表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

家族と食べるご飯

 その夢は始まった。


 狭い通路に私は居た。多分、どこかの家だろう。


 そういえば2回目に夢で見たときもこんな感じの場所だった気がする。


 (ルーシー)は3歳ほどになっていた。夢の中で目覚めたときに体が大きくなっているのが分かった。まるで……自分の体のように。


 私がそのことに気がついた途端にルーシーとしての約3年間の記憶が私の頭に流れ込んできた。


 どうやら父の名はジーク、母の名はニナというらしい。


 それと同時に激しい頭痛が襲いかかり、私は倒れた。


 苦しいとは思わなかった。ただ、「もう終わりなの?」と思った。


 まだ終わって欲しくない。こっち(夢の中)にまだいたい。雑巾ダルマは嫌だ。私はルーシーがいい。


 たとえ誰かの体を乗ったっていたとしても、そんなことは関係ない。現実の悪夢から逃れられればそれでいい。


 そんな思いは虚しく私の意識は何処かへ行った。




ーーーー




 私が目覚めたのは夜だった。


 見慣れない天井が


 私の隣にはダズが居て、私の手を握ってくれていた。


「ルーシー、大丈夫か? ずっとうなされていたから心配だったよ。」


 ダズはそう言って赤髪の坊主頭をかきながら、赤い瞳を細めて優しく笑った。


 ルーシーの記憶にあったダズの記憶は温かいものばかりだった。


 そんなルーシーの記憶に同調されたのか、私はダズを本当の家族のように思うことができた。


 ただ喋っている言葉はわからない。けれど、その意味は何故か分かってしまう。ルーシーの記憶のおかげかもしれない。


 そんなことを考えていたら(ジーク)(ニナ)が部屋に入ってきた。


「おお、よかった……いきなり倒れてたからすごく心配したのよ。」

「俺の娘だ。そんなに弱い訳がないだろう?」


 ジークはそう言いつつも安堵の表情を隠せていない。かなり心配をかけてしまったに違いない。


「迷惑をかけて……ごめんなさい。」


 私が突然ルーシーの中に入ったから私は倒れたんだ。家族の心配の原因は私だから謝らなくてはいけない、そう思ったら言葉が自然に出ていた。


 なのに、ジークは少しむっとした顔になった。


「ルーシー、いいか? 家族には迷惑も心配もかけていいんだぞ。家族ってのはそういうものだからな。だから、謝らなくていいんだよ。」


 ジークは私の頭に手を載せてわしわしと撫でて、部屋を出た。


 私はジークの言っていることが理解できない。


 家族は、私の家族は……違う。


 私のお母さんは私にいつも言っている。「あんたさえいなければ」と。


 それでも私はいるのだから、せめて迷惑や心配をかけないでおこう。心配されるかどうかは分からないけど。


 しかも、その言葉のことを考えるたびに、お母さんの言葉の意味が理解できた。


 私が居なければ、私に関する全てのものがお母さんには必要ないのだ。それは、学校の費用や食事の用意、ストレスのような様々なものだ。


 私がいるせいでルーシーの家族にも心配や迷惑をかけているのに、なぜ謝るなと言うんだろう。家族とはそういうもの? ……わからない。


「まだきついのかな? 少し休んでたほうがいいか? それともご飯食べられるか?」


 ダズは心配そうに私を見ていた。


 ……このとき、少しドキッとしたのは内緒だ。


「ううん、大丈夫。ダズ、お母さんありがとう。私ご飯食べたい。」


 ジークは先にテーブルに座って待っていた。もう食べ始めているのかと思ったが、ジークは律儀に待っていた。


「ニナ、腹が減って死にそうだ。はやくいただきますしよう。」

「ええ、4人でいただきますしましょうね。」


 家族というものはまだよくわからない。


 でも……知らない世界で家族と食べるご飯は、何だか楽しい味がした。




ーーーー




 そして私は目覚めた。見慣れた部屋の天井が目にはいる。ここは悪夢の世界。ここでの私は雑巾ダルマ。




 いつも通り学校で散々いじめられて家に帰った。お母さんは仕事が休みらしく、リビングでTVを見ていた。


 お母さんは私を汚いものを見るように一瞥をなげると不機嫌そうにTVの方を向いた。


 そんなお母さんを見て、ジークの言葉が蘇った。


「家族には迷惑も心配もかけていい。家族とはそういうものだ。」


 やはり、わからない。


 でも、あの晩に"家族"と食べたご飯は……


「お……おかあ……さん……」

「………何よ。」

「………何でもない。」

「……ふん。」


 お母さんは沈黙を消し去るかのようにTVの音量をあげた。


 言えなかった……な……


 私は部屋に戻った。


 この部屋も私さえ居なければ、必要なかったんだよね、お母さん。


 私は荷物を何も言わずに机の引き出しをあけた。そして"あるもの"をとって左腕の袖を捲った。


 私なんて居なければ。私は左腕の傷を増やした。赤い液体が腕からぷっくりと湧いてくる。


 やめられない。見せられない。見せてはいけない。





 その日の晩御飯は一人で食べた。


 温かいはずのカップラーメンは、何故か冷たいように感じた。


 今日も……あの夢が見れるといいな。


 私は眠った。


 悪夢のような現実で、また夢が見られるように。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ