第二話「美少女転校生――始まったな」
「んがー」
新しい二年の教室で、窓際後方というありきたりでお決まりな席を確保(先客が居たが排除)した俺は、全国の女子を虜にするほどの格好いい欠伸をした。
通学中――どころか、始業式すら何も面白い事はなかったので、その時の事を語る必要は何一つない。
つーか、アレだな。つまらん。
この俺が世界征服をする価値すらないと最近思えてきたぜ――この世界。
もう中二何だしさ、異世界に召喚されたり転生したり、そういう面白い展開が来てもいいと思うんだ。
勇者? 魔王? そんなのどっちでもいいっての。
たくさんの個性的な美少女ヒロイン達に囲まれて、ハーレムな冒険活劇や凄まじいバトルを繰り広げて伝説を残し、最後には涙のお別れで自分の世界へ……と、まあ、このエンディングだけはぶっちゃけどっちでもいいや――むしろ向こうで暮らした方が楽しそう。
そんなファンタジーな妄想を抱きながら、崇高なる俺は机を枕に瞼を閉じ――
「――では、転校生を紹介する」
果たして、今まで寝ていたのかボーっとしていただけなのかは知らないが、気づけばそんな展開になっていた。
春休み明け、一学期というこの季節の初日に、転校生などさして珍しくもないが、物語の始まりとしてはよくあるパターンだ。
中二病を患っているこの俺が、そんな教師の言葉で目が覚めないわけがない。
「先生ー、それって女子ですかー?」
クラスには必ず、こういう事を言う馬鹿が居る。
いや、まったく、ありがたい話だ。
「それは見てのお楽しみだ――おーい、えっと、神楽坂ー?」
教師が教室の外に居るのであろう転校生をそんな感じで呼ぶ。何故に疑問形?
教室のドアはゆっくりと開かれ、件の転校生がちょこちょこと歩いてきた。
「……あの、私、神楽坂では……」
「ん? おお、すまん。先生も年かな……自分で黒板に書いて自己紹介してもらえるか?」
「……下の方でも、いいですか……?」
転校生は美少女だった。
だがそれと同時に――チビでもあった。
俺達と同じ中二とは思えない、まだまだ小学生でも普通に通用するぐらい――とんでもなくガキっぽい美少女だった。
ガキっぽいのに美少女という表現はさすがにどうかと思うが――少なくとも俺は、美少女と認識している。
普通に――いや、超可愛い。
この俺とした事が――これはいわゆる、一目惚れというやつかもしれん。
転校生はぎこちない手でチョークを持ち、背の高さの関係で、黒板の下の方に自分のフルネームを書いた。
「……えと、神坂木みみ、です……よ、よろしくでしゅ、ですっ」
噛んだ。最後の最後に、噛んだ。しかも言い直してる。
何これ超可愛い。
お持ち帰り決定だろ。
それにしてもこの馬鹿教師、神坂木を神楽坂と間違えるとは、もういい加減に定年退職でもしてろ。
「皆、仲良くするんだぞ。じゃあ、えっと――神楽坂の席は……」
「…………」
ていうか、辞職しろ。
……ん? あ、しまった。窓際後方の席は確保出来たが、その隣までは空けてない。転校生が来るという展開はある程度の予想をしていたものの、どうせたいした奴は来ないだろうとたかをくくったのがいけなかった。
どうする……誰にも悟られず、隣の席を確保するには、抹消するしか――
「……?」
これはいったい、どういう事だろう。
確かに隣には誰か居たような気がしたのだが、ふと見てみると誰も居ない――いつの間にか空席だ。
誰かが空気を読んで文字通りの空気になったのか――と楽観視してみるも、さすがの俺でも『おかしい』と思う。
何故なら――机の上には、シャーペンに消しゴム、一年の時の教科書やノートなどの勉強道具が既に置かれていたからだ。
授業が始まる前に勉強(復習?)するとか何処のガリ勉だよ――と、今はそんな事どうでもいいか。
まさか本当に空気と同化したのか?
いくら俺が中二病でも、現実にそんな怪事件が起きていたとしても簡単には信じれないぞ。
……まあいいや。
おかげで神坂木は空いているこの席――窓際後方に居る俺の隣の席へ鎮座する事になるのだ。
願ったり叶ったりとはまさにこの事である。