言っても関わらなければならない人たちを考えると面倒なのだ。


「ん、これは……。」


 『七雲島調査隊』という文字が目に入る。

 そうか、人選が任されていた。


 東国より頼まれていた、七雲島への人材派遣。

 これに関しては私が請け負っている。東国の外務の人たちとやり取りをしているのがキッドソン家だということが理由だ。


 キッドソン家の日頃の政務は『外交』である。

 もちろん全ての国と、という訳ではないけれど。


 だから外との人脈も濃いキッドソン家は、この国での地位が揺るぎないものである。まさに敵なしとはこのことか、と思ったことがあるのは仕方のないことでは無いだろうか?


 この国には優秀な者は多くいる。

 その中で調査隊員を選ぶとなるとこれまた迷う。


 偏りすぎも良くないというものだ。

 後でアシュレイにでも相談してみようかしら。


「あ、あの、失礼致します。」


 静かに扉が開き、そろりと全身が白で纏われた少女が入ってくる。


「えっと、ライオットさんに、お目覚めになったという知らせを賜りました。お加減は如何でしょうか……?」


 少女は、おずおずとこちらに近づいてくる。

 私はニコリと笑みを浮かべた。


「痛みなど、特にありませんわ。ミシェルの治癒魔法は完璧ですもの。」

「そそそ、それは、買い被りすぎというものです!!!」


 彼女は、ミシュメール・トリドリッド。

 治癒魔導師としては高位である『聖職者(プリースト)』の称号を持つ。


 『聖職者』よりも高い地位なのが『聖女』である。今は、リマさんが『聖女』の称号を得ているわけだが神に遣わされた聖女が現れない場合は、神殿側が『聖女』を定める。


 その2つの『聖女』は、『聖女』でありながらも全く別物であるが。

 そして、リマさんが来る前に『聖女』であったのがミシェルである。


 しかしながら、私よりも1つ年が上のはずなのにどうも年下に見えてしまう。

 それはきっと身長のせい。そして可愛らしさの差ね……どうして私の顔はキツめなのかしら。


 私だって可愛いと言われたいっ!!!


 失礼、ミシェルを見ていたら、つい取り乱してしまいましたわ。


 年上なのに敬称がないのは彼女に強くお願いされたからである。どうしても断れなかった不甲斐ない私を許して下さいませ。


「ミシェルも疲れていらっしゃるでしょうに……。」

「皆を癒すことが私の務めです。自身の仕事を怠ってはなりませんから。」


 その言葉をあの女に聞かせてやりたいわ。


「ならば、私も自身の仕事に精を出さねばなりませんわね。」


 そう言って、私は書類へと手を伸ばすがミシェルがもの凄い早さでそれを取り上げた。


「ダメですっ!」


 ミシェルは、ふんすっ! と鼻息荒く叱るように声をあげた。


「病み上がりは寝ていて下さい! この資料は一旦お預けですっ!」


 彼女はそう言いながら、書類を私から遠い机に置いた。


「……わかったわ、安静にするから怒らないで頂戴。」

「お、おおお、怒ってなどいません!」


 ブンブンと懸命に首を振る。それが、何だが可愛らしくてクスリと笑ってしまう。


 まあ勿論、彼女がいなくなったら仕事をするのですけど。


「ちょっと、ここを通しなさい!」

「ユシュニス様は目覚めたばかりです。今日のところはお引き取り下さい!」


 ドアの向こうから不穏な声が聞こえてくる。

 ああ、嫌だ、誰かこれは幻聴だと言って。


「外が騒がしいですね、一体何の騒ぎでしょう?」


 その直後に、バン! と扉が開く。

 ミシェルが驚き、ひぃあぁあぁあ!と 叫び声を上げて私の後ろへと隠れる。


 私の予想通り、そこに居たのはリマさんだった。


 彼女は入ってくるなり、キョロキョロと辺りを見渡す。そうして、探しているモノが見つからないと分かると、私に向かって鬼の形相を向けて来た。


 ミシェルはそれを怖がり私の腕をキュッと掴んでくる。


「どこに隠したの!?」

「はあ? 一体なんの話ですか? 突然入ってきて、失礼にも程があります。」


 私の言葉に全く耳を貸さずにズンズンと近づいてくる。


「この部屋に黒髪の美形の男性がいたはずです!」

「そんな方はいらっしゃいませんわ。お願いだから近くで喚くのやめて頂けます?」

「嘘よ! さっき庭で、そこの窓から覗いていたのを見たんですもの!」


 全く人の話を聞かないわ、この人。

 キンキンと彼女の声が頭に響く。病み上がりに彼女の声はうるさすぎて仕方がない。


「先ほどライオットさんが来ただけです、お部屋をお間違えではないですか?」

「そんな訳ないわ!」


 私の言葉に、リマさんはさらに声を荒げる。

 いやはや、どうしてここまで疑念を向けられなければならないのだろう。


 それに黒髪の美形だなんて曖昧な表現では事実居たとしても分かりかねる。

 彼女の美形の基準もわからないし、黒髪だって言うほど珍しいわけではない。そうして名前も知らなければ口ぶりから知り合いでもないのだろう。


 なにを求めて、その人物を探すのか。不思議でたまらない。


「とにかく、この部屋には今ミシェルと私しかいません。見たら一目瞭然です。それとも何か? どこかほかに隠れる場所があるとでも?」


 私の言葉に対して、彼女は必死に返す言葉を探して部屋を鋭い目つきでギョロギョロと探す。

 しかし勿論部屋のどこにも人が1人隠れるような場所などなかった。


「どんなに探しても、クローゼットなどありませんし、人が隠れられるほど大きなテーブルもございません。カーテンの裏はこれだけ日が差していれば影が映るでしょうし、この高さで窓から出ていくおバカさんもいらっしゃらないわ。何か、反論でも?」


 リマさんはグッと口を噤んだが、何かを見つけてニヤリと笑う。

 そうして私の足元をビシリと指さした。


「ベッドの下に隠れているのですね! そうに違いないわ!!!」


 嬉しそうな明るい声が耳に嫌でも入って来る。

 その声の所為で気分は最悪だが、私は愉快だという風にコロコロと笑ってみせた。


「あらあら、随分と面白いことを言うのねぇ!」


 私はベッドの外側を覆うように垂れ下がっているシーツの裾をつかみ上へと持ち上げる。


「ベッドの下には隠れるような隙間はないわ、残念ね。」


 私が手を放すと、ハラリとシーツは空しく落ちて元の様子に戻った。

 リマさんも自分のあてが外れたことで、口を開けたまま唖然としてた。


 しかしすぐに悔しそうな表情へと移り変わる。

 これだけ主張しても彼女は未だに諦めてはいなかった。


 大事な人がこの部屋にいるような口ぶり。

 それと会えないことがまるで『全て私の所為だ』とでも言っているみたいだ。いや、みたいではなく事実であるのだろうが。


 つまり、どうしても私を悪者にしたいらしい。


「ま、ほう、魔法を使ったんだわ。魔法だったらなんでもできるもの。」


 それは私に対しての嫌味だとか皮肉だろうか?

 ひくりと顔が引き攣るのが自分でもわかる。


「私が魔法を使えないことを知っていて、おっしゃっているのかしら? つくづく性格の悪いお人ね。」

「な!? ひ、酷い!」

「あぁ、失礼。つい口が滑ってしまったわ。」


 愉快、愉快。

 リマさんは下唇をぎゅううと噛んでいる。いろいろと言われて相当悔しさや怒りが募っているようだ。


 お美しい顔がどんどん崩れていく。これでも彼らは可愛いなどと褒め称えるのかしら?


 酷いなんて言葉、私が使いたいくらいよ。

 魔法だったら何でも出来るですって? そんな甘い世の中がどこにありますか。


 何でも出来るような魔法を扱えるのは、ほんの一握り。私のように魔法が使えない人だっている。

 それに、どんな素敵な能力があっても、便利な世の中になっても弊害は生まれる。


 彼女は、わからないのだろうか。どこにも万能な力なんて無い。


「後ろの女が協力したんじゃないんですか! ねえ!?」

「いい加減にしてください!」


 ミシェルがぷりぷりと怒って私の前に出ていく。


「人を隠せるほどの空間魔法なんて持っている人が、そうポンポンいる訳ないでしょう!? 大体、そもそも先天的な魔法で数人しか覚えないようなものを、人を隠すだなんて高度なスキル……魔法をバカにするのも大概にしたらいかがですか!? 私は治癒魔法を極めるので手一杯なんです! そもそも貴方、聖女なんだったらもっと聖女らしく他人を救って差し上げたらいかがですか? 一体何のための聖女ですか、聖女として正しき行動をすべきです!」


 ミシェルは先ほどの怯えなど一切無いかのように振る舞う。

 が、その効果は彼女にはあまり見られない。


「は……? 私は、リューク殿下たちの心を救っています。それに、貴方はどなた? 聖女に口答えするなんて、身の程を弁えたらどうなのですか?」


 彼女は自信たっぷりというようにミシェルへと言葉を吐く。ミシェルの聖女への印象は一気にガラガラと崩れ去った。


 いいや、既に壊れていた。しかし、今この瞬間をもって綺麗に跡形もなく崩れ去った。


 ミシェルは力なく後ずさって私の隣にストンと座った。


「こんな人に、私は……。」


 幼い頃から守ってきた聖女という地位は、彼女にとっては想像以上に大きなものだった。

 聖女として認められる存在になるために、人一倍努力した。


 だから、その地位を誰かに渡すのは至極虚しく、心のどこかにポッカリと穴が空いたような気分に陥った。


 だが、聖女が現れたと聞いた時誰よりもワクワクしたのも彼女だった。


 自身とは違う、神の使いとして遣わされた存在。真の聖女。信仰する者の使いに会いたくないわけがなかった。


 しかし、実際の評判を聞いてみれば驚くほどに酷いものだった。そうして今、直接対峙してみれば、このような者のために必死に守り抜いてきたものを渡さねばならないなんて、自分が随分馬鹿げた人間に思えていたのも事実だったのだ。


 ミシェルは明らかに気を落として俯いている。


「聖女として、まるで正しい行動をしていないのに、よくそのような偉そうなことが言えますわね。今回の戦争の際にも、何の役にも立たなかったそうではありませんか。むしろ、邪魔になっていたとか……。正しいことの判断も出来ないような脳みそなんて、捨ててしまいなさいよ。」

「あ、あなた「わかっていらっしゃらないのですか?」


 勢いよく言いかけた言葉をバサリと遮り、私は言葉を重ねた。突然のことに、リマさんは言いかけている途中の言葉の口型のままで止まる。


「戦争中に、また邪魔をするようなことがあれば今回のように……いいえ、それ以上の罰を受けるということです。あら、勘違いなさらないで? 私は貴方のことを心配して申し上げているのよ? 賢い貴方なら、わかって頂けますわよ……ねぇ?」


 皮肉を交えながら、悪びれるような素振りも見せず、少なからず貴方を評価しているのよ〜というような言葉も添えて差し上げる。


 そうすると、やはり人というものは強く出れないようで。「そ、そうね……。」なんてモゴモゴと言う。


「ここには、貴方の探している人はいらっしゃいません。先ほど目が覚めたばかりで、まだ頭がぼーっとしますの。()()()()()()()()、どうか今日はお帰りください。」


 私は背筋を伸ばし、凛とした声で告げる。

 これの一体どこがぼーっとしているのだろうか。


 しかし、彼女は何も疑うことなく、ただただバツの悪そうな顔をする。


「そう、ですね。また、別の機会にお伺いします……。」


 もう来なくて良いわよ、むしろ来ないで頂戴。なんて心の中では思いつつも、「ええ、そうね。」と笑みを浮かべる。


 彼女はそそくさと部屋を出ていった。


「バカで良かったわ。」


 心の底からの声が零れた。

 それから隣を見ると、ミシェルも私の視線に気づいてこちらを見た。


「なんだか、もう、嫌になっちゃいますね。」


 あはは、と乾いた笑いを発する。


「私は、貴方の思ったことも言ったこともおかしいとは思いませんけれど。貴方は貴方のすべきことを、正しいと思うことを行なっていれば良いのです。」

「……きっと、神は見てくださっていますよね。」


 私の言葉に、ミシェルはコクコクと力強く頷き自分の中で納得したようだ。

 それから、いつものような明るく可愛らしい笑みを浮かべた。


「神殿に帰ったら、神官長様に怒られてしまうかも。」


 ミシェルは神殿にいる神官長のことを思い浮かべて、少し眉を下げて力無く笑いながら肩をすくめた。


 私はというと、視界の端に見える大量の書類に嫌気を感じていたのだった。




 ーー時は、ユニが目を覚ます少し前に遡る。


「みんな、仕事だなんて……。」


 私は聖女なのよ!!! とリマは憤慨していた。勿論、その気持ちは表に出さないが。


 あくまでも、皆がいなくて寂しいというように言葉を紡いだ。


 そもそも、聖女だというのに外出禁止という罰を受けたことに対しての怒りがおさまっていなかった。

 だから、憤慨するような気持ちは常々増していくばかり。


 あれから、未だに満足にみんなに会えていない。それに、みんなの好感度はMAXに近いはずなのに、逆ハーエンドはまだ先なの? なんて難しいゲームなのかしら。


 ていうか、そろそろ隠しキャラも出て良いんじゃない?


 庭で、ふんっとベンチに座り気まぐれに上を見上げた時に彼女は見つけた。


「いた……。」


 それは彼女の中の隠しキャラにピタリと当てはまっていた。黒い髪にキリリとした目。

 バチリと目があった。彼は窓から私を一瞥すると部屋の奥へと消えた。


 あれはヤンデレ属性かしら!? いや、冷酷ドS系?


 でも、確実に私のこと見てた。


「行かなきゃ!」


 どんどん気持ちが加速していく。彼のいた場所へと瞬時に足が向いた。


 彼女には不思議なことにまるで根拠のない自信が満ち溢れている。


 待ってなさい! 私のイケメン!!!

 すぐ攻略してあげるんだから!


 その数十分後に、迷いながらも辿り着いたその部屋で不快な思いをするなんて、彼女は微塵も考えていなかった。




さて、久々のリマとユニの絡みですが、書き終えたら8000字超えてました、驚きですね!

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