第三話「友達に――いや恋人に」
俺は窓際後方だし、隣は可愛い転校生だし、新学期初日から至れり尽くせりだな。
つまらんとか言ったけど、もしかしたら、これからは楽しくなるかもしれん。
せっかくの中二の学校生活、楽しく過ごさねば楽しくない!
ああ、もうやべえ、さっきからテンション上がりっぱなしだな俺という奴は。
と言うのも、さっき――
「俺の名は日々丸回裏。よろしくな、神坂木」
「……あ、は、はいっ。よろしくおにぇがっ……します……」
「ところで噛み坂木」
「と、とても、失礼な呼ばれ方をしたような……」
「気のせいだ。それより神坂木、俺と――」
「……はい?」
「……いや、まずは、友達からにしよう。俺と友達になってほしい」
「……え? あ、はい」
「お互いもっとよく知る必要があるし、まだ新学期初日だ――焦る事はないだろう。もしも他の馬鹿が告白なんて真似をしようものなら、この俺が抹消するのみである」
「……あの、今のは声に出してはいけない台詞なのではっ」
「ああ、すまん。たまにやってしまうんだ。気にしないでくれ。ははははっ!」
「は、はあ……」
というような具合に話が進み、神坂木と友達になれた俺なのである。
似合わない爽やかキャラを演じた甲斐があったというものだ。
ここから俺と神坂木のラブコメな展開が始まり、最後にはめでたく結婚するというシナリオになっている。
「だからお前なんかに相談に来てやったのだ。ありがたく思え」
「それは間違いなく相談してもらう側の態度ではないな」
休み時間。
神坂木と友達になり、余った時間で隣のクラスを訪問し、我が友人というよりもはや悪友とも呼べる鬼頭内金具に会いに来た。
何が悲しくて貴重な休み時間に男に会いに来なきゃならんのだ。
「それはこっちの台詞だ」
「暇人が何を言う」
「次、一年の時の復習テストだっつの。お前のクラスもそうだろ? そんな転校生とラブラブになるなんて馬鹿な夢見てないで、少しは勉強でもしてろ」
さすがは優等生。
どうせ勉強などしなくても百点を取るくせに、無意味な努力をしやがるぜ。
「しかし鬼頭内、勢いで友達になってしまったが――本当にこれでよかったのだろうか?」
「自分に都合の悪い事は普通にスルーするんだったな……お前は」
「どう思うよ?」
「お前の言いたい事はわかる。最初に『友達』という選択肢を選んでしまったが故に、ずっと『友達』という可能性が出来ちまったんだろ?」
「非常事態だ……やはり初手は愛の告白にしておけばよかった!」
「……あれって、教室での会話だろ? もうちょっと場所を選ぼうとか思わねえのかよ? いきなり告白ってのもどうかと思うけど、クラスメイトがうじゃうじゃ居る教室で、それはさすがにねえよ」
「そうか? うーん、そうだな――場所なら体育倉庫とかいいよな」
「そうか。なら早めに諦めた方がいいな」
鬼頭内のクールなツッコミにも、春休みを経てキレを増している――そんな気がした。
「まあそれはともかく、どうすれば俺と神坂木は『恋人』になれるか――それをまず考えて俺に教えろ」
「教えられる側の態度じゃないな」
「教えてくんね?」
「馴れ馴れしいな」
「うっふ~ん、私のために教えてぇん♪」
「うっ……」
「何お前……あからさまに気持ち悪そうにしてんだ……」
「お前が気持ち悪いもん見せるからだ!」
「わからないのかよ? それだけ俺は本気って事だぜ」
「お前が恋愛関係において本気を見せているって事は本当に驚いてるけどさ、それにしたって『異常』だぜ、今のお前」
「はあ?」
呆れ半分、といった感じに、鬼頭内は肩を竦めて見せた。
「お前の好みなんて知らないし、チビだけど美少女っていうのは確かにちょっと普通とは違う魅力があるかもしれないけど……ん? ……まさかお前、ロリコンだったのか!?」
「ちげえよ!」
「中二にして早くもロリコンとかマジひくわー……」
あらぬ誤解をされてしまった。
俺は別に、神坂木が小さいとか、そんな理由だけで一目惚れをしたんじゃない。
美少女という見た目も、緊張で言葉を噛んでしまうところも、ちょっと内気なところも、全部含めて――好きになった。
「……まるで別人だな。中二病以外に取り柄のないお前をそこまで変えるほどの女子なのか、その――神坂木は」
「中二病しか取り柄がないという部分は百歩譲って聞き流せるが、俺以外で神坂木を『さん付け』しない奴はこの俺が抹消する」
「それを言うなら担任は?」
「あの馬鹿教師は神楽坂と呼んでいる。神坂木の事ではない」
「そう解釈するのか」
「神坂木、早く俺の名を呼んでくれないだろうか――」
「まだ名前すら呼ばれてない段階で『恋人』になろうとする――どう考えても『異常』じゃねえか」
「まだ言うか」
「くれぐれも犯罪だけはやめとけよ」
「お前は俺を何だと思ってやがる!?」
「変態」
「よォし、表出ろォ!」
返り討ちにされた事は言うまでもない。