彼
「逆に聞くけど、なんで俺が、クラスの奴らとご飯食べないといけないの?」
彼は、追いかけてきた私にそう言った。こうも続ける。
「お前、なんで一人でここまでついてきたの? ストーカーか?」
「……」
思わず黙ってしまった。少し身に覚えがある。ストーカーではないが、それに似たようなこともしているのだ。
「ごめん」
私はそう謝ったが、返事が帰ってくることはなかった。とある、秋の日のことだった。
雪がしんしんと降り積もる外を眺めながら、私は数学の授業を聞いていた。いや、聞き流していた。xやyの羅列にはもう飽きた。
――私は、彼に追いつくために勉強してきた。
五月の中間テスト、七月の期末テスト、そして夏休み明けの宿題テスト……そのあともたくさん定期テストがあったが、その中で、私が学年一位を取れたテストはゼロだ。学年一位は、全て彼だ。
一学期中間テストで初めて、私立高校の脅威の授業スピードに追いつかなくなり、初めて赤点を取った。中学まで学年トップだった私は、焦った。焦って勉強して、その結果が期末テスト成績――つまり、学年三位だった。母には、中間のときよりも怒られた。友人たちは、赤点じゃなかった、補習免れたと、レベルの低い自慢話ばかりしていたが、いつもは不快に思うそれもそのときばかりは羨ましく感じた。
――なんて幸福な奴ら、と。
次の宿題テストは、宿題がそのまま出ただけだったので楽勝だったのだが、漢字と英単語のスペルをたった一問ずつ、間違えて二位。きっと彼は満点だったのだろうと考えると、悔しくなる。
その次のテスト、つまり二学期中間テストが終わったあと、私は昼休みにいつも弁当を持ってふらっと出て行ってしまう彼を、追いかけてみることにした。不動の学年トップが、いつもどう過ごしているのかが気になって、その日は朝から付け回していたのだ。ストーカーに見えるかもしれない、とは思ったが、性別的には大丈夫だろう。あと、『お近づきになりたい』という気持ちもあったから歯止めが利くはずもなかった。
そして、私は見てしまった。彼は屋上へ行くなりおもむろに惣菜パンを取り出し、もそもそと食べ始めたのだ。それがあり得なかった当時の私は、思わず声をかけてしまった。
「お前、どうして一人で昼、食べてるの?」
その結果は、まあいうまでもない。適当な返事を返されただけだ。しかし、その返事を聞いたそのころから私は、心に変なもやもやを感じるようになった。
丁度ぴったし1000字書きました。ふはははは