雪原を染めた、出逢い
高台に上がり、双眼鏡を手に取る。今日は風が弱いけど、それでも身を切るような寒さに変わりはない。
一面、白銀の世界。見渡す限りの大地も、自分が吐く息も、空も、雲も、今日は見えないお日様も。全てが真っ白。白にもそれぞれ違いがあって全部が全部同じじゃない。それでも、この雪原で白くないものを探すのはとても難しい。何か動きがあれば、そこに何かがいることはわかるし、ウサギだろうが、シロクマだろうが見つけ出すのは難しいだけで不可能ではないけれど。
そんな白い雪原を見渡して――こんな真っ白な世界が、僕は嫌いだった。勿論、白以外のものだって、あるにはある。疎らな木々に根気よく探せば見付かる草、狐の毛皮や獣の血肉、稀に覗く空に極々稀に訪れる夜。無いわけじゃぁ、ない。白いものが大多数の中でそんな色のあるものが僕は大好きだった。幼心にそういったものは珍しく、色のあるものを見つけては心躍らせ、喜んでいた。大好きだった。もちろん、今でも。その反動からか知らないけれど、白いものはどうにも好きになれなかった。自分のこの髪も肌も、母が遺した手袋も。だから、こうして色のあるものを探し求めて、集めている。
本当ならもう、とっくに大人に交じって狩りに出掛けなければならない年だ。それを避けて自分のしたいことばかりしているのだから、まだまだ子供だと言われても仕方がない。採集は女子供の仕事だもの。
それでも僕の勝手は、自分のことについては最低限自分でこなし、部落のことにも最大限貢献したうえで許されていた。収集に出掛けた際には必ず、小物ばかりだけど獲物を仕留め、持ち帰っている。
単独行動をとるために人一倍修練も積んできた。弓の強さと正確さは大人達にもひけをとらない。長だって僕の力量を認めていなければ一人で遠出するなんて許さないはずだ。
高台の上から辺りを見渡して一つだけ収穫があった。そう遠くない距離で動いた大きな白い影は、恐らくシロクマ。あの方角に進むのは止めておいた方がよさそうだな。と、そのシロクマの影の少し先にもう一つ影を見つけた。二回りほど小さい二つ目の影は、恐らく人だ。はぐれか、単独の行商人か分からないけど、あの様子だと、シロクマに後を着けられていることにきっと気が付いていない。双眼鏡をしまうと高台を駆け下りた。
駆けながら自分に何ができるかを考えていた。下手を打てば自分が襲われかねない。ある程度距離をとったところから矢で射って、それで追い払えればいいのだけれど。ナイフを手に渡り合うような事態になれば無事では済まないだろうし、そこまで肉薄することは何とか避けたい。
僕の弓矢が届く距離まで詰め寄る前に。人影は背後に迫る影に気付き、逃走劇が、同時に本格的な追跡劇が始まった。が、逃亡者は10mも行かないうちに雪に足をとられたのか転倒し、あっという間に追いつかれてしまった。シロクマが振り回した右腕が、勢いよく人影を吹き飛ばす。身体ごと捻りを加えて繰り出した一撃に自分で勢い余ってよろめくシロクマ。殴り飛ばされた方の体は宙を舞い、着地した後も雪原を横滑りしながら遠ざかってゆく。シロクマが面倒臭そうにそちらへ向き直った瞬間。その肩に矢が突き刺さる。遅れて脇腹にもう一矢。最後のもう一矢は図らずもこちらを振り返ったシロクマの左眼を射抜いた。怒号をあげ、もがくシロクマ。振り乱す腕に弾かれ、顔面に突き刺さった矢が僅かに血を撒き散らしながら宙を舞う。荒く鼻を鳴らし、残った眼でシロクマがこちらを睨む。
――敵視――
間違いなく僕のことを敵として認識し、射抜く視線。こちらも矢を番える。のそり、とシロクマが一歩こちらへと踏み出す。
はやる胸を抑えて弓を引く。さっきよりも距離は狭まっているけど、もっと強く引き絞らないと、きっと致命傷を与えられない。もっと、もっと強く……
バシィィィィン!!
乾いた音が、雪原に響き渡る。左手に伝わる、弓の震える振動。千切れた弦が微かな風に靡いていた。
しまった、強く引き過ぎた!
しかし、シロクマはその音を開戦の合図とばかりに迫り来る。慌てて弓を投げ捨て、ナイフに手を伸ばす。
腰に着けたナイフを探って一瞬――本当に、ほんの一瞬だったはずだけど。目を離したのがいけなかった。柄を握り、向き直ろうとした時になってようやく自分が手負いの猛獣から目を離してしまうという致命的なミスをしたことに気付く。
振り向くとシロクマはすぐそばで、左腕を天高く振りかざし――硬直していた。一瞬、何が起こったか分からぬまま、膝を崩したシロクマの喉元を斬り裂く。最期の声を上げることもないまま崩れ落ちた巨体が、衝撃で降り積もった雪を舞い上げる。キラキラと輝く雪の結晶に交じって一緒に、赤い粉が舞っていた。
どれだけの間、その不思議な光景に心奪われていたのだろう?しかし、それもやがて消え去り、いつもと変わらない白銀の世界に戻っていった。大きく息を吐くと視界の隅で何かが動く気配を感じ、身構える。
蠢いていたのは、シロクマに殴り飛ばされた人だった。すっかり忘れていた。
「キミ!大丈夫?!」
叫びながら身体を引き摺るようにして歩み寄る相手に対して、無言で頷く。その姿に僕は言葉を失った。
抱え込んだ左腕から滴る、おびただしい量の血が雪原を染めている。痛ましい、赤。
と、同時に風に煽られ捲れたフードから現れた髪と、僕を見つめる瞳が、僕の目の前を赤く染めた。
赤髪、赤眼の少女、フラン。これが彼女との出逢いだった。
この時のことを、もっとちゃんと言い表せる言葉を、僕は未だに、持ち合わせてはいない。
《Reckless Abandon》
恐らくほぼ全ての方には、初めまして。
そして極々一部の方には、いつもありがとうございます。怠惰の魔女、パメラです。今晩は。
始まりました!始めちゃいました!
新連載「シロいボクと、アカいカノジョのブラックボックス」第1話、如何でしたでしょうか?
この作品、私にしては珍しく《思い付きと勢いで書いています》OK、少し詳しく説明しましょう。
この作品の生まれた経緯。
そう、それは忘れもしない7月1日の登校中の車内で。唐突にプラムの、続いてフランのキャラ設定が浮かんできまして。この時点では頭の中でですがストーリーの要が幾つかと、最初のvsシロクマ、この第1話の8割方は出来ていました。
とは言え。
書く気はさらさらなかったです←
だって、怠惰だもん←←
それが、執筆中に見かけたバナーを開いたのが運の尽き。
8月末迄2ヶ月、頑張れば1本上げられるんじゃね?
とか、考えてしまい。バトルシーンなんて苦手なクセに、ちょっと一発やってみよう!丁度いい、朝のアレで応募してみるか!って、本当勢いってゆーか、その場のノリで。反省はしている。公開もしている。
だが、しかし!そこに待ち受ける恐るべき落とし穴にまだ気付てはいなかったのだった…
その立ちはだかる壁とは!
応募要項、10万文字以上←
……それって、どのくらいの分量?←
今迄まともに作品を完結まで書いたことのない私が。
700文字/hの筆速度で、しかも集中力が1h持続しない私が。
完結、未完は不問とはいえ、そもそもこの分量を書き切って、応募までたどり着くことができるのか!?
多分、無理ww←
とか言いながら。変なスイッチが入ってしまっているので、既に撤退の二文字は、ない!
え?1日に2000文字のペースで充分イケるじゃん?←
そのくらい頑張ってみようよ?
お試しだよ!特訓だよ!←←
とかそんな知力1っぷりを振り撒きながら、
【この作品は取敢えずオーバーラップ大賞に応募するところを目指しています】