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短い夜に

暗い闇の中で。フランが少しだけ話してくれた。

昼過ぎから吹雪いていたのも夜が来る頃にはすっかり納まっていたようだ。ふと目を覚ますと不気味な静寂に包まれていた。明日の狩りに備えてしっかり休んでおきたかったけれど、背後にフランの姿がないのに気付いて慌ててテントを飛び出す。降り積もった雪の上に残された足跡はテントの裏のそのもっと先、朝方にあの弓の訓練をした場所へと続いていた。

サクッ、サクッ、と雪を踏む音が小さく鳴る。フランは氷壁に寄り掛かり空を見上げていた。


「眠れないの?」


「…うん」


その隣に腰を下ろす。かける言葉が思い浮かばず、ただ黙って僕も空を見上げる。風も、雲一つさえもない夜空だから、その真っ黒な空に降る無数の煌めく欠片は、雪ではなく、星。


「私が住んでいた所はね」


フランがおもむろに呟く。この静けさの中でも気を付けていないと聞き零してしまいそうなほど、小さな声で。


「昼と夜が半分ずつくらいなの。だから、こんなに明るい時間が長いとなんだか調子が狂っちゃう」


「そっか…」


本当にそれだけのことだろうか?とは思っても、聞けなかった。


「きれいだねぇ―」


「うん」


溜息にも似た、独り言のようなフランの言葉に僕は頷く。そこにあるものを、僕もきれいだと思う。白と対極にある、吸い込まれるような黒。星が無ければ…と思うけれど、それでも夜の闇は僕を惹き付けて離さない。


「オーロラ、見れないかな?」


「オーロラ?」


「知らないかな?こんな夜に空一面に光の帯が広がるの」


「僕は見たことないけど、話だけなら聞いたことがあるよ。違う部族の人だけど、そんなものを見たことあるって。とても色鮮やかで、幻想的だったって。僕も見てみたい」


見たこともないものはいつだって、なんだって僕の心をくすぐる。それが彩りに溢れるというのなら、なおさらだ。


「でも、白夜(ビャクヤ)では見れないのかな?やっぱ」


時折フランが零す聞きなれない言葉に一瞬戸惑う間に、


くしゅん!


可愛らしいくしゃみに自分で照れるフラン。


「流石に寒いね」


「放射冷却だね」


「…フランの言葉は時々難しい」


「あぁっと…雲のない夜は特に冷えるの」


それは経験として知っていたけれど、そんな名前があることは知らなかった。


「放射された地熱が雲に阻まれずに全部逃げて行くから、雲がないと特に冷えるの。…って言っても分かんないか」


フランの言葉の半分くらいは分かった気がするけれど、おそらく肝心なところが分かっていないから、何も掴めた気がしない。そんな当惑気味な僕の顔を覗き込んでフランは、更に僕の知らない言葉を並べた。


「キミにしたら、魔法みたいに聞こえるんだろうね」


「マホウ?」


首を傾げる僕にフランは心底驚いた様子だった。


「ひょっとして、科学はともかく魔法も分からないのかー…」


お互いに困った顔を向け合って、でもフランの表情はやがて昼間に見せた自慢げな顔へと変わっていった。


「風が吹くのにも、雪が降るのにも、星が瞬くのにも、全部理由があるんだよ。こんな夜にとても寒くなることにも理由があるように。それを知っていくのが、そうやって知ったことが、あるいはそうして知ったことを活用していくのが科学」


「カガク…」


「その科学でも説明できないことや、科学を捻じ曲げてしまうものが、魔法」


やっぱりフランの言うことを全部は理解できなかった。いくつか分かった中できっと一番肝心なのは、


「フランはいろんなことを知っているんだね」


きっと、僕が思っているよりも、ずっとたくさん。


「まあね」


そう言ってほほ笑むフランは今日一番の得意げな顔だった。


「僕ももっと色んなことが知りたい。見たことのないものや、きっと知らないこともたくさんあるんだ」


「知識欲があるのはいいことだね」


「フランが知っていることをもっと色々と教えてほしい」


それはきっと、フランと出逢った時からの想い。見たこともない姿をした彼女は、僕の世界を彼女の色で染めた。そんな彼女ならきっと、まだ知らない世界へと僕を導いてくれる。直観的にそう思っていた。その想いがこの夜空の下で、彼女の不思議な言葉に触れて更に強まっていた。

彼女の髪が、彼女の言葉が。そう、彼女自身が、僕にはとても魅惑的だった。


「私が教えてあげられることなんて、たかがしれてるよ?」


「それでもいい。それでいいんだ」


その後。テントに戻った後でフランはもう少しだけ話をしてくれた。それは彼女の住んでいた所の話。でもそれを夢現に聞いていた僕は、残念なことにその半分も覚えていない。そこで彼女が知識を追い求めることを生業にしていたと語ったのだけはしっかりと覚えていた。

赤いからではなく。彼女が彼女だから、知識に満ち溢れているのだと思うとなぜだかとても嬉しかった。


そんな夢見心地の夢のような夜は短く、すぐに明けていった。

たまたまの方もまたまたの方もご覧頂きありがとうございます。


さてさて、この物語のプラム達の文化、文明水準ってどんなもんなんでしょう?

狩猟メインの生活っぽいけれど(まず、極圏に彼らの生活を支えることができるほど生物が生息しているのにかなり驚きです←)、そういう極限環境を幼女でも暮らしていける程度の環境にしているわけですし、意外と高い水準かも?まあ、双眼鏡があるくらいですし、そこそこの技術や知識もありそうです。

そのうち話題程度に出てきますが、あぁ、第一話でもでましたね。行商人的な存在もあるわけで、的確な知識はないけれどツールはあって、その恩恵に与ることが出来ている…ってな部分は多大にありそうです。


いつもならその辺深掘りしてから書くのに、本作では書きながら考えてる部分が多いので、そのうち致命的な矛盾をやらかしそうで戦々恐々としています。

物語を作る者としてなるべくですが「辻褄が合う」ようにしておきたいと考えています。できることなら、「ファンタジーなんだから突っ込まないで!」なんて言い逃れはしたくないのですが。


それでも、私が異世界ファンタジーとして意図的に起こしている矛盾も、読んで頂いている皆さんからしたら、そもそも意図的かどうかなんてわかるわけもなくて、そうすると、そんな拘りなんて捨てちまえばいいんじゃないの?なんて考えてしまうと少し切ないものがあったりもします。


とりあえず。



《南極に白クマはいない》


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