最終話「エピローグ――という名の僕」
世界は僕を中心に廻っていない――何故なら、僕以外の一個人からも世界の進行を理解しようとする事は可能だからだ。
僕にそれを教えてくれた彼女は、いつも僕のすぐそばに居て、僕を支えようと――助けようとしてくれる。
僕以外の視点――彼女の視点で、僕がどのように映っているかはわからないし、それを聞くのが怖いというのもあるが、少なくとも、必死になって尽くしてくれるという事実が、僕にある種の救いを与えていたように今にして思う。
仮に僕が物語の主人公だったとしても、彼女はその主人公のヒロインのような立ち位置にあり、また、もう一人の主人公であるように――僕はそう、信じたい。
一週間後。
四月一日からの一週間後で、四月八日になった。
この一週間、僕が何をしていたのかと言うと、まず初めに、僕の日常のほとんどを費やしていたネットゲームを封印するため、パソコンを使うのをやめた。元々、父のパソコン(家にはあまり居ないので父が使う機会は減ったもの)を無断拝借していたのだが、それをまず父に返したのだ。そうする事で、これからはネットに頼らず、現実に頑張るという――そういうルールを自分の中で正当化した。
次に、両親、それに、協力者である神楽坂を交えての、家族会議を開いてもらった。僕は、今までの事を素直に謝罪し、新学期からは学校に行く事を約束した。そのための準備を、残り一週間で済ませるため、両親の協力もお願いしたというわけだ。やはり、神楽坂と僕はまだ子供だし、大人もちゃんと居た方が、自分達より長い人生経験の事、色々と手伝ってもらえると思ったのだ。さすがにわがままが過ぎると申し訳なく思ったのだけれど、両親は快く承諾してくれた。家族の大切さというものを、思い出させてくれた気がした。
そんなこんなで一週間を、ひきこもりの脱出、そして、不登校克服のための訓練をやっていた。まあ、訓練というほどのものでもないのだけれど。
僕は自分の事を普通と思っていたのだが、実はそんな事はなかったのかもしれない。
変わり者。
気まぐれにひきこもって不登校になったかと思えば、長いブランクをものともせず、思い立って一週間でその過去を払拭し、四月八日の始業式に行けているというのだから――本当にもう、『嘘が冗談』みたいな話である。
その日の放課後。
というか、今日は始業式だけなので授業はまだなく、昼前だったりするのだが、まあ放課後。
僕は鬼頭内金具を呼び出していた。
あの日――七月七日に鬼頭内がしたように、今度は僕の方から、という事である。
鬼頭内は僕が学校へ来なくなった後、何故か、不良から優等生へと変貌を遂げたというのだから、驚きだ。僕の事があったからなのかはわからないが、別にそうであってほしいとは思わない。気にしないでいてくれた方が楽だが、さすがにそれはないかもしれない。僕が来なくなってから――というのが、あからさま過ぎるからだ。
「……日々丸」
鬼頭内が僕の呼び出しに応えて来てくれた。
「……あ、あの時は――」
「いや、いい」
「……は?」
謝られたくはない。
僕は鬼頭内を許さないし、鬼頭内も僕を許さなくていい。
あの夢のような関係で――悪友にでもなれたら、僕はちょっと嬉しいぐらいだ。
キョトンとする鬼頭内に、僕は目一杯に爽やか(のつもりだが、悪そうだ)に笑い、この日のために用意していた台詞を吐きだした。
「さあ、殴り合おうか」
中二にして中二病を患った――そんな瞬間だった。