表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

守るもの

 あの日からお母さんには全てを話している。ただ夢の話だけはしていない。


 また変な目で見られるかと思うと怖くて言う気になれなかった。


 綺麗なピンク色の肉の筋が左腕についている。紛れもない私の過去だ。消えない傷と共に体に刻みつけられている。


 もちろんこの傷のことも話した。そのときお母さんは泣いていた。だから私は謝った。そして、もうしないと誓った。


 ニナが死んだのを見て以来、あの夢を見ていない。何がきっかけであの夢に行けるかなんてわからないから行きたくても行けないのだ。


 ダズに会いたい。ジークに会いたい。思うところはたくさんある。


 けれど、私は一人ではない。お母さんがいるもの。だから私は大丈夫だ。


 地獄のような学校生活に疲労し、全てを投げ出したくなってもお母さんが支えてくれた。


 私は、転ばされたら自分で立ち上がるしかないダルマではない。立ち上がるのを手伝って貰える。


 しかし、学校での私は相変わらず雑巾"ダルマ"だ。綺麗なカーディガンを買って貰ったにも関わらず、一日で雑巾のようにされてしまった。


 どれだけ汚されても綺麗に洗濯した。先生に相談しようとして、あしらわれた。お母さんと一緒に行っても先生にあしらわれた。


 二人で日々を乗り越えて行ったのだ。


 気づけば、私は2年生になっていた。





ーーーー





 A子とは違うクラスになることができた。


 やっとA子と離れることができた。しかし、1年生のときのクラスメートが何人か同じクラスになってしまった。


 彼らは皆、私をいじめていたA子に加勢した人達だ。ただ一人を除いては。


 その一人はC美。スレンダーな体つきに癖が無くて綺麗なストレートの黒髪が腰まで流れている。凛とした表情は可愛いではなく、美人と言うべきだろう。


 C美は曲がったことが嫌いな人だった。私へのいじめに関わらなかったのはもちろんのこと。文化祭や体育祭、学校生活などでも、その性格の片鱗を幾度となく見た。






 新クラスになったものの、まだ初日で新しいクラスに馴染めないのか、他のクラスからたくさん人が来ていた。


 周りにいくつかのグループが集まり、皆それぞれのグループで楽しそうに話していた。


 私と、前の席のC美に話しかけてくるものは居ない。


 私はもちろんのこと。C美はクラスで浮いている存在だった。


 1年生のときのクラスを繋ぎ止めていたのは私へのいじめだ。私を媒介にして皆が仲良くなっていった。


 そこに参戦しなかったことで、C美はクラスで誰とも馴染めずに1年間を過ごしたのだ。


 ーーつまり、私のせいだ。


 申し訳ないと思った。けれど、どうすればよかったのかなんて分からない。C美に直接謝罪する勇気なんてわかなかった。


 そんな思いでC美の後姿を見ていると、C美の髪が横に(なび)いた。


「今年度も……一緒だな。」


 凛とした表情に似合わない、弱々しい声が聞こえた。C美が私に話しかけたのだ。


 罵声以外を学校での聞くのは久しぶりだった。今日も登校中から耳を塞ぎたくなるほど悪口を言われたっけ。


「お前、私と友達にならないか。」


 悲痛の声。私はその声を聞いて悟った。


 C美は強い。常に正しく、真っ直ぐであろうと頑張っていた。


 けれど、私もC美も女子だ。


 女子はグループを作る生き物だ。一人になりたくない。誰もがそう思ってグループを作る。


 その輪に入れなかった人は必然的に一人になる。


 一人になりたくないという気持ちでグループを作るくせに、いざグループができると排他的になるのだ。


 C美は辛かったと思う。


 私も一人の辛さは知っているから、少しはC美の気持ちが分かる。


 同じだ。私と彼女は同じ。


 そう気づくと、自分で思ったより緊張せずに返事をすることができた。


「私もなりたいです。友達になりたいです。」


 緊張は解けても何故か敬語になってしまった。


 C美はそんな私に戸惑ったような笑顔を見せた。


「よしてくれ。同級生だ。外れ者同士、敬語はやめよう。」

「わ……わかっ……た。」

「……徐々に変えていけば慣れるさ。」


 敬語を辞めることを意識すると、何故か緊張してしまった。対等に話そうとしてくれているのに、私だけ緊張してしまって申し訳なく思う。


 C美は緊張で顔がこわばる私をなだめるように、優しい声をかけてくれた。


「私は去年、お前を見捨ててしまった。だが、安心しろ。今度は守ってやる。」


 なぜ? 


 初めて話す相手なのに。


 普通ならいきなり「守ってやる」なんて言われても反応に困るはずなのに。


 なぜだろう。


 守ってもらえるんだ、と安心できるのはなぜだろう。


 あぁ。分かった。


 C美の声はニナの声に似ている。ニナはこんなところから私を見守ってくれているのだ。


「ありがとう。」


 情けないと思う。


 C美が私と同じ? そんなわけがない。C美は今この瞬間も強かった。


 私に対するいじめがC美に向かないで欲しい。私は強くそう願った。


 守られるだけではダメだ。きっとダズやジークに怒られてしまう。


「今日からよろしくな。」

「うん。」





ーーーー





 今日は忘れられない日になる。


 友達ができた。まだ本当に友達になれたわけじゃない。けれどC美となら友達になれるだろう。


「お前もこっちの方向なんだな。」

「うん。もうすぐ私のお家。」

「私ももうすぐだ。」


 C美と私のお家は近かった。小学校の校区の境目を挟んでC美の家があったのだ。


 私の家やC美の家からは中学校まで遠い道のりだ。


 なぜ家から遠い中学校に行くことにしたのか。それは私と同じような理由かもしれない。


 ……仲良くなれるかも。


 いじめられたことがない人は平気で他人をいじめる。その痛みを知らないからだ。


 しかし、それは逆も言える。


 一人の寂しさを知っている人は、相手にその寂しさを感じさせない。その努力をする。


 C美は守ると言ってくれた。


 私も守ろう。一緒にいることしかできない。けれど、それが一番嬉しい。私もそれが一番嬉しいから分かる。





 私に。


 私に友達(まもるもの)ができました。


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ