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0夜目―5

今まで書き留めたこの世界の言葉のノート。マシューから家族の証しにと送られた指輪。ジャクリーンから貰った髪留め。マークと初めて出かけた記念に買ったドレス。

荷物を纏めるように言われ、大切なモノを鞄に詰め込んだ。私の物はとても少ない。もしかしたら帰れる時が来るのでは……。そう思うと自分にとって大切のものを増やすことが出来なかった。だから私の周りにあるのは与えられたものばかり。


コンコン。開け放したドアをマークがノックする。荷物はとっくに纏め終わっていた。私はベッドに座り、窓から今では見慣れた景色を愛おしく思いながら見ていた。

そっとマークが近付き、私の隣に座る。ベッドが沈み、静かな部屋にキシっと音が一つした。


「怖い?」


マークが訊く。私は首を振り、「怖くない」と答えた。

あの日、一人どうすることも出来なかった恐怖に比べれば、守るものが出来た今、怖くはない。


「ユーリ、君が犠牲になることはないんだよ?」


もう10回は言われた言葉。ジャクリーンは私が「行く」と言うとまた倒れ、今は横になり休んでいる。


「だから何度も言ったでしょ?私は犠牲になったつもりは無いわ。これはね、恩返しなの。はい!この話はもう終わり。さ、使者が待っているわ。行きましょう」


納得いかないままのマークの背を押し下に行くと、使者は来た時と変わらないまま玄関で待っていた。

マシューが悲しげに私を見る。階段の横の奥の間。ジャクリーンが休んでいる部屋に向かった。

ノックをすると小さく声がした。中に入ると起き上がり、窓辺に立つジャクリーンと目が合う。私がにこりと笑うと泣き崩れてしまった。


「ジャクリーン?」


傍によって膝を着く。顔を覆って泣くジャクリーンの表情は窺うことが出来ない。

背中を撫でると謝られてしまった。


「どうして謝るの?ジャクリーンは何も悪くないじゃない」

「貴女を巻き込んでしまった。私たちの娘に迎えなかったら、こんな事にはならなかったのに……」

「悲しいこと言わないで。私はお義父さんとお義母さんの娘になれて幸せよ。こんな素敵な両親は世界中どこを探しても居ないわ。二人は最高の家族だもの」


「あ、ついでに兄さんもね」付け足したように軽口を叩くとようやく笑った。


「大好きな妹にそんなこと言われたら、あの子泣いちゃうわよ?」

「いいわねぇ。たまには泣いた顔も見たいかも」


二人笑い合っていると後ろからわざとらしい咳払いがし、見るとマークが顔を引きつらせて笑っていた。隣に立って私たちの様子を見ていただろうマシューは、微笑ましげに見ている。


「僕が泣く時は、ユーリの花嫁衣装を見た時だろうね」

「あら、笑顔で送り出してはくれないの?」

「嬉し泣きだから良いんだ」


すっかりいつも通りの会話になったが、どこか違う空気を感じる。一生の別れ、という訳ではないのにこんなに皆が悲しみを抱いているのは、別れたまま逢えなくなることもあると言うことを知っているから……。




「さてと、行ってきます!」


ジャクリーンの涙も乾き、辛そうではあるが笑っている。

みんなと抱き合い別れの挨拶を済ませ、迎えの馬車に乗り込んだ。

いつまでも手を振る家族を見つめ続けた。見えなくなってもまだ見ている私に使者が気遣いの言葉をかける。


「大丈夫です」

「そうですか……。お城は賑やかな所です。きっとユーリ様も気に入るでしょう」


使者の言葉に笑顔で応える。

馬車の道の先にお城が見えて来た。

さぁ、気合を入れて頑張らなくちゃ!

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