第十話「ますます――意味不明」
鬼頭内に起きた出来事を、描写しなくてはならない。
説明は出来ない――俺自身がよくわからないのだから、今は描写する他にない。
――とは言え、近づかない事には、何とも……。
正直なところ、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
鬼頭内が友人と呼べる仲にない、赤の他人だったならば、おそらく俺はそうしていただろう。
「……マジ、か……」
近づくにつれ、俺の瞳に鮮明に映し出される鬼頭内の姿は、より現実色を見せていくというか――ちょっとコレ、変わり果て過ぎというか……どうやったらこんな事になるんだ?
鬼頭内の体は――どういう原理でそうなったのか、『綺麗に切り分けられていた』のである。
……いや、でも、さすがにコレは『おかしい』なんてもんじゃない。
体が『バラバラ』になってるとか、『木端微塵』になってるとか、そういうのならまだ理解は出来るし、その結果、我慢していたものを全部吐き出していたとしても、それは別に『おかしく』はない。そっちの方が普通の反応だろう。
だが、『綺麗に切り分けられてる』というのが、あまりに『不自然』過ぎて笑えない。
本人そっくりな、精巧に作られた人形が、『パーツ』を分解させられたような――それが鬼頭内の状態だった。
ぴくりとも動かない……死んでいるのか?
この状態で生きてるって方がまずありえないのだが……しかし、アレだけの『爆発』で、切り分けられてるとはいえ、傷の一つも付かず、出血すらしておらず、ぶっちゃけ断面も肌と同じ色で何とかグロ仕様にはなっていない――鬼頭内、お前コレ、いったいどういう事なんだよ。
「……おい、鬼頭内」
思わず、呼びかけていた。
よくよく観察してみると、切り分けられてる鬼頭内はどう見ても人形のような気がして、実は本物はどっかその辺に隠れているのではないかというドッキリを切実に期待して、そう呼びかけたのだ。
「…………」
待てども待てども返事はないし、というか、人の気配すら全くしない。
朝早いわけではないし、学校に登校するにはいい時間で、人通りがないというのが逆に奇跡と思えるようなこの場所で、この静けさはいったいなんなんだ……。
――ふと、もう一度、鬼頭内だか人形だかよくわからないそれを見下ろす為に視線を下に落とした時、『それ』はあった。
鬼頭内の鞄から、何故か『それ』だけが飛び出しているという、全く以て、『不自然』極まりない。
どうやら『それ』は、ノートのようであった。
俺は恐る恐る、慎重になりながら拾って、確認してみる。
表紙にも裏面にも何も書かれてない――ビニールを破いたばかりな新品さながらに、そのノートにはまだ汚れらしい汚れも見当たらなかった。
こんな状態になった鬼頭内の『所持品』――まるでその中には何かの手掛かりがあるような、シチュエーション的にはそんな感じの、如何にも『怪しい』このノート。中身が気にならないわけがない。選択肢も、『開ける』と『開ける』しかないような気がする。
何故だか――凄く、そんな気がするのだ。
――ちなみに、人のノートを勝手に見てはいけないという思考は、端からありはしない。
「……ま、鬼頭内だしな」
結局。
俺はそのノートを――中身を開き、読む事にした。