第十四話「戦争を――始めようか」
「日々丸、ちょっと耳貸せ」
さすがに唖然とした――せざるを得なかった。
まさかこんなに早く復活するとは――というか、マジで復活するとは――と言いたいところでもあるが。
鬼頭内は俺の返事も待たずに耳元で小さく囁いた。
「……何だと?」
「いいからやれ、早く。それと、言葉にした方が『イメージ』し易いはずだ」
鬼頭内は冷静に見えて焦っている。
この状況――神坂木が唖然としている間に手を打たないと、手段はなくなる。
俺は深く考えるのはやめて、鬼頭内の言う通りに、
「俺の『能力』の素を言葉に限定し、発動を五秒後に変更」
と、言葉を発した。
「次だ」
「俺と同じ『能力』を鬼頭内金具に与える」
「よし」
言われるままにやってみたが、本当にこんなんでよかったのか?
何も起きたような感じはしないし、それに――
「神坂木みみ、俺達と――」
鬼頭内はそこで溜め、薄気味悪いぐらい嫌な笑みで、その言葉を吐きだした。
「――『戦争』を、しようじゃないか」
俺は胸を押さえて、荒い息を吐きだしながら、マットの上に背中から倒れた。
「……くそ、お前のせいだぞ!」
「あ?」
「お前があんな――あんな事を言うから」
そうだ、鬼頭内の馬鹿が、いきなり戦争しようとか神坂木に宣言したせいで、俺は今、戦争に巻き込まれているのだ。
「勘違いしてるみたいだから教えてやるけど、別にこれは、俺の能力が発動した結果じゃないぜ」
「……どういう事だ?」
「ちゃんと思い出してみろよ。お前は能力の詳細を変更し、俺に同等の能力を与えた。でも、発動時間が五秒後になったんだから、俺に能力が与えられるのは、五秒後って事になるだろ?」
「あ」
「だから、俺の能力が発動したわけじゃない。馬鹿なお前なら簡単に騙せるだろうから、神坂木はこの戦争を能力のせいにして自分で勝手に始めたんだ」
「……お前ら、さすがに俺を馬鹿にし過ぎだろ……」
まあ、そんな簡単なトリックとも呼べないやり口に気づかなかった時点で、多少は自覚してるけどさ……。
「それにしても、神坂木――か」
急に考え込むように、鬼頭内は彼女の名を呟いた。
「……まさか一目惚れしたとか言わないよな?」
「大丈夫だ。俺はロリコンじゃねえから」
「俺もロリコンじゃねえけどな!」
「……なあ日々丸。神坂木って、マジでお前の事――」
その時、鉄製の体育倉庫のドアは轟音と共に砕け散った。
どういう原理で砕け散ったのかは理解するだけ無駄なので説明はしないが、どうやら隠れていた所を見つかったらしい。
「ターゲットを発見」
「日々丸回裏の捕縛を開始する」
「鬼頭内金具の撃破を開始する」
神坂木の操る兵隊(この学校の生徒)が感情のこもっていない声で淡々とそう言った。
俺達は跳び箱の裏へと身を移し、
「話は後だ。気絶刀をこの手に」
「ははっ、俺だけは撃破だってよ。気絶弾入り拳銃をこの手に」
そう呟くように口にした。
気絶刀とは、俺の考案した中二病全開な武器である。斬った者は問答無用で気絶する上に、俺がもう一度斬るまでは絶対に起きない。
鬼頭内の気絶弾というのも、俺の気絶刀から思いついた安易な発想である。撃たれた者は気絶し、体内に埋め込まれた弾(貫通はしない)を抜かないと永遠に起きない。
しかし、能力が発動するのは五秒後だった。鬼頭内いわく、言葉を間違えた場合に素早く修正が出来るように、それくらいの余裕があれば何とかなるらしい。
神坂木の操る兵――面倒だ、神兵と略すか。その神兵だが、跳び箱の裏からこっそり覗いてみると十人は居る。二人を相手にこの人数――どう考えても不利だが、俺達には幻想世界という反則級の能力がある。
「待て、降参だ。大人しく捕縛されてやる」
俺は両手を上げて跳び箱の裏から出る。
神兵達は操られてるだけあって、疑うような事はしない。
一人が手錠を持って俺の所へと歩いてくる。
俺が手を下ろすと、神兵が手錠を掛けようと手を伸ばし――
「日々丸回裏、ほば――」
言い終わる前に、捕縛する前に、その神兵は胸を撃たれて倒れた。勿論、気絶しただけ。
俺の手にも既に刀が現れている。
「んじゃ、そろそろ攻撃に移るとすっか」
「何だかんだ言って、楽しんでんじゃねえかよ、お前」
「中二病がこんな展開にワクワクしないとでも?」
「聞くまでも、なかったな」
俺達はそれぞれの得物を握り、嬉々として敵陣へ突っ込んでいった。