ありきたりなハッピーエンド
一ヶ月ぶりに私が帰ってきた世界は結構うるさかった。
「奇跡!一ヶ月前神隠しにあった少女が無事生還!」
「空白の一ヶ月!少女の身になにが…」
などなど。
私を話題にしたニュースや記事が数日間目に入った。
「あー…うっとおしい…」
「あんたが一ヶ月間も行方不明になるのがいけないんでしょ。
しかもその間の記憶がないとか。」
教室で愚痴をこぼしていると亜美がいつもの様に私に話しかけてくる。
一ヶ月ぶりに会ったときは抱きつかれ泣き崩れる亜美がいたのでこれをだしにちょっかい出してやろうかと最低なことを思ってた私がいたけど、部活の顧問に呼ばれてサボりについて怒られてるのを見てやめた。
部活をサボってまで私を探してくれたかと思うと嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。
「…ほんとに記憶ないの?」
「……まあね。」
記者たちに話すのも面倒だし、あの世界がどうなったかわからなかったから記憶がないことにした私。
でも逆にオカルト好きの間で宇宙人の仕業やらなんやらで話題になった。
「そっか。」
「うん……」
「んー、じゃぁ私は部活にいってくるね。こっこは帰る?」
「んー、特にやることもないし亜美のこと待ってるよ。」
「おぉ、まぢか。じゃぁなるべく早く上がるよう頑張るね。」
「あ、亜美…」
「ん?」
「いろいろ手間かけてごめんね。
ありがとう。」
「……こっこのためだからね!」
そう言って笑いながら教室を出て行った。
「…ありがとう…」
あの日から一週間がたった。
リリーのことが頭から離れたことがない。
ご飯を食べているときも、亜美と一緒にいるときもリリーのことを考えてしまう。
「絶対こっこに会いにいくから」
リリーの最後の言葉を信じて私は待っている。
もしリリーがこっちに来た時に私がいなきゃダメだもんね。
「リリー…」
誰もいない教室で呟く。
たった一ヶ月の事なのに、私は誰よりもリリーのことを思うようになっていた。
だから今このとき死んでしまいたいとさえ思うくらい辛い。
リリーのいない人生なんて…
私をかろうじて生かしているのはリリーとの最後の約束。
「約束くらい…守ってよ…」
机に顔を伏せながら私は泣きそうな声を出す。
「私なんてリリーがいなきゃ一瞬なんだからね…」
そのとき外から信じられないほどの轟音と地響きが起きた。
「え…えっ……?」
私は教室の窓から外に身体を乗り出す。
遠くのほうで砂煙が上がっているのが見えた。
「あそこって…」
私は考えるより先に教室から駆け出た。
あそこは私があの世界に迷いこんだ場所…だと思う。
「リリー…リリー!」
校舎からでる間に2回ほど転んだけど全然痛くない、気にしない。
「あみー!
ごめん!先帰る!」
校庭にいた亜美に先に帰ることを伝えてから行く事にした。
「おう!
こっこー!前見んのもいいけど転ぶなよー!」
「うん!行ってくる!」
汗でワイシャツが透けてブラが見えてると思う。
そんなの気にしないで全速力であの二手に分かれた道を目指す。
リリーは会いに来てくれるって言った。
絶対に会いに来てくれるって…!
でもそこにあったのはいつもと変わらない一本道だった。
いつの間にか砂煙も見失ってしまった。
「はぁはぁ…リリー……リリー…」
消えてしまいそうな声が静かな誰もいない一本道に響く。
「なんで…なんでよ…リリー…」
「私の名前そんなに連呼して…相変わらず気持ち悪いやつだなぁ。」
後ろから世界で一番聞きたかった皮肉の混じった声が聞こえてきた。
「…っ…リリー…?」
振り向いたらそこにはリリーが立っていた。
見間違いもなく間違いなく私の知っているリリーがいた。
「リリー!!リリー!!」
「うぉっ、あんた汗びっしょりじゃねーか。」
汗だくなのも気にしないで私はリリーに抱きついた。
「…おそいよ…っ…ばか…」
もう涙なのか汗なのかわからない液体をリリーの洋服に擦り付ける。
「…ごめん…結界が意外と固かったのとあいつらが邪魔してくるもんで結構かかっちってさ。」
「でも約束守ってくれてありがとう…」
「こっこは私がいなきゃ一瞬だからね。」
「あはは…そうだね。」
「待っててくれてありがとう。」
「私がいなきゃリリーが1人になっちゃうもん。」
「…悔しいけどそうだな。」
「これからどうするの?」
「あ?知るかよ。
こっこに会うことしか考えてなかったし。」
「あらあら、こっこちゃん照れちゃう。」
頭突きされた。
そうそう、これこれ。
「私の家来てよ。
親いるけど説得してみる。」
私はリリーの手を引いた。
目の前にあのときは二手に分かれていた一本道をリリーと家に向かう。
この先、魔女のリリーはこの世界でいろいろ苦労することも多いと思う。
でもさ、だからさ、私はリリーの側にずっと一緒にいようと思う。
だってそれが私にできる唯一の唯一つのことだから。
それが私が望む唯一の唯一つの終わり方だから。




