第十一話「言葉の――意味」
――これを読んだ者は、問答無用で即死する――。
……もし生きてたら、続きを読むといい。
これは日記という事にしよう。
俺こと、鬼頭内金具の、初めて書く日記である。
故に、書き方がよくわからない。
ええと、確か、あ、そうか。
日付から入るんだっけ?
○月 ×日 △曜日 晴れ
よし、こんなもんか。
……んー、くそう。
シャー芯を無駄に使ってしまった。
日記というのはたぶん、自分の書きたい事を書けばそれでいいはずなのだ。
いくら何でも律儀過ぎたか。
まず初めに、この日記を俺以外の誰かが見ているという事は、俺の身によっぽどの事が起きたんだと推測しておく。
そのよっぽどの事がない限り、俺は他人にこの日記を見せるような真似はしないし、見られるようなヘマもしない。
それだけの自信がある。
そして、これは俺からのお願いだ。
もしこれを拾ったのが、清い心を持つ神様に愛された偉い人だったら、いや、そうでなくとも、是非、俺の願いを聞いてもらいたい。
何、簡単な事だ。
この日記を日々丸回裏という少年に渡してほしい。
神田川中学の二年に、そういう名前の馬鹿が一人居るので、どうか、よろしくお願いします。
さて。
この日記が日々丸に渡った事を想定して、ここからは日々丸宛の手紙を書く事にする。
日記から手紙へ転生だ。
転生って、何かお前が好きそうな言葉だよな。
別にどうでもいいけど。
ちなみにこれは、寝る前に書いている。
お前と登校し、お前と話したりして、家に帰り、晩飯や風呂などの寝る準備を全て終え、ベッドに潜るその前に書いている。
だから眠い。
故に、手っ取り早く書き終えるために、率直に、一番言いたい事を先に言う。
お前が話してくれた転校生――神坂木みみは『異常』だ。
うん。
間違いない。
俺の直感だからな。
ふむ。
確かに俺は、学校ではお前を『異常』だと言ったが、よく考えてみたら『異常』なのは彼女の方だったのかもしれん。
何故かって?
そりゃ、お前が『おかしい』からだよ。
まあぶっちゃけ、元から『おかしい』とは思うけど、彼女を知ってからのお前は『異常におかしかった』からな。
お前もよく考えてみるといい。
ま、俺の言う事を鵜呑みにするもしないもお前の自由だ。
好きにやれよ。
ところで、日々丸。
言霊って知ってるか?
馬鹿でもさすがに知ってると思うので説明は省くが、一つ面白い話をしようじゃないか。
話をする、といっても、一方的に俺がする事になるが、嫌ならもう読むのをやめてもいいぞ。
そう言ったら、お前なら絶対に読むと思うけれど。
で、言霊の話。
俺達が普段から使ってる言葉でも、別の場所や別の人に言った場合では、また言葉の意味っていうか、捉え方かな――そういうのが変わると思うんだ。
軽々しく死ねとか言い合ってる俺達が、物騒な国でそんな言葉を交わしながら街中を歩いてたら、逆に俺達が殺されても何もおかしくないし、誰これの事は嫌いじゃないって言葉も、ちょっと見方を変えれば、好きというほどでもないって事になっちゃうだろうし、結局そういうのって、如何に場の空気が読めて適切な対応が出来るのかって、社会性を試されてるみたいで、ひねくれた俺としては、何かもうぶっちゃけしゃらくせえって感じ何だよな。
そういう捉え方次第で変わる言葉とか――ああ、そういや、ちょうどいい言葉があったな。
ほら、よく言うだろ――言葉の綾って。
アレって、今俺が言いたい事に当て嵌まる言葉だよな?
……ああ、お前は俺の事を優等生って思ってるんだったな。
残念ながら、俺も結構、馬鹿な方だよ。
馬鹿だから、人一倍の努力で頑張ってるタイプだ。
でもお前は、馬鹿だけど頑張らないタイプで――似ているけど対照的っつーか、まあこの話はいいや。
む……大分、話が逸れてしまった気がするな。
つまりだな、俺が言いたいのは、まあ仮定の話何だけど――例えば、お前が俺によく言う、リア充爆発しろって言葉とか、もしその通りになったら、お前はどう思うんだろうなって、俺はそれが気になってんだ。
リア充ってアレだろ、リアルが充実してるって意味の――流行語?
でもお前の言い方だと、不特定多数のリア充共が全員爆発しちゃうぜ。
あー、でも、俺はいつもお前に死ねとか面と向かって言われてんだよな。
爆発も何も、もしその言葉が本当になったりしたら、俺は文字通りに死ぬんだろうよ。
とはいえ、お互い様ではある。
俺もお前の事、散々に酷い事は言ってきたし。
そりゃ勿論、本気で言い合ってるわけじゃないだろうし、何というか、ガキ同士の馴れ合いみたいな、そんな感じではあるけれどな。
言葉ってのは、軽いようで重いから、それ相応の対応が出来るか出来ないかで、また感じ方も変わってくる。
まあ、俺やお前のような中二が考える話としては、さすがにレベルが高すぎるし、そろそろこの辺で終わらせておくさ。
んじゃ、寝るわ。
おやすみさん。
それとまあ頑張れ――何故こんな言葉が出てきたのかは自分でもよくわからんが、そろそろお前も努力する時期何じゃねえのかな――と。
最後に、重要ワードは括弧にある――俺がお前に言いたい事は、つまり、それだけだ。