3夜目―2
何とか月一、間に合いました(・・;)
「はっ!?」
気が付いた時にはもう朝だった。
少し視線を下げると自分のものでは有り得ない逞しい腕が見える。私は王様に抱きしめられる形で眠っていたようだ。
体を包む腕を起こさないように慎重にどかしていると、喉の奥が鳴るような声が聞こえて来た。
「もう!起きているのならこの無駄に重い腕をどけてください!」
「何を言う。これはお前を、民を守るための腕だぞ」
王様が王様らしいことを言っている……。
解き放たれたらこちらのもの。さっさとベッドから出てしまおう。
立ち上がった私に王様は、「それで胸があればな……」そう言った。
胸?朝っぱらからセクハラですか?
不機嫌な顔を向けると、口角の上がった綺麗な顔が見ていた。
やけにスース―するなと思い自分の姿を確認すると、ワンピースの夜着が脱げ、上下肌着姿。
言葉も出ないとは正にこの事。執拗な熱い視線から逃げるようにバスルームへ飛び込んだ。
本当になんなの!?
確かに服は着て寝たはずなのに……。王様、脱がしたわね!!
洗面台のシンクに手を付き、グッと力を込めると手が痛くなった。
あ~、もういいや。あの人のやる事にいちいち腹を立てていたら切がないわ。
心を落ち着かせようと深呼吸した。鏡の中の私はいつも通り。
「……ん?」
首筋や胸元に赤い発疹?
触ってみると腫れている訳ではなさそうだ。この内出血したような痕は考えたくないけれど、間違いなくアレに違いない。
バンッ!勢いよくドアを開ける。王様は驚くでもなく起きた時と変わらずベッドに横になり、肘を付いて頭を支えた格好で居た。
「ようやく気付いたか」
カーっと頭に血が上るのが分かった。朝、急激に血圧を上げるのは健康上良くないと知りつつ。
真っ赤な顔で怒る私を見て、ケタケタと笑う王様……。
「おはようございます。先ほど王とすれ違いましたが……。あの、その……」
「ああ、あの傷?でっかい猫が迷い込んで来たんですよ。相手の許可も無く触るから引っ掻かれるんです」
おほほ、いい気味。高笑いをしてそう零すと、イサラさんは苦笑いで朝食の準備を始めた。
その日から王様との夜の攻防は続き、やっと消えたと思ったマークをしつこく付けられる。寝ている内に付けられることが多かったので、最近は隙を見せてはいけないと寝不足気味だった。いい加減切れた私はついに反抗。
「王様ともあろうお方がこんな小さな所有の証しを私ごときに刻むなんて、頭が可笑しくなったんじゃありませんか!?」
一瞬綺麗な顔が崩れる。そこには本当の素の王様が居た。
ほんのり色付いた頬に点になった目。こんな姿は初めてお目にかかる。
「お前は、私のモノだと城に住まう者全てが知っている事実だ……」
「ええ、そうでしょね」
何を今さら言っているのやら。余程動揺させてしまったらしい。
「証し?私が……?」自分に問う様に呟いている。
困った。この固まってしまった王様、どうすれば良いのかしら……。
再び動き出すまで放っておこう。そう決めた私はイレルと遊ぶことにした。お日様の匂いがする、触るとふんわり柔らかな被毛。最近大きくなったイレルは以前にもまして食欲旺盛。餌は伝達用に飼っている鷹の餌を分けてもらい、与えていた。
またお嬢様方がネズミ、置いて行ってくれないかな……。ダメね、こんな事を考えては。
そう言えば、あのお茶会から嫌がらせやお誘いが無くなった。これは良いこととして考えて良いのだろうか。それともまだ何かあると思っていた方が良いのだろうか。
依然として兵の強化は続けられている。気は抜かない方が良さそうだ。
「ひゃあ!?」
籠に入ったイレルを撫ぜていると、いきなり肩を掴まれ後ろに引っ張られた。まるで遊園地の回転アトラクションのように一瞬にして上下が入れ替わる。
何が起きたのか理解する前に、視界に入って来たのはスッキリとした顔の王様。晴々としていて、まるで5月の爽やかな風のような空気を纏っている。
この短時間の間に何があったのか。あんなに唸り、悩み、思考の迷路に迷い込んでいたくせに。
「お前は言ったな、これは所有の証しだと」
王様は自分が付けた私の肌にある後を触りながら言った。優しく触れる指先にくすぐったくなり、出したこともない甘い声が出た。
いつまでも答えない私に気分を害した様子は無い。
「今まで何故こんな痕を残すのか不思議でならなかったが、今分かった。お前の体に私の残した跡があれば、お前は私をいつでも感じられる。他の男の事など考える暇などやらん。お前は私の事だけを考えていればいいのだ……。ユーリ」
な、なにそれ~……。
キスマークって、普通は男避けに残したりするものじゃないの?自分のものだってことは周知の事実だから、王様にとっては私が王様を想うように付けたって事になるわけ?
それって独占欲ってやつよね……。しかもかなり自分勝手だわ。
「お言葉ですが、私が誰を想ったとしても王様には分からないことです。人の頭の中は見えませんからね。だから痕を見ても、必ずしも王様の事を考えるわけじゃありませんよ?」
モノ扱いされるのがちょっと癪に触ったので、小さな意地悪をしてあげた。色恋に慣れていない私はこの痕を見たら、きっと王様の事を考える。でも、考えないですよ?と嘘を吐いた。
怒るかなと思ったが、王様は自信たっぷりに言った。「それは無い」と。
「なぜ?」
「それは私がユーリを想っているからだ」
熱が顔に集中した。
どうしちゃったのかしら、王様ってばいつもと違う。
妖艶な姿はなりを潜め、悪戯をする子供の様に素直に感情をだしている。
心臓がバクバク煩い。熱があるかのように火照る体は動揺の現れ。
マークには「好き」だの「愛してる」だの会う度に言われていたのに、免疫はあるはずなのに。
何でなの……?




