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報告と挨拶

シロクマを倒した僕はフランを連れて集落へと戻る。

集落に戻ったら、やっぱりフランはみんなの注目を集めた。二人で仕留めたシロクマなんかには誰も目もくれない。それどころか、腑分けのノマド兄さんなんかはむしろその巨体を迷惑そうな目で見ていた。

応急処置しかしていなかったフランのことを薬師のノンノ姉さんにお願いして、長に報告に行く。

僕らの部族は時の巡りと共に場所を移ろう。ここに居を構えたのは10日前からで、1年振りだ。大小様々のテントが立ち並ぶその真ん中、一際大きなテントに入る。

長と火を挟んで向かい合い、お互い手を合わせて一礼し、腰を下ろすと、早速長の方から話を切り出してきた。


「赤い女子を拾って来たと聞いたが、どうなのだ、プラムよ?」


「拾って来たというのは、違います」


皺だらけの顔にさらに皺を寄せた長に詳しく話すように促され、順を追って説明する。

高台の上から、シロクマとそれに追われる彼女を見付けたこと。

転んだ彼女が、シロクマに大きく殴り飛ばされたこと。

そこに矢を3本射って割って入ったこと。

こちらに狙いを変更したシロクマに憎憎しげに睨まれたこと。

弓を強く引きすぎて弦を切らしてしまったこと。

順々に詳細に説明してきて、しかし、ここで説明に困ってしまった。

この後に起こったことがよく分からないんだ。


「慌ててナイフを取り出して、シロクマに向き直ったら、その…シロクマはなぜか腕を振り上げたまま動かなくなっていて。とっさにナイフでその喉を斬って止めを刺したんです」


「シロクマが、動きを止めた?」


「何かがぶつかるような音を聞いた気もしますが、そんなもの、どこにもありませんでしたし…ナイフを取ろうとして目を離した一瞬の間のことなので、何があったのか本当に分からないんです」


命のやり取りの最中で相手から目を逸らすなんて、普段の長なら怒り狂うところだけれど。囲炉裏の向こうで長は無言のまま、更に皺を深めた。


「あっ…」


突然思い至ったのはあの赤く輝いて舞った不思議な粉のこと。あれは――


「あれは、火の粉?」


正面の囲炉裏の炎があの時ほどではないけれど、同じような煌きを上げているのを見て、思い当たった。


「あの時、シロクマを倒した時に辺りに雪の結晶と一緒に赤く輝く粉が舞っていたんです。その囲炉裏の炎が上げる火の粉のようなものが、もっと、たくさん」


長に説明するでもなく、自分の体験と直感をそのまま確認するように言葉にした。

長は黙って聞いていた。自分に話せることは全て話してしまったので、僕もこれ以上は何も言えない。長から何か質問でもあればまた違ったのだろうけど。


そんな沈黙を破って現れたのは、ノンノ姉さんだった。傍らにはもちろん、フランを伴って。

フランの左腕には木を添えて布が何重にも巻かれ、紐で首から吊られていた。

そしてフランはノンノ姉さんからもらった服に着替えていた。僕らと同じ服になっても、いや、同じ服になったからこそ、かも知れない。彼女の異質さは際立っていた。赤い髪。赤い瞳。同じ人間のはずなのにこうも違うなんて。

長の正面をフランに譲り、座るように促すと、彼女は器用に足を折り畳む変わった座り方をした。軽く頭を下げ、長がそれに応える。ノンノ姉さんが僕の隣に腰を下ろすと、長が話し始めた。


「初めまして、お若いの。わしがこの部族の長じゃ。プラムからおおよその話は聞いておるが、そちらにもいろいろと伺いたい」


よろしいかな?と優しく問う言葉とは裏腹に、威圧に満ちた空気が漂う。


「はい。ですが、その前に一言」


長のプレッシャーを物ともせず。そんなことよりも優先すべきことがあるといった風に、堂々と、そしてきっぱりと長の話を一旦そこに置いて。フランはこちらに体を向けて


「この度はお二人には大変お世話になりました。ありがとうございます」


と、地に手を着いて深々と頭を下げた。急に畏まって、しかも長の前でそんな風にされてはどう返していいか分からず、ひとまずこちらも頭を下げる。長はうむうむと小さく頷くだけ。フランが体を戻して再び頭を下げる。


「申し遅れました。フランと申します。この度は一族の方々に危ないところを助けて頂きとても感謝しています」


「うむ、大変だったそうじゃの。じゃが、プラムの話を聞く限り、ただプラムがお主を救ったとは到底思えん。プラムの弦が切れた後、何があったか聞かせて頂けるかな?」


「それは…」


最初はあれだけ堂々と話していたフランが急に口ごもる。


「プラムがナイフを取って振り返ると今にも襲い掛からんばかりの形相のシロクマがその場に立ち尽くしていたとか」


「……」


フランは言葉で答える代わりに小さく頷く。


「シロクマはたくさんの火の粉の様なものに包まれて倒れたとも聞くが?」


フランの応えはなかった。


「……ふむ?語れぬ、ということかな?」


「…すみません。聞かないで頂けると助かります」


申し訳なさそうに言葉を絞るフラン。


「では。その手段はともかく、シロクマの件についてはプラムがお主を、お主がプラムを、お互いに助けた、という認識でよろしいのかな?」


「そう……です、ね…」


何か不満なのか歯切れの悪いフランはともかく。

僕の方が納得がいかなかった。

彼女があんな酷い怪我をしているのに自分が全くの無事だったことが負い目だったのかもしれない。僕からすれば、ただただ一方的に僕が助けられたんだ、という想いが強くあった。

でも。それをうまく伝えることができなさそうで、口を挟めないでいた。

《Monstrous Growth》


たまたまご覧頂いた方も、またまたご覧頂いた方もありがとうございます。パメラです。今日は。


この物語は成長の物語です。

主に、プラムの成長の物語です。

雪原に生まれた真っ白な少年が、真っ赤な少女を見て、彼女に魅せられて。どんな色に育ってゆくのか?そんな物語です。

なので、最初の方は読みにくいと思います。野暮ったくて、もどかしく感じるかと思います。今暫く読み進めて頂きますと、まだ借りてきた猫の様に大人しいフランが本格的に話に加わって、また違ってくると思います。ですので今暫く、ご容赦下さい。


また、この物語は私の成長の物語にもなればいいな、と思っています。

1日に2000文字。それを50日連続。

怠惰で面倒臭がりで飽き性で集中力がなくてすぐに投げ出す私ですが。これを続けて、応募にまで漕ぎ着けたなら。それはもう、私であって私ではない。

継続は力也、と言いますが、その継続する為の力を、この「シロボク」を通して培っていきたいです。


そんな極めていい加減で、至って自分本位な物語にお付き合い頂いた皆さんに謝意を表しつつ。

あわよくば明日もまた読んで頂けることを密やかに願っています。



追伸。閲覧、登録、評価、ご指摘、ご指導ありがとうございます。

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