第四話「突然の提案――乗らない理由がない」
復習テスト?
ああ、勿論、楽勝だったぜ。
楽勝で――赤点、だろうな……。
この天才的俺は学校の勉強というモノがちょっとばかし苦手なのだ。
だが、そんな事はどうでもいいのだ――俺はただ、神坂木と話したいだけなのだから。もっともっと話しまくりたい――そのためのネタになるのなら、俺の赤点も役に立つってもんだ。
「なあ神坂木、テストどうだった?」
言うまでもなく、テスト時間が終わって休み時間が訪れ、俺は隣の席に居る神坂木に話しかけた。
「え、えと……自信、ないです……」
「そっかぁ、だが安心しろ。俺の方が自信ないから、神坂木は自信持っていいと思うぜ」
「……あ、ありがと……」
神坂木が自信持ってくれて本当によかった。
ああもう、可愛いなー!
照れ屋なのか目を合わせて話してくれないし、俺と話すのが恥ずかしいのか頬を赤らめたり。その仕草一つ一つが本当に愛らしい。
今すぐにでも告白したい気分を必死に落ち着かせ、あくまでも紳士的に振る舞う。
「ところで神坂木、お前ン家――何処にあるんだ?」
「……へ?」
待て。待て待て待て待て。
いったいぜんたい俺は何を聞いているのだ。
ストーカーだって直接聞くような真似はしないだろうに。
「あ……違う、違うんだ! 今のは言葉の綾っつーか……学校近いのかなー……って、ちょっと気になっただけで――」
「……来ます、か?」
「へ?」
あれ。あれれれれれ?
「……が、学校が、終わったら――私の家、あ、遊びに……来ますか……?」
どういう展開だよ、コレ。
俺の妄想か? いや、でも、妄想ならわかるはずだろ。
じゃあ――じゃあ、コレは……妄想じゃない、『現実』、って事……?
「い、行く!」
頭では混乱しつつも、俺の声はそれを押し切り、元気よくそう言った。
「じゃ、じゃあ……い、一緒に、か、帰ります、よね……?」
「お、おうよ! 案内してもらわにゃ辿り着けん! 正しい判断だな! さすがだぞ、神坂木!」
「あ、ありがと……っ」
ひゃっほーい!
なんだ、なんだよ!
鬼頭内の馬鹿なんかに相談する必要なんてまるでなかった!
やはり俺は天才だ!
恵まれてるのは鬼頭内なんかじゃなく、俺だったんだ!
ざまあみやがれってんだ!
「し、しかし神坂木、急にどうしたんだ?」
「え、あ……『日々丸くん』が、聞くから……どうせならって、思って……も、もし、嫌なら、無理しなくても――」
「無理などしてない! むしろ好きだ!」
「え……!?」
「い、家巡りがなっ!」
「あ……そ、そうなん、ですか……」
お、おお……『日々丸くん』って言われた……神坂木に、『日々丸くん』って呼ばれた!
ま、まあまあ、落ち着け俺。
何をそんなに興奮してるのだ。
テンション上がるのはわかるが、あまり行き過ぎるとひかれてしまう。
それに、せっかく告白っぽい事が出来たのに、羞恥心が邪魔をして失敗しちまった……。
まあ、焦るな俺よ。これからチャンスなどいくらでもある。
なんせ、会った初日で『友達』になり、その日のうちに家まで行っちゃう仲になるのだ。
これはもう、フラグは充分立ってんだ。
あとは、フラグを折らないように気をつければ、いつか、もしかしたら――結婚しちまうかも、しれないしな。
まだまだ油断は出来ないが、そこは俺、天才だから、なんとかなると信じてるぜ。