第五話「幸せの――ひと時を」
行きは野郎と一緒だった残念な俺ではあるが、帰りは何と美少女と二人きりという――只今、リア充街道まっしぐら。
鬼頭内の馬鹿にリア充死ねと言ったばかりだが、俺自身がリア充になったのだから、取り消してやる事にしよう。
――そんなわけで、神坂木に案内されるまま、俺は神坂木家へとやって来ていた。
ハーイ、鬼頭内に続く金持ちの登場ですよ~!
家というよりは屋敷? 館? 敷地内に山とかある。
鬼頭内である程度は慣れていたとはいえ、不意打ちにもほどがあるぞ、神坂木家。
しかし金持ちは金持ちでも、鬼頭内の馬鹿と同じで高級車での送り迎えはないんだなー。これは少し金持ちの見方を変える必要があるのかもしれない。
……というか、金持ちのお嬢さんの家にお邪魔するというイベントは、かなり危ないんじゃなかろうか?
執事やらメイドやら、あるいは娘は渡さんとかほざく父親の妨害にあったり――うわー、嫌だなぁ普通に。
どうせなら、神坂木と一緒に何処か別の場所に遊びに行くとかさあ――ってそれはデートか。デートはさすがに『恋人』になってからだよな。自重自重。
だがまあ、どんな困難が立ち塞がろうと、俺のこの神坂木を愛する気持ちが屈する事はないぜ!
陰険執事でも冷酷メイドでも娘大好き親父でもなんでもかかってきやがれってんだ。
「……わ、私の、部屋ですっ」
「…………」
何の妨害もなく辿り着いてしまった。
これはこれで逆に怖いな。
しかし、門から神坂木の部屋までは随分と歩いたはずなのに、両親はともかくとして、使用人にすら出会わないというのはどういう事だろう?
「……神坂木、部屋の感想を言う前に一つ聞きたい事があるんだが」
「え、なに……?」
「この家さ、誰も居ないの? 勿論、今って意味でだけど」
「い、居ます、よ……?」
「ふぅん……?」
居るには居るのか。
たまたま出くわさなかっただけか?
さすが俺。
危険回避スキルが神がかってる。
「ど、どう、かな……?」
神坂木は部屋に入り、俺に感想を求めた。本当に聞きたいのか、部屋の感想。
俺のイメージだと、金持ちのお嬢さんの部屋というのは、如何にも高そうな物とかたくさん飾ってる高飛車お嬢様タイプか、可愛いぬいぐるみで部屋を囲んだりしてるロリお嬢様タイプってとこなんだが――神坂木は、どちらかと言うと見た目だけなら後者だが、部屋についてはそのどちらにも属さないようである。
「なんっつーか、意外だな。意外と――『普通』っぽい」
「……す、すいましぇ……」
「あ、ごめん! って、違う! 褒めてんだよ!? いやそれも違うか――とにかく、貶してるわけじゃねえから!」
神坂木に謝らせた上に、噛ませてしまった……最悪だ。
「シンプルでいいじゃん! 俺は好きだぜ、こういう部屋!」
「…………」
あれ、こういう褒め方って間違ってんのか!?
ただでさえ暗い神坂木の顔色がさらに暗く――
「あ、ありがと……」
あ、嬉しいんだ。
照れてたって事か……。
うーむ……女心とは難しいものだな。
でもまあ、やっぱり神坂木と話すのは楽しいぜ。
今日、出会ったばかりの女子に、俺の心は、今までの人生で一番――満たされて、しまっていた。