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婚約破棄、しません  作者: みるくコーヒー
第二章 たたかいのはじまり
12/38

終幕しました


「ああ、心配だわ。」


 狼に乗って、第1陣地へと戦場を駆け抜けていく。私は、自身がこの戦場に身を置いていることへの不安で胸がいっぱいだった。


「ユシュニス様、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ、こちらのことは気にしないで頂戴。」


 とはいえ、私を気にしない人などここには誰1人としていないだろう。

 それは単に、私がキッドソン家の令嬢だからでは無い。魔法も剣も扱えず、戦うことが出来ないからだ。


 では、何故お父様が私を前線へ出したのか。

 それは、私が精霊魔法を使えるからだ。いや使えると言うと語弊がある。細かく言えば私が意識して使用しているわけではない。


 第1陣地へ向かう部隊は、精霊魔導師を中心とした部隊である。ただ、この部隊には1つ欠点がある。


 それは、指揮する者がいないということだ。


 基本的に精霊魔導師は、騎士団や魔導師団のように一つの軍隊としてあるわけではない。通常は、世界中を旅してまわったり、主にギルドでの仕事をして生計をたてている。それというのも、精霊魔導師は魔力が多く必要であり、魔力があったとしても精霊と波長が合わなければ精霊魔法を使うことは出来ないため、世界的に見ても人数がかなり少ないのだ。


 戦争などの際は招集がかけられるわけだが、大抵は魔導師団や騎士団などの部隊に少しずつ分けて部隊に配属させる。しかし、今回はそうはいかない。


 第1陣地は、周りと比べて突出して魔導障壁が強力にかけられている。

 それほどに落とされたくない陣地だと目に見えてわかる。


 精霊は、魔法の源のような存在だ。

 それは『人が扱う魔法』の上位のモノである。


 精霊魔導師は、そんな精霊を操り魔法を使用すると言われているが、操るという表現よりは力を借りているという表現の方があっていると思う。


 そうして、障壁へと精霊魔法をぶつける方が人が使う魔法をぶつけるよりも明らかに脆くなる。


 だが、指導者がいない。そこで私が選ばれたということだ。

 以前に1度だけ前線に出たことがあるのだが、今回と同様に指導者がいないためであった。あの時は、特に何の問題もなく終えることが出来たが……今回もそうであるとは限らない。


 その理由は、私の()()()()()……いや、一種の()()によるものだが。事実、体質でなく一般的には『病気』として認識がされている。


 前方に第1陣地が見えてくる。

 魔力を扱う場所には精霊が集まるのだが、魔導障壁は相当膨大な魔力を使っているようで、近づくに連れて精霊が増えていく。


 先ほど、『病気』と言ったが体質とも言ったのは理由がある。普通、精霊魔導師といえど契約を交わした精霊しか視ることは出来ない。


 だが、私のような体質を持つ者は精霊そのものを視ることが出来る。上位まで見れるか下位だけか、などの個人差はあれどその存在は希少である。


 だからこそ、何より精霊魔導師に向いているわけで、この『病気』を持つ者はほとんどが精霊魔導師となり、そしてほとんどが名を上げている。


「ユニ様、どういたしましょうか?」


 私の隣をついて走る精霊魔導師の女性が問いかけてくる。


「第1陣地より500メートル付近で攻撃を始めます、ただ相手側の敵もそれなりにいるでしょう。高位精霊の攻撃魔法を扱える者が先に出て、敵を殲滅します。それ以外の人は、2キロメートル付近で待機を。私の合図で、一気に障壁を破ります。」


 伝達魔法が付与された魔導機器を使って精霊魔導師たちに指示をしてから、本部にいるアシュレイへと呼びかける。


「アシュレイ、先程の私の指示は聞こえたかしら。」

【はい、聞こえました】

「なら話は早いわね、2つのグループに振り分けて頂戴。」


 私の言葉にアシュレイは【了解です】と短く答えて直ぐに通信を切った。


「ルジエナの障壁を突破するのは、我々全員の力を使いやっと……というところです。申し訳ないのですが、ユニ様をお守りする人を付けられるかどうか。」


 精霊魔導師の女性は、とても申し訳なさそうに言葉を発する。


「いいえ、私のことなど気にすることはありませんわ。ここは戦場ですから、どうにか自分の身は自分で守ります。」


 私はニコリと微笑むが、彼女の顔は一向に明るくならない。


 それは、私が精霊魔法すら使うことがままならないからである。

 剣も魔法も精霊魔法も……自衛の術がなに1つないことが問題なのだろう。


 私のこの『病気』は一般のソレとは違う。


 ここまでズルズルと引きずってきたが『病気』について説明しましょう。


 『魔力越膨枯渇症(まりょくえつぼうこかつしょう)』それが、私の病気の名前だ。

 越膨とありながら枯渇とはこれ如何に? という話だが、それにもしっかりと理由がある。


 まず、この病気にかかっていると魔法を扱うことが出来ない。それは、魔力が一般よりも遥かに膨大すぎるのが理由だ。


 膨大すぎるが故に『魔力枯渇症(まりょくこかつしょう)』と同様の症状が出るためにあのような名前が付けられている。


 『魔力枯渇症』は世界に100人も居ない珍しい病気だが、さらに『魔力越膨枯渇症』は10人いるかいないかという希少すぎる病気。


 だが、『魔力越膨枯渇症』は魔力を有り余る程に保有しているのでほとんどが精霊魔導師となるわけだ。むしろ、その道が天職とも言えるわけで。


 しかし、私の場合は勝手が違う。

 その病気にかかっている人の何倍も魔力量が多いためにそもそも魔力を扱えない。


 だから、精霊への魔力供給も一方的に私の魔力が喰われているに等しい。自身で制御出来ない分、もしも悪い精霊と遭遇したり、上位精霊に必要以上の魔力を喰われたら……。


 被害の規模を考えただけで恐ろしい。


 だが、私の救いは精霊に愛されやすいことだ。話せばわかってくれるし、良い子ばかりが集まる。既に親しい精霊も何人かいるわけで。


 契約はしないけれど。

 魔力を制御出来ないため、精霊魔導師にはなれないから。


【振り分けが終わりました、送りますので皆さんご確認ください】


 アシュレイが私たちに伝達魔法で伝えてから、振り分けをしたデータを送ってくる。


 相変わらず早いな、と私は関心をした。


「皆さん、準備はよろしいですか? 攻撃部隊は出撃してください。」


 私の合図と共に、攻撃部隊が突撃していく。

 精霊魔導師達が、ある程度第1陣地近づいたところで戦う音が聞こえてきた。


 しばらくした後で、空高く光が上がる。

 ある程度、敵を殲滅したという合図だ。それを見て我々も動き出す。そして、私たちが到着すると精霊魔導師は障壁へと攻撃準備をした。


「放て!!!」


 私の合図と共に、攻撃が放たれる。

 魔導障壁は、最初こそ弾いていたがこちらの魔力に耐えられず少しずつヒビを入れていく。


「あと少し……!」


 ピシリと音が鳴り、一気に全体にヒビが入りパリンとそれは割れた。


「割れた!」


 精霊魔導師達は歓喜の声をあげた。

 それから、ここからが勝負だと言うように目つきを変えて陣地の入り口へと駆けていく。


 ここから先は私が行っても足手まといだ。

 それにもう第1陣地は落としたと言っても過言ではない。


 だが、周りはまだ残党がいる。

 さてどう対処しようか……と考えていると目の前にに少女が現れる。


「!?」


 私は後ろへと身体を引いた。

 いつの間に、こんな近くに……? いや、そもそも誰なのだろう。敵にしては随分と容姿がかけ離れているし。


「ふぅん、これは確かに深刻なバグだなぁ。どうしたらこんな人間が出来上がるんだろう? 魔力調整ミスった?」


 少女が私を見つめて、首を捻りながらブツブツと呟いている。


「い、一体、何の話?」


 私が声を上げると、少女と私の目がバチリと合った。


「まあいいや、やっぱり壊した方が早いって。」


 突然、少女の手から黒いものが現れる。

 気づいた頃にはその手は私の胸あたりを触れていた。


 ドクン、と心臓が跳ねる。胸の奥から何かが這い出てくるような感覚。


「ゔ、ぐぅ……。」


 私は胸をグッと抑える。焼けるように、熱い。これは一体なんだろう。


「人間ていうのは脆い生き物だからね、それだけの魔力が溢れれば耐えきれないでしょ。」


 ドサリと膝から地面に倒れ込む、息が苦しい。必死に酸素を求めるが、苦しさは変わらない。


 目の前が暗くなっていく。


 気を失う前に、オズウェルが私を呼ぶ声が聞こえたような気がした。




「ユニ!!!」


 オズウェルは目の前でドサリと倒れたユニに急いで駆けて行く。


 そして、倒れこんだユニの元へ着いてからギッと少女ーーリドルのことを睨んだ。

 リドルは睨まれたことに対してムスッと顔を顰める。


「何? ボクは真剣に仕事をしてるだけだよ。」


 そう、彼女にとっては単にこの世界にある()()を修正しているに過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない。


 なんせ、それが仕事であるからだ。


 ただ、彼女は荒々しいのだ。とにかくバグは壊せば良いというのが彼女の思考である。


 それを修正する、という考えは彼女の中には殆ど皆無に等しい。それというのも『彼女がめんどくさがりである』という根本的な問題に原因がある。


 無論、例外というものもあるが。


「お前は誰だ、ルジエナの者か? ユニに何をした!!」

「ちょーっとちょっと、一遍に聞かないでよ〜……うるさいなぁ。」


 鬱陶しそうにリドルは両手で耳を塞ぐ。それから彼女も鋭い表情でオズウェルを見た。


「うーん、うーん……怒られちゃうかなぁ? でも、邪魔だしなぁ……まあいいか、始末書書けば許されるっしょ!」


 リドルは、ニッと狂気じみた笑みを浮かべてオズウェルへと突っ込んで行く。


 黒を纏った手がオズウェルを貫こうと素早く繰り出される。それを必死に避けて、彼は反撃のチャンスを伺う。


 お互いに距離をとって、構え直した。

 シン、と静寂が走る。


「!!!」


 オズウェルは何かに気づき、ユニの元へと駆け寄った。その直後に、ルジエナの機械兵が攻撃を放ってくる。

 オズウェルはそれを防いで機械兵を斬った。彼の剣の威力は絶大で、一発で機械兵は動かなくなる。


 そう、ここは戦場だ。目の前の少女以外にも敵はいる。


 そんな簡単なことがこの少女の存在で頭から抜けていたなんて、騎士団の副団長として……いや、一軍人として恥ずかしい。


 オズウェルは、そう心の中で反省しながらもユニを守ることが出来たことに一先ず安堵した。


「あんまりその子に近づかない方が身のためだよ。」

「人の心配をするより自分の心配をした方が良いと思うぞ。」


 ニヤリと笑みを浮かべて投げかけられた言葉に、オズウェルは冷静に返答をする。

 彼の視線は彼女の後方にあった。そこに映る光景は、ルジエナの兵士が彼女を狙って剣を振り下ろすところだった。


 リドルはチラリと後ろに視線をやり、兵士の剣よりも先に素早く蹴りを入れた。


 いや、それは蹴りなのだろうか。

 人の力とは思えなかった。兵士は遠く先まで飛ばされていた。


 オズウェルの目には一体何が起きたのか、捉えることが出来なかった。


「人間とボクを見分けられないなんて、とんだ節穴だね。下等種族と同等に見られる日が来るとは、信じられないよ。」


 心底嫌悪感がある、というような表情をリドルは浮かべる。


 そもそも、人間というものが現れてから仕事の量が格段に増えたわけで。リドルからしたら邪魔なものでしかない。


 むしろ、全てバグだ。


 そうして一時期、全部排除しようとして『邪龍』なんて呼ばれてたっけ、あぁ、懐かしいとリドルは昔に浸った。若気の至りというもので全ては解決だ。


 まぁ、今でも邪龍と呼ばれているけれど。


「先ほどから、何を言っているのか理解に苦しむな。」

「いーよ、別に知らなくて。だってもう、死ぬし!」


 過去に浸っていたリドルに、オズウェルは声をかける。その声でリドルは現実へ引き戻された。

 お互いの言葉には殺意が含まれている。


 2人は同じタイミングでザッと駆け出した。


「ストーップ!!!」


 突然、1人の人物ーーメルガーが2人の間に立ち両手をかざす。


 オズウェルとリドルはピタリと動きを止めた。いや、正確には動くことが出来なかった。


 また、おかしな奴が現れた……とオズウェルは眉をひそめる。


「なに、メルガー。良いとこなんだから、邪魔しないでくれる?」

「リドル、この子に勝手なことはしないで頂戴。下手したら災悪級の被害が及ぶのよ。」


 メルガーの言葉にリドルは、はぁ? と顔を顰めた。オズウェルには一体何のことだか全く頭が追いついていかない。


「なにそれ、そんなこと資料に載ってなかったじゃん! ただのバグレベルだと思ったら災悪級なんて……笑える。」


 リドルは、ふっと片方の口の端を釣り上げてから、チラリとオズウェルの近くで倒れるユニを見た。

一部の人間以外には見えない魔力、そして精霊がそこに見える。黒く染まった魔力が彼女から溢れ出していた。


 魔力量が膨大すぎるが故に黒く染まったのか……それとも?


 このような事例に遭遇したことの無いリドルは、自身の選択に対して焦りを感じた。


 そこには大量の精霊が集まっている。

 その中で最も力があるのは中位精霊の中でも力のない精霊だ。あとはほぼ下位精霊……秀でて危険な精霊はいないのが救いだろうか。


 精霊達は彼女の魔力を喰ったことで、彼女に敵意を示した周囲の機械兵に攻撃を繰り出している。


 一先ず、今のところユニは大丈夫そうだった。


 ー災悪級のバグは容易に扱うべからずー

 これ鉄則、とリドルは心の中で自身に言い聞かせた。


 下手をすると世界滅亡の危機に陥るし、最低限の被害に抑えたって国1つ消えるくらいのことは起こる。さらに言えば、龍の仕事も増える。


 だから災悪級のバグはゆっくりと様子をみてケアをしながら修正する。


 殺せばいいじゃん、となったことがあるけれど、ものの見事に暴走したのでそれも有効ではない。


「……わかったから、時空魔法を解いて。」


 リドルがそう言うと、メルガーは魔法を解いて2人を解放した。


「メルガーって……あのメルガーか?」


 オズウェルが、どういうことだと言わんばかりに険しい表情を浮かべて問いかける。

 メルガーは、それに対して肯定の意を含んでニコリと笑みを浮かべた。それから、何かの気配を感じてユニの方を向く。


「あら、ちょーっとヤバイかも。」


 ヒクリ、とメルガーが口元を引き攣らせた。

 先ほどまでは居なかったが、寄ってきていたのは高位の精霊。下位や中位とさほど見た目は変わらないが、その力の大きさがメルガーたちにはヒシヒシと肌に伝わっていた。


 そして厄介なのが闇の精霊であること。

 黒い魔力に吸い寄せられたのか。

 

 闇の精霊はメルガーやリドルに気づいたのか、こちらにふよふよと寄ってくる。


『何、悪いようにゃせん。儂は、この娘を守ると決めておる。』


 クククッという笑い声と共に精霊の声がメルガーとリドルに伝わる。人間は2人のことを龍だと見た目だけではわからないが、精霊はその魔力を感じ取っているためにわかるようだ。


「一体どういうことなんだよ、メルガー。」

「いえ……今まで精霊の存在を感じ取ったことなんて無いわ。」


 リドルのわけがわからないというような戸惑いを含んだ問いかけに、メルガーも混乱したようにポカンとして言う。


『儂は、この娘に酷い未来が待っていることが許せぬのだ。それに……どちらが悪か分かりゃせん。』


 精霊は、そう呟くとふよふよとユニの元へ戻っていく。


『放出した魔力の修正は儂がやっておく、時の龍よ、以前のように鍵をかけろ。』


 そう言って精霊がユニへと入って行くと、魔力の放出はピタリと止まる。メルガーは、額に手を当てて呪文を唱えた。


「この子を本部まで連れて行きなさい、オズウェルくん。あたしはこの姿では無理だし、この戦場でいきなり龍へ姿を変えることもあまりしたくないの。」


 オズウェルはコクリと頷くと、ユニを抱えて狼に乗る。龍になれないのならば、移動手段は狼しかない。


「ボク、頭が痛くなりそうだよ。あの国は大丈夫なのか……?」

「あんたも手伝う? あたしの仕事。」

「……冗談やめてよ。でも、旧メイエン地域の事件より厄介そうだよ。」


 メルガーとリドルは、静かにその場を離れた。




 この日から3日後、サシャ峠要塞は陥落した。アレグエット側の完全な勝利として『サシャ峠要塞奪還作戦』は終幕した。



戦争部分が終わりました、今回の話は今後の部分に大きく関係してくるわけですが、説明描写が多い!申し訳ありません。


それから戦争描写が得意でない方は、3話続けて読むのキツかったですかね?グロいシーンは入れないようにしましたが、、、

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