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贈り物

「おい、それ、本当に――

日の出と共に目を覚ます。短い休息で、その割には随分と疲れが取れたように感じるのは、むしろそれだけ疲れが溜まっていたってことだろうか?そっとテントを抜け出す。地平から覗くお日さまは赤くにじんでいる。

テントに立て掛けてあった弓を取り、切れた弦を解く。明日からの狩りに参加するにも、弓がなければ足手まといにしかならないだろう。でも―


父さんが張るほど強く張れるだろうか?

ひとまず張ってはみたものの、軽く引いてみた感じで既に頼りない。試し射ちするまでもなく、明らかに弱い。一度弦を解いて巻き直しているとフランがテントから出て来た。


「おはよー」


「お早う。眠れた?」


「あー、うん。まぁ、まぁ?」


そう言って目を擦る。明らかにまだ眠そうだ。


「こっちは夜が短いんだね」


「来る方が珍しいよ」


フランの目線がまだ低いお日さまから僕の手元に移る。


「そっか。昨日、壊しちゃったんだよね」


「うん、これを直さないと明日の狩りには行けないからね」


ふーん?と相槌を打つとフランは大きく欠伸をしながらテントに戻って行く。寝直すのかな?と思ったら、テントの中でがさごそやってすぐに戻って来た。


「これ、使って」


渡された物に僕は首を傾げる。その正体におおよその見当はつくけど、全くもって自信が持てない。鉈程の長さの黒光りする棒。その中程に取り付けられているのは、恐らく――


「これって、弓?」


そのように見えたけど。それは僕らの使う弓よりも随分と小さい。小さくて、くっついている棒の方が大きいくらいだ。そんな余計な物が付いていては射ち難いだろう。それにこんなにも小さいと、威力の方も心配だった。試しに弦に指を掛けてみると、恐ろしく固い。これはこれでそれだけ強力だということなんだろうけど、そうなると今度はまともに引けるのか?という問題になる。

戸惑うばかりの僕にフランは試し射ちを勧めた。



鈍い音と共に短い矢は氷壁に突き刺さった。的こそ外しはしたものの、その威力に目を疑う。隣のフランは得意げだ。

クロスボウと呼ばれたその弓は射つのに一定の手順が必要と、かなりまどろっこしい。しかし、その放たれる矢の速さと威力、飛距離は僕らのものが到底及ぶものではなかった。


「ただ威力があるってだけじゃないんだよ」


フランが棒の先端付近を押す。カチリと音がしたけど、一見何の変化もない。


「これはとっても危険だから、気を付けてね」


念を押すフランは何故か興奮気味だった。鼻息を荒げて説明に入る。


「ここのボタンを押すと側面にセットされたボトルから神経毒がこっちに出てきて、発射時に自動的に矢に付くようになっているんだ。これで矢がかすっただけでもシロナガスクジラだってイチコロよ!」


いまひとつ分からないので聞き直すと、要するに急所に当たらなくても獲物を仕留めることができるらしい。


「ひょっとしてあの時…」


「ううん、違うよ」


それもそうだ。あの時フランは武器らしいものはおろか、何も持っていなかった。もし持っていたとしても、あの時点で左腕を折られていたフランにこれは扱えなかったはず。それに()()()()()()()()()()この弓では、あの時の火の粉の説明がつかない。

……と言うか。


「こんな凄い武器を持っていながら、カバンにしまったままにしてたの?」


・・・・・


「キミ、賢いね!」


これは、ひょっとしてバカにされているんだろうか?舐められているのは僕ではなく、雪原の獣たちだと信じたい。


試し射ちを重ねていくうちに弓の癖にはすぐに慣れ、的を外さなくなってきた。実際の狩りでは、標的は動くのだし、矢の飛ぶ速さが増したことも計算に入れないと当たらないだろうけど、その差も大体掴めた(勘だけど)。


「キミ、飲み込みが早いね」


「狙いを付けることに関してはそんなに違わないから」


ただ、弓を水平に構えるのだけはどうにも違和感を拭えない。それよりも、気になるのは射撃のための手順だ。要領を得るのは難しいことではなかったけど、それを短縮できない。つまり、連続射撃ができない。獣に囲まれた時には間に合わなくなるかも知れない。


「まぁ、その辺は連携でカバーするんじゃないの?」


フランの言うとおり、皆で狩りをするとなれば必然的に作業を分担することになる。弓使いの仕事として大きく変わることはないと思う。問題は、この弓では独りで探索に行けないということになる。とっさに攻撃が出来ないということは、襲撃を受けた時にろくに抵抗もできないということになる。相手の先制を許してしまう事自体が弓使いとしては致命的だけど、そもそも接近を許せる許容範囲がこの弓では一気に広がってしまう。だから、この弓は単独行で携行するには不向きなのだ。だから、フランもしまったままにしていたのかな?


「気になるなら、キミの弓も直しておいた方が良さそうだね」


「そうだね」


気は進まないけれどノバク兄さんに手伝ってもらって何とかしよう。ノバク兄さんにはこの弓の性能を見てもらっておく必要もあるだろう。早速、と思ったけど、「まだ朝早いよ?」と、フランに止められた。



「おい、それ、本当に弓なのか?」


試し射ちの結果、ノバク兄さんもその驚異的な威力に目を丸くしていた。


「構造としては、弓だね。人間の筋力を超えて弦が引けるように工夫がされているだけ」


そしてやっぱり得意げなフラン、再び。連続射撃が出来ないという弱点も説明したけど、有効射程距離が延びたことで、獲物の包囲に余裕が出来たり利点の方が多いだろうというのがノバク兄さんの見解だった。


「良かったな、プラム。そんな凄い弓を貰えて。正直羨ましいぞ」


「うん。でもこれじゃ独りで探索に行けないから、父さんの弓もちゃんと直しておきたいんだ」


ノバク兄さんは快く手伝いを引き受けてくれた。

フランにお礼を言うと、


「私を助けようとして壊しちゃったんだから、そのお詫びだよ」


と、少しはにかんだ。

たまたまの方もまたまたの方もお読み頂きありがとうございます。パメラです。こんにちわ。


投下時間が遅くなっているということは、つまり、まぁ…要は、そういうことです←

今回は思ったよりも文量多くなってる。何でだろ?


なお、切れた弦でプラムも綾取りに挑戦してみたものの、撃沈した模様。

明日はバトルシーン(狩り)になるのかな?ご期待下さい

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