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SHADOW  作者: 氷塊1019
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#01 ENCOUNTER

「お前が今日から入る奴か?」

男は手を差し伸べながらそう言った。今日から入る?全然意味が分からなかった。

「今日から入るって何のことですか?そもそもここは一体どこですか?」

聞きたいことは他にも山ほどあったが、その中で一番気になっていることだった。

「え・・・聞いてないのか?あいつは確かに『勧誘しておいた(つたえておいた)』って言っていたのに・・・」

ますます意味が分からない。勧誘なんてこともされた覚えがない。

「まぁその話は後にしよう。とりあえず君・・・名前は?」

「あぁ・・・日比谷・・・日比谷照です。」

「じゃあテル、訳が分からなくてあれだと思うが、今から仲間と合流して戦闘に参加

してもらう。それで・・・武器が必要だな。とりあえず俺についてきてくれ。そこで

仲間たちと合流する。じゃあ行こうか。俺の名前は遼。如月遼だ。」

そういって遼は合流場所へ向かって歩き出した。よくわからないのは今もだが、

とりあえずこの人についていけば帰れるのだろう・・・


合流場所には、すでにメンバーが全員揃っているようだった。

「あれ?新しいメンバーって日比谷君だったの?」

聞き覚えのある声だった。そこには、クラスメートの桜井理央の姿があった。

「桜井・・・?」

桜井とは何度か話したことがあった。だが、さすがに銃を持った彼女に会った

ことはない。そして遼は状況のわからない僕を放って仲間と話を進めていた。

「とりあえず今日からテルが参戦することになるが、こいつはどうやら何も知らない

らしい。今日は俺と誰かもう一人くらいサポートに来て欲しいんだが・・・」

すると、すぐ隣に立っている剣を持った男が口を開いた。

「だったら、理央を連れて行けばいいじゃないか。なんか二人、知り合いっぽいし。」

「あぁ・・・そうするか。じゃあ俺とテルと理央は向こうで『奴ら』を食い止める。

お前らはいつもと同じようにチーム組んでやってくれ。」

「了解した。新入りがやられないように、ちゃんと守ってやれよ。」

ここまで話を終えると、遼は僕と桜井を呼んだ。

「理央、今日は俺とお前でテルがちゃんと戦えるようにサポートすることになった。

今は・・・銃の使い方ぐらいでいいか。『奴ら』と遭遇する前に簡単に教えてやって

おいてくれ。」

「うん。了解。」

簡単な返事をして桜井はこちらを向いて、そのまま続けた。

「えっと、まだ銃も何も持ってないんだったね。武器を出すにはこうやって・・・」

彼女が自分の手を体の前に差し出すと、手の平の上にレーザーのようなラインが

浮かび上がり、そのまま何もない空間から拳銃がどんどん成型されていった。

自分の中の意味不明な状況がさらに加速して行き、僕はあっけにとられていた。

成型の終わった拳銃を手に取って桜井はニコッと微笑んで話を続けた。

「結構簡単でしょ?これでたいていの武器は揃うから、ちょっとやってみなよ。」

そうか、彼女の銃もこの方法で出したのか。やってみなよというからには、自分のような新参者でもできることなのだろう。僕はさっき彼女がやっていたのと同じように手をかざした。手の平の上にラインが浮き上がり、そのままどんどん拳銃が姿を現していく。その時、自分の目の前にいた遼が口を開いた。

「・・・来た。」

さっきの黒い塊が少しずつこちらに近寄ってくるのが見えた。桜井も銃を構え直した。

いつもクラスで見せている笑顔が消え、テストでも受ける時のような真剣な目つきに変わっていた。

〝バギィン!〟

遼の銃から碧く光る光弾が発射され、黒い塊は跡形もなく四散した。と同時に、あちこちからあの黒い塊が地面から湧き出てくる。だが、二人は慣れた様子で、一体、また一体と倒していく。

僕はまったく動けなかった。状況が理解できないということもあるが、どんどん敵を倒していく二人を見てあっけにとられていた。しかし、ここにいて戦ってくれている二人を前にして、逃げるわけにはいかない。なんとかして、役に立たなくては。

僕は成型されたばかりの拳銃を構え、手近な一体に狙いを定める。そして、引き金を引く。

光弾は黒い塊の頭(のような所)に命中し、黒い塊はばらばらに飛び散った。

「なかなかやるじゃないか!」

遼が敵を倒しながらこちらを向いて微笑んだ。正直、久しぶりに褒められて、嬉しかった。

だんだんコツをつかんできた僕は、一度に4、5体の黒い塊を迎撃するようになっていた。だがこのとき、少しずつ二人から離れて行っていることに、僕は気がついていなかった。

気づいた時には、僕は黒い塊の中ただ一人孤立していた。周りには三十体ほどの黒い塊。

すでに囲まれて逃げ場はない。コツをつかんだからと言って、まだこんな大部隊を相手に取る腕もない。頭の中にあるのは、「ここで攻撃されたら終わり」という考えだけだった。

それでも何とかしようと思っていた矢先、目の前の一体の黒い塊の腕がまるで剣のように鋭く変形した。拳銃を突きつけるが素早い反応で弾かれる。こいつは、他の奴らより大きく、ボスのような感じをしていた。奴はそのまま腕を振り上げる。

「うわああぁぁ!」

もう終わりだ!

〝ガギィィン!〟

誰かが剣を受け止めてくれた。

桜井でも遼でも、また集合場所で見たメンバー達でもなかった。

肩まである夜空のような黒色の髪に銀色に輝く瞳をしている。

そして、全身が淡く発光していた。一目見ただけで、とりあえず普通の女の子では無い

ことがすぐに分かった。彼女はそのまま、無言で黒い塊のボスと戦い始めた。

彼女の強さは尋常ではなかった。さっきの腕を受け止めていたのは、銃剣を取り付けていた長大な銃だった。それを易々と棒のように振り回し、すべての攻撃を受け止めていた。

まとわりついてくる雑魚たちは、近くに来ただけでばらばらに寸断されてしまっていた。

結局、三十体はいた敵の部隊は、彼女が現れてから十分もたたないうちに、ボス一体までになってしまった。そのボスも、両腕を切られあっけなくばらばらにされてしまった。

すべてが終わった後、彼女はこちらを振り向いて、

「ようこそ。現実に飽きた人々の世界へ。」

といって微笑んだ。

「現実・・・?」

「遅ぇぞ!」

またよくわからない単語が、と思っていたら、遼と桜井がこっちに向かって走ってきた。

すると遼が少し怒りながら女の子に向かって口を開いた。

「どういうことだよ!こいつ、お前の勧誘を受けてないって言っていたぞ?

お前、ちゃんと勧誘したって言っていたじゃないか!」

「うん。言ったよ。あれ嘘。」

「この野郎・・・!」

「まあちゃんとこの空間に来れてるんだからいいじゃない。それよりちゃんと見ててあげないと、またどっかに行っちゃいそうよ?」

まだ周りには、敵がうようよいるようだった。そんなことまで感じ取れるなんて、やはり彼女は、人間では無いのだろう。

「テル、こいつはアイって名前の人工知能だ。」

「アイ・・・?」

「ああ。人工知能のAIから名前が来ている。形式番号TYPE-001AI。性格は見ての通り・・・だが心強い奴だ。少なくとも足は引っ張らないから、まあ仲良く接してやってくれ、な?」

「よろしくね、日比谷君。」

そういってアイは右手を差し出してきた。

体はホログラムのような感じでとても触れそうにないのに、しっかりと実体があり、普通の人間のように握手ができた。正直驚いた。

「・・・今からお前も参加するんだろうな?」

「うん。彼をしっかりサポートできるようにあなた達を監督したいからね!」

遼は小さくため息をついて、僕に指示を出してくれた。

「まだ敵が残っているから、テルは俺と一緒に前線で動いてもらう。それでアイは理央と一緒に後ろから来た奴らをかたっぱしから殲滅してくれないか。」

「了解~!」

アイは明るく返事をして、桜井のほうに向かっていった。

「・・・アイツには手を焼いてる。」

「え?」

「意味はすぐに分かるさ。さぁ行こうぜ。今からさっきの大型タイプが沢山出て来る

からな。」

苦笑いしながら遼は言った。だが僕には、まったく笑える気がしなかった。さっきの様なタイプが大量に出てきたら、僕一人では確実にやられていただろうから。

「ん?どうした、行くぞ。」

「あ・・・はい、行きましょう。えーと・・・」

「ああ、俺のことは普通に『遼』でいいから。改めてよろしくな、テル!」

こんな訳の分からない場所で言うことか・・・とは思ったが、もうこれ以上オドオドするのはやめた。元の世界に戻るためには、今はとにかく戦わなくてはいけないんだ。そう自分に言い聞かせた。


遼は少し走りながら仲間と連絡を取ろうとしていた。だが、むこうも戦闘の真っ最中なのだろう、返事は皆無だった。

僕らが現場に急行したときは、そこはもう既に敵の山だった。さっき僕が囲まれていた時よりはるかに多い敵。その中には、さっきの大型タイプもちらほらいた。

「健!大丈夫か?!」

遼が叫ぶと、健という人物らしき声が返ってきた。

「その声は遼か?!こっちは全員大丈夫だ!ただこいつらに阻まれてとてもすぐそっちには行けそうにない!」

黒い塊の中で彼らは孤立しているようだった。

「分かった!俺たちは外からこいつらを倒していく!健たちは内側から倒せるだけ倒していってくれ!」

「了解!」

作戦が決まると、遼は僕にこう言った。

「テル、その拳銃はこいつらを一斉に相手に出来るほどの威力はない。すぐに新しい武器を作るんだ。」

「は・・・はい!」

言われるがままに掌から武器の成型を始めると、黒い塊がこちらに気づいて一斉に襲いかかってきた。僕が銃の成型を終えると同時に、こちらも一斉に撃ち始める。僕の手に成型されたのはアイのそれよりも長い銃だったが、見た目ほどの重さやきつい反動もなく、黒い塊を次々と沈めていった。

しかし後から後から、黒い塊が押し寄せてくる。すっかり忘れていた。こいつらはいくらでも地面から湧き出てくることを。これではいくら倒しても埒があかない。

すると、突然四人の目の前の黒い塊が縦に一直線に切り裂かれた。すると中からあの集合場所で出会った人達が出てきた。

「健!みんな無事か?!」

「なんとか、な!だがこいつらの多さはなんなんだ?!さっきよりもだいぶ増えてる!」

剣を持った男が答えた。この人はさっき遼と集合場所で話していた人だ。彼が健だったようだ。彼らが全員こちらに来たのを確認してから、遼は健に返事をした。

「ああ!奴ら、自分の増殖能力を活かして何体も分身を作ってる!増殖をするより速く、確実に倒さなくてはならない!」

そこまで言うと遼は僕に向かっていった。

「いいか、体を狙っても決定的なダメージは少ない。腕や頭への攻撃のほうが有効だ。」

自分が聞こうとしていたことを先回りして教えてくれる。やはり、この人は頼れる存在だ。

「じゃあもう全員揃った!みんな!なるべく速く敵を倒すぞ!」

健の言葉に全員が頷いた。

「では、やらせて頂こう。」

さっき健と一緒に出てきた人だ。長い前髪で左目が隠れている。そして隠れてない右目で恐らく狙撃用である銃を構え、引き金を引く。それがまるで合図であるかのように、全員がばらばらに散開した。

それにしても、すごい数だ。僕らが話していた間にも増え続け、二百体は軽く超すくらいの敵で僕たちの周りは埋まっていた。こちらの人数は僕を入れて十人。果たしてやれるだろうか?しかし、そんな心配は無用だった。十人全員が揃った時、そこからはもう一方的な掃討戦のような状態になった。僕の何倍もの速さで大量の敵を一度に沈めていく。僕なんて下手をするとただ呆然と見ているだけのような状態だ。黒い塊はなす術なく沈められていった。その中で特に目立って黒い塊を倒していたのはやはり遼であった。彼の持っている武器は拳銃一丁だけだが、明らかに他のメンバーより多くの敵を倒している。僕は必死になってみんなについて行こうと頑張っていた。


数十分後。僕たちの周りには無残にばらばらとなった黒い塊が散らばっているだけだった。こんな短時間でこれだけの敵を皆殺しに出来るなんて、この人達は一体何者なんだろうか。

「・・・終わったか。」

遼がメンバー全員の無事と敵の全滅を確認しながら呟いた。すると、アイがいきなり口を開いた。

「じゃあ、私の出番もこの戦いも終わりってことね!遼?」

「そう・・・だな。お前はもう消えてくれればいいぞ。」

「ん、じゃあ私は撤収させて頂きます!それではみなさんお疲れ様でした~」

そういうと彼女は自身を光へと変換して消えていった。我ながら驚かなかったのが不思議だった。たかが一時間で、こんな超常現象に慣れきってしまったのだろうか?

すると遼が僕の肩をたたきながら言った。

「何か聞きたい事は?」

聞きたいことは山ほどあった。僕は、少しずつ質問をしていった。

「まず・・・この世界について教えてください。」

「この世界はWQWS(ワクワス)空間っていう現実とは違う次元の世界・・・とでも言っておこうか。」

「あなたたちは、何者なんですか?あの敵は、いったいなんなんですか?」

「俺たちはRBOAS(レヴォアス)という秘密裏に設立された組織の一員。そして、あの黒い塊の正体は、未だ分かっていないが、今のところ俺たちは奴らを〝影〟と呼んでいる。」

「・・・〝影〟と戦うことに、何の意味があるんですか?」

「〝影〟どもは放っておくとWQWS空間を拡大させ、終いには俺たちのいる〝現実〟を飲み込んでしまう。その前にある程度〝影〟がこの空間に溜まってきたらこの空間に入って一掃する必要が生じる。俺たちはその空間に入る能力が覚醒した者でもある。」

ここまで来て今自分の置かれている状況がやっと解り始めた。

「じゃあ最後にもう一つだけ・・・能力の覚醒する条件って、なんですか?」

「アイが『現実に飽きた者』と言っていただろ。その他にも例えば現実に嫌気が指した者、現実に絶望した者達が対象になる。だいたい能力が覚醒するとメンバーのうち誰かがこの組織へ勧誘してくるんだが・・・まぁ、お前は例外だな。勧誘なしで偶然この空間に入れているんだからな。」

そうか、僕はテストで赤点を取って現実に嫌気が指していたのか・・・と自分の中で納得した。だが、いかにも現実に満足していそうな桜井が、なぜこの世界にいるのか、という疑問が生まれた。


「入らないか?RBOASへ」

唐突な質問だった。だが、いまさら入らないか、と聞かれても、もう自分の答えは決まっていた。

「もうここまで情報を聞き出しておいて、いまさら引き返すなんて出来ないじゃないですか?解ってますよ。僕も一緒に戦います。よろしくお願いします。」

すると遼は、かすかな笑みを浮かべていった。

「まぁ、元々俺たちはそのつもりでお前をこの空間で助けたんだからな。断られたらどうしようかと思っていたぜ!」

そういってメンバー達は笑い出した。すると笑っていた健が、右手を差し出し口を開いた。

「じゃあ、アイもいなくなったし、遅れたけど新メンバーに対して自己紹介と行こうじゃないか!確かお前の名前はテルだったっけ?俺は平沼健。ソードマスターケンと呼んでくれ!」

「誰もそう呼んでないがな。」

遼が笑いながら言った。厳つい顔や体つきをしていたが、意外に親しみやすい人だった。

「和泉翔太。見ての通り狙撃手をやっている。後方支援は任せてくれ。」

さっき見た左目が隠れている人だ。ライフルの腕は、相当らしい。

「・・・近衛千鶴。」

僕の後ろにいた女性がメガネを待ちあげながら呟いた。冷たい瞳が少し怖い。

「俺は岡部。下の名前は宏樹。これから一緒に戦ってくれるんだな。よろしく。」

この人は見たことがあった。確か陸上部で高校一年の時全国大会やインターハイにも出場していた。今は高校二年のはずだ。

「あたしは遥。高崎遥。よろしくね、新人くん。」

明るく元気な口調で、自分より少し若いような女性が微笑みながら言った。

「僕は赤木っていいます。よろしくお願いしますね。」

学生帽をかぶった自分と同い年くらいの少年が帽子のつばをいじりながら言った。


皆が簡単な自己紹介を終えると、遼が思い出したように続けた。

「あぁ、ちなみにこの空間内ではどんな大怪我をしても死ぬことはない。でも腕を切り落されたりすると再生に時間が掛かるから、できれば無傷で戦い抜くのが一番望ましいな。」

そう言うと遼は、小さめのアタッシェケースのような物を成型して僕に手渡した。中には、あの拳銃とモニターの裏にクリップが付いたような小さい部品が入っていた。

「それは通信機だ。みんなあまり好んで使っていないが・・・持っていて損はない。腕時計にでも付けておいてくれ。その銃は、いつも持ち歩いておいてくれ。空間に入った時すぐに襲われることがあるから、武器を作り終えるまでの繋ぎに使うんだ。」

そこまで説明を終えると遼はさて、と呟き、空に手をかざした。すると、壊れた建物は元通りになり、空も赤い色を取り戻した。現実に戻ってすぐに人々の往来に直撃したため、僕は少し戸惑った。すると桜井が、目をつり上げて僕の持っていた銃を手で隠した。

「銃を他人に見られちゃダメ。RBOAS(あたしたち)は、秘密裏に活動する組織なんだから。」

桜井はそういうと、僕の銃を消してくれた。と同時に、僕は銃の入ったアタッシェケースの存在を思い出し、あわててカバンの中に隠した。そして、メンバーは解散していった。


家に帰るころには、もう太陽が地平線の向こうに消えかかっていた。母親は、僕が帰ると同時に遅くなった僕を質問攻めにする。とりあえずは部活だった、と言う。それ以上は、理解してくれないだろう。質問の光線を放つ母親をかわし、戸棚にあったポテトチップスを取り二階の自分の部屋へ直行する。部屋のドアの鍵を閉め、自分のカバンに詰め込んだアタッシェケースを引っ張り出して、中を改めて確認する。通信機と銃。それ以外何も入っていない。とりあえず通信機を、自分の腕時計に装着しようとするが、腕時計が見当たらない。散々探し回った挙句、腕時計はパソコンラックの上で埃をかぶっていた。父親に買ってもらった物だが、いつからか、ここに置き去りになっていたようだ。装着すると、即座に電源が入り、〝通話可能〟の文字が表示される。今は誰とも話す必要はないが、

おそらく他のメンバーが僕に通信すれば、このモニターに名前が表示されて通話が出来るようになっているのだろう。もう既に通信機には、メンバーの名前が登録されていて、

すぐにでも誰かと通話が可能だったが、今は誰とも通話する必要はない。僕はただただ通信機をいじっていた。マニュアルがないので、操作を覚えるにはこれしかなかった。そして一通りの操作を終えた後、今度は銃を手に取った。意外に軽い。どこにしまえばしっくりくるか解らなかったので、とりあえずカバンのサイドポケットに入れておいた。冬服になったら、ブレザーの下にでも隠せるが、夏真っ盛りの今は、カバンに入れておくのが最良の方法だろう。また今度桜井にでも聞いておこう。


夕食を食べながら、テストの結果はどうだっただの、久々の部活で疲れていないかだのという母親と弟の質問に生返事をしていた。どうでもいいことだが、僕は二歳年下の弟と、三歳年上の姉がいる。姉はアルバイトで毎日遅くまともに会う日は土日くらいしかないが、弟はまだ中学二年生なので、毎日必ず家に帰ってきて、中学校の面白エピソードを語ってくる。だが高校はお前が思っているほど面白い所じゃないぞ、僕みたいになるな、弟よ。


夕食が終わると足早にリビングを後にする。テストが終わったってまだ授業はあるのだ。せめて予習くらいはしておかなくては。机に向かい教科書を手に取る。と、突然、腕時計から目覚まし時計のようなアラーム音が鳴り響いた。驚いて画面を確認すると、そこには

〝桜井 理央〟と表記されていた。通話ボタンを押すと、即座に彼女の元気な声が聞こえてきた。

「あ、日比谷君?明日、放課後に昇降口で待っててほしいって、遼君から連絡が来たの。」

「・・・それって明日教室でも伝えれる事じゃないか?」

「んーそうなんだけどね。なるべく早く日比谷君に伝えるようにって言われて・・・」

「わかったよ・・・明日の放課後昇降口、だな?」

「うん。あ、あとそこには私もついて行く事になっているみたいだから。」

「どこかに行くのか?」

「秘密。それと携帯への連絡用のアドレス教えてよ。そっちの方がやり取りし易いでしょ?」

僕は自分のメールアドレスと電話番号を彼女に伝えた。おそらく彼女はメンバー達に僕のアドレスを教えるつもりでもあるのだろう。


彼女にアドレスを教えて通信を切ると、机の上に置いてある銃を見て、今日一番のため息をついた。何をやっているんだ、僕は。突然迷い込んだ空間で〝影〟と戦わされて・・・それもこんな平和な、日本の住宅街で・・・

しかしこんな考え方ができたのも、まだ僕が何も知らなかったからだった。

これからもっと凄まじい戦場へ送り込まれるなんて、このときは考えもしていなかった。


翌日。いつも通りに登校して、いつも通りに授業を受ける。ひどく普通な学校生活。まぁ、カバンの中にいつもとは全く違う持ち物が入っているのだが。一日の授業が終わると、

掃除にあたっている生徒以外は続々とクラスの教室からはき出されていった。

「昇降口・・・だったな。」

遼や桜井よりもはやく待ち合わせ場所について、少し一休みする。十分くらい待つと、

後ろから声をかけられる。遼だ。

「おお、言われたとおりに来てたんだな。で、桜井は?」

「桜井は今日掃除当番です。でも驚きでしたよ。遼さんがこの高校の生徒だったなんて。」

「そうか?別に仲間で同じ学校なんて珍しくないぜ?」

「そりゃあ・・・まぁ、そうですけど・・・」

確かに、遼の言う通りだった。遼のクラスの近くには岡部が在籍しており、更には年下だと思っていた遥でさえ僕や桜井と同じ学年にいたのだ。ちなみにRBOASのメンバー達はそのほとんどが部活動をしていないらしい。まぁ部活をやっている最中に組織から連絡が来ていきなり集合とか言われても困るので、それはそれでいいかもしれないが。

「そういえば、あの二人は一緒に行かないんですか?」

「委員会だ。」

そこに、ちょうど掃除を終えた桜井がやってきた。

「よし、桜井も来たな。じゃあ、行くとするか。」

僕は言われるがままに二人について行く事になった。細い道を抜けて、住宅街を通り過ぎ、そして最終的に小さなビルの裏手にある路地の、小さなドアの前までやってきた。

「ここは・・・?」

「俺たちの組織の支部だ。地方によってそれぞれ名前が違うが、とりあえず俺達はここのことを〝ギルド〟と呼んでいる。こっちだ。来てくれ。」

驚愕した。支部ということは、この組織は日本中に点在していて、同じような戦いが日夜繰り広げられているということだ。足が止まりそうになる。この奥に、どんなものが待っているのだろう。

「どうした?はやく行くぞ。」

遼と桜井はドアを開け地下へ続く階段の方に向かって歩いていった。僕ははっと我に返り急いで二人について行った。


「ここだ。」

地下へ続く階段を50メートルほど降りるとそこには人一人がぎりぎり入れそうな古いドアがあった。しかし、そのドアの中は外からは想像できないほどの設備だった。高級なマンションの一室はありそうな広い部屋の中に、巨大なモニター、プロジェクター、そして机を埋め尽くすほどの数のパソコン・・・部屋は電灯が点いていなかったが、そのパソコンたちの液晶のせいで顔がはっきり分かる明るさだった。部屋の奥にはまだドアがあり、他の部屋があるということを表していた。


少し遅れて、メンバーたちが部屋に入ってきた。時計はもう既に五時を回っていた。いつもなら、とっくに家に帰って昼寝をしているころだ。みんなは集まったからと言って、特別何かを始める様子ではなかった。雑誌を読んだり、パソコンをいじったり、めいめい違うことをしていた。自分も特にやることがなかったので、置いてあるソファーに座っていた。

「皆さん揃いましたか~?」

突然響く大きな声に思わず驚く。部屋の中央にある巨大なモニターには、見覚えのある顔がどアップで映し出されていた。見覚えのある顔は、にやにやと笑いながらこちらを見つめていた。

「・・・楽しんでるだろ?」

「え?」

もう慣れているのであろう、遼やメンバーたちは、全然驚いた様子もなく画面上のパンクな人工知能を睨み付けていた。

「別に楽しんではいないよ~。それより、今日またここに来た理由を聞きたくない?」

「まぁ・・・確かに二日続けて呼び出されるなんてそうそうないからな。」

岡部がそう呟いた時、アイの顔が真面目で真剣な顔になった(顔がどアップなのには変わりないが)そして、彼女はゆっくりと説明を始めた。

「いいところに気づいてくれました。昨日、私たちが潰したWQWS空間の近くに、また新たなWQWS空間が発生しているみたいなの。」

「昨日の生き残りがいたのか?!」

「ううん。昨日とはまた違う波長。でもこの周波数は少なくともWQWS空間のもので間違いない。だから、昨日から今日までの間に新しい空間が出来たわけ。」

「普通はそんな短時間で作られるはずがないな。で、またそいつらを潰しに行くのか?」

「ええ。放っておくと大変なことになるわ。」

「場所は?」


指定された場所は、学校からそう遠く離れていない公園だった。かなり大きく、すぐそばには大きな道路や商店街がある。もう暗くなり始めている頃だったこともあって、公園には誰もいなかった。誰もいない公園というものには、妙な違和感があるが、これなら誰にも銃を見られる心配はない。メンバーの手の中には、拳銃型のSRWD(スラウド)ガンが握られていた。SRWDガンとは、この世で唯一〝影〟を倒すことができる武器らしい。タイプも多種多様で、実際健が持っているのは刀のようなタイプだ。形状的にはかなりの異形の物から一目でどんなタイプかが分かる物もある。それにしても、〝影〟は現在の人類において脅威ともいえる存在なのに、なぜSRWDガンを量産しないのか?というと、理由は至極単純で、現在の科学技術ではまったく量産が出来ない構造だということだ。RBOASは独自の技術で何とかSRWDガンの製造にこぎつけているらしいが、技術や構造を公に公表する気はないらしい。その理由には、僕たちの知らない「何か」が隠されているのだろう。どちらにしろ、秘密を探れば「お前は知りすぎた」などと犯罪組織よろしくな展開になってしまうかもしれない。今はこの組織の内面に深入りするべきではないだろう。と、僕が考えている間に、遼が言った。

「じゃあ、行くぞ。」

「あ、ちょっと待ってください!僕はこの前あの世界に入れたのは無意識だったというか

・・・だから、入り方がまだイマイチよく分からないんですよね・・・。」

「簡単だ。目をつぶって何も考えずに一歩踏み出せばいい。」

なるほど、一時的に無意識の時間を作るのか。僕は言われた通り目を閉じた。

次に目を開けた時にはもう既に生き物の気配がなくなっていた。


やっと投稿出来た・・・お久しぶりです、氷塊です。

ようやく物語の軸が回り始めましたね(?)。

実はこの話、二ヶ月ほど前にはすでに完成していたのですが、用事で忙しかったり、ちまちま修正を加えていたりしている間にこんなになってしまいました・・・

すみません、本当にスミマセン・・・

前回同様質問など募集してますので今後ともよろしくお願いします!


あと、次回はもっと早く投稿できるよう頑張ります・・・

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