第一話「今日も平和だ――世界征服がしたい」
たいして面白いイベントもなかった春休みが終わり、登校日を迎えた朝――この俺こと天才と友人こと馬鹿は、桜並木な通学路を気だるげに歩いていた。
「おい、馬鹿よ」
「なんだ、馬鹿」
「そこは天才と呼べ。区別がつかん」
「馬鹿はお前だ馬鹿」
「馬鹿馬鹿言うな馬鹿。どっちが馬鹿だかわからんしなんかええとそうだ見にくい」
「馬鹿はお前だし醜いのもお前だ」
「ほう……そんなに死にたいか……」
「黙れ中二」
「貴様も今日からその中二だろうが」
「言い直そう。黙れ厨二」
「死ね」
「やだ」
他愛のない会話だった。何処にでもいる――中二男子の会話だ。
ここでこの俺が懇切丁寧に説明を入れてやる事にする。感謝しろよ。
俺――日々丸回裏。神田川中学二年。夢は大きく世界征服。誰もが憧れる優等生にして世界が羨むハーレムの体現者。イケメン。
友人――鬼頭内金具。神田川中学二年。夢は小さく雑草栽培。誰もが蔑む劣等性にして近所が騒ぐ変質者の露出狂。ブサメン。
「……嘘は、よくないよな」
「どうした急に」
「いや、なんか酷く失礼な説明をされた気がしてな」
「ほう……間違いなくそれは気のせいだ」
「気が――してなァ!」
「おおう!?」
不意打ち。いきなり繰り出された鬼頭内の拳を俺は神回避する。ぶっちゃけ掠った。いてェ。
「な、何しやがる!?」
「それはこっちのセリフだ! 何言いやがる!?」
「俺のモノローグを勝手に読むな!」
油断も隙もあったもんじゃねえ。
そんなヤバい能力は、俺にこそふさわしいだろ。
抹消するか――
「オラァ!」
「……あン?」
俺の渾身の右ストレートは、鬼頭内の手によってあっさり捕えられてしまう。
そう――鬼頭内金具は喧嘩の強い中二だった。
「…………」
「何か言い残す事は?」
「……朝飯、何食った……?」
「焼肉」
「このボンボンが!」
ついでに言うと、金持ちの家に生まれた坊ちゃんである。イケメンでモテモテで優等生で、誰もが憧れるし頼りになるし将来のある、ムカつくぐらい素晴らしい才能に恵まれた、この世の男共が羨ましくなる要素を全部まとめて凝縮したみたいな野郎だ。
「……遺言はそれでいいのか?」
「……いや、変える、やっぱ変える」
「言ってみろ」
「リア充爆発しろ!」
「……いいだろう。文字通り、俺の拳は爆発するほどの威力だ――存分に味わいやがれ!」
「イヤァァァァァァァァァァ神様助けてェェェェェェェェェェ!!」
春休みを挟んだ、久しぶりの――いつもの日常だった。