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0夜目―3

この世界に落ちてから、私は一から勉強を始めた。そして私が居た世界……。いや、日本と違う事に驚き戸惑う毎日だ。

まず大きく違うのが通貨と言葉。まぁ、これは国によって違うのは当たり前だからしょうがない。それは地球でも同じだし。

次にこの国――ラクスト――では大統領や首相が国を治めるのではなく、王族が代々国を統治していた。

今、この国を治めているのは27歳の若い王。姿を見たことは無いが、町娘たちの話を聞く限り、かなりの美形らしい。

しかしこの王様、毎年大量に花嫁候補を城に呼んでは誰も娶らず、「飽きた」と言っては追い出すと言う噂だった。しかも気に入らないと簡単に殺してしまうとか黒い噂まである。

まさに暴君。なぜ誰も反乱を起こさないのか?聞けばこの王様、性格は最悪だが、まつりごとには手を抜かず、近隣諸国との交流も積極的に行う。王としては立派に国を治める人物だった。

人って、短所も大きな長所があると帳消しになるのね。そう思った。


マシュー・ダスファニング。私のお義父さんは貴族で、クラストの主要都市――アルーム――の統治を任されていた。今は義兄がその後を継いでいる。

「隠居生活に花が咲いた」とマシューは言っていた。歳の離れた妹が突然出来たにも拘わらず、義兄は暇を見つけては会いに来る。妹、と言うよりは娘、と言っても良いくらい離れた兄妹だが、二人の息子だけあって、おおらかで気さくな性格だ。

若干ウザくもあるが……。


「ユーリ!!」


いつもは語尾にハートマークを付けそうな甘い声で名前を呼ぶのに、今日は乱暴に玄関のドアを開け、慌てた様子で義兄が駆け込んできた。

マシューもジャクリーンも驚き、言葉が出ない。

固まったままの二人に代わり、呼ばれた私が口を開いた。


「いきなりどうしたの、兄さん?」


義兄は名前で呼ばれることより“兄”と呼ばれたいらしかった。

ダスファニング家に娘が出来て一番喜んだのは間違いなく義兄だろう。

勉強中に義兄を名前で呼んだら「名前マークハルトより、お兄ちゃんと呼んでくれ」、と言われて苦笑いが更に引きつったのは良い思い出。


「ああ、ユーリ。君はいつ見ても可愛い。まるで春に咲き誇る花の様に可憐だ」


両手を広げ、そのままいつもの様に抱擁されそうになったが、さっきまでの慌てた様子が気になり、「それどころじゃないでしょ?」と言って躱してしまった。

悲しそうな顔も一瞬。私の質問に今度はまた慌てだした。

30歳を過ぎても落ち着かない義兄に、不安が湧く。


「そうだった!大変なんだ。ユーリを後宮に迎えると、城からの書状が届いたんだよ!」

「はぁ!?こうきゅう~?」


あまりにもぶっ飛んだ話しについていけない。思わず公爵家の娘にそぐわない言葉遣いが出た。

なぜなら私は確かにダスファニング家の娘だが、養女だ。しかも出生が知れない女。そんな人間を後宮に入れるなんて……。頭おかしくなったのか?

もし、(私は絶対にしないけど)王の命を狙う間者とかだったらどうするつもりなのかな。


「ああ、間違いない!しかも今日迎えに来るらしい!」

「うそでしょ……!?」


マシューとジャクリーンも青い顔をして今にも倒れそうになっている。

ああ、大変!

ついこの間、血圧が高いってマシュー言っていたのに、これじゃ増々上がっちゃう。

ジャクリーンも元から色白なのに、血の色まで白くなったみたい。


「ま、まずは皆落ち着こう……!マーク、その話は本当か?」


倒れそうになりながらもさすがは家長。事の状況を見極めることが大切と分かっている。

マシューの質問に大きく頷くマークを見て、ジャクリーンが本当に倒れた。


「ジャクリーン!!」


慌てて駆けよると、痛いくらいに腕を掴まれた。

一体どうしたの?もしかして「厄介事を持ち込みやがって」とか思っているの?

そうだったら原因は間違いなく私だけれど、悲しい。

しかし、予想とは裏腹にジャクリーンは「渡さない」と低く唸った。


「渡さないわ!ユーリは私たちの娘よ!王宮に渡したらどんな目に遭うか……!」


私に泣き縋るジャクリーンの傍らにマシューが跪く。背中をさすりながら「ああ、そうだとも!」と言った。


「ユーリは私たちの子だ。わざわざ辛い目に遭うと分かっている所になんか渡すものか!」


ここまで想われているとは知らず、驚いた。胸が熱くなる。

「おお!ユーリ!!」マークが便乗して抱擁を求めて来たので、マタドールの要領で躱した。

しかし無情にもダスファニング家の重厚な玄関が来客を知らせる。

三人は顔を見合わせ、覚悟を決めたように立ち上がり、客人を迎えるために玄関へ向かった。

その間、私は自室に隠れている様に言われたけど、心配でそんなこと出来ず、階段の影から見ていた。

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