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第十六話「幻想の――最後」

 再び、教室にて。

 俺と鬼頭内は神兵共の猛攻を能力を駆使しながら何とか掻い潜り、神坂木が根城にしている教室へと戻って来ていた。

 内装が何故か『魔王の間』みたいな感じになってるのだが、スルーする事にする。

「よくぞ、来たな……勇者ヒビマルとその従者キトウウチよ……」

「魔王っぽく言うな」

 せっかくスルーしようとしたのに……。

「おい神坂木、ふざけるな」

 さすがの鬼頭内も、今はそういう空気にするべきではないと判断したのだろう。その顔は怒りに満ちていた。

「誰が従者だ! 逆だろうが!」

「…………」

 ……ああ、駄目だ。誰かこんな状況でもツッコミの出来る人を呼んでくれ。

「何を言ってるんですか? 日々丸くんが従者なわけないですよ。勇者はカッコイイ方がやると相場が決まっています」

「いや、それだけはしっかり訂正してもらわないとな!」

 駄目だこいつら……早く何とかしないと。

 このままこんな話で引っ張るわけにもいかないので、俺は鬼頭内を手で制し、神坂木へ向かって前へ一歩出た。

「神坂木、前座はもういいだろ。そろそろお前の事を知りたい」

「……意外と大胆ですね、日々丸くん……でも、そういうの、嫌いじゃないですよ」

 頬を赤らめ、目線をやや下に、恥じらうようにして神坂木は言う。

「わかった。言い直そう。お前はいったい、何を企んでるんだ?」

「私はただ、日々丸くんと結ばれたいだけです」

 ……おかしいな。どういう言い方をしても、神坂木はあくまでふざけ通す気なのか……。というか、何かコイツ、急に俺に対して好意を示しだした気がするんだが、コレ、からかわれてんのか?

「俺からも質問したい」

 鬼頭内が手を上げ、俺の横に並んだ。

「どうしてお前――」

「却下」

「……は?」

 神坂木はあからさまに嫌な顔をして、

「私、鬼頭内くんの事、嫌いですから、何も答えるつもりはありません。というか、話し掛けないでください」

 シッシッ、と犬でも追いやるような態度を取った。

 イケメンの鬼頭内が女子に嫌いと言われた――それだけの事で、俺の心は晴れやかになっていく。

「日々丸、お前何ニヤニヤしてんだ?」

「別にぃ?」

「……チッ」

 いつもなら罵り合っていたところだろうが、今は言葉には気をつけなくちゃならん時だからな。鬼頭内も大人しかった。

「……ぐはッ!?」

 大人しく何かなかった――グーで殴られた!

「今はそんな事、どうでもいいんだよ。ちゃんと平和的に話し合おうってんだ」

「じゃあ殴るなよ!」

 くそ……油断した。

 言葉さえ気をつければいいだけで、何かを思ったり、行動したりするのは、能力的には問題ないんだよな……。

 ……つーか、いい加減、閑話休題だ。


「神坂木、お前の目的は何なんだ?」

「そうですね、まあ――」

 神坂木は視線を這わせるようにして、俺の方を向いた。

「強いて上げるなら、日々丸くんが全部自分で何もかもを格好よく謎解きしてくれるのが、私の望みであり、目的ですね」

「謎解きって……」

「その意見には俺も同意せざるを得ないな」

 何故、鬼頭内までそんな事を言うんだ……。まるで俺が一人で孤立してしまったみたいじゃないか。敵が二人に増えたみたいじゃないか。

「いや、そもそも謎解きなんて出来る領域じゃないだろ、コレ……ファンタジー的な能力とか、本当もう色々ありなわけだし、だいたいコレは全部お前が仕組んで――」

「すぐ人のせいにするのは日々丸くんの悪い癖だよ?」

「は……何、言って……?」

 神坂木の様子が、さっきまでと明らかに変わった。

 その目つきに、口調に、態度に、仕草に、何もかも、全部違う。

 そして同時にそれは、どういうわけか――俺を畏怖させた。

「日々丸くん――ねえ、日々丸回裏ひびまるまわりくん。どうして君は、見てくれないのかな」

「み、見るって、何を……? お、お前をか?」

「『周り』を――だよ」

 神坂木の言葉一つ一つが、俺の心に突き刺さる。響いてくる。意味も理由もわからないが、どうしてなんだ――凄く、怖い。今まで、こんなにも恐怖を感じる事があったか? いや、仮になかったとしても、今がまさにそうなんだったとしたら、それは何の意味もない。逃げる事さえ、許されなくなる。それは――嫌だ。

「な、なあ、鬼頭内――お前からも、ほら、さっき、質問したいとか、言ってたよな? しろよ、今――」

 隣を見ると、鬼頭内の姿はなかった。アイツ、いつの間に消えていたんだ……?

「神坂木! コレもお前の仕業だろう!?」

「……日々丸くん」

「どうしてこんな事するんだ!? お前に何のメリットがある!? 俺なんかに構ってんじゃねえよ! 俺はお前みたいな奴、好きになれないって言っただろ! 嫌いなんだよ!」

「日々丸くん!」

「うっせえよ! 気易く呼ぶな! お前いったい、『何様』のつもりだよ!?」


「日々丸くんの『彼女』のつもりだよ!!」


「……え?」


 気づけば俺は――いや、『僕』は、部屋のベッドの布団に潜って――泣いていた。

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