第九話「わけが――わからない」
それは、『わけがわからない』――その一言に尽きる。
まともな思考が出来るまでもない事は言うまでもないが、それ以前に、突然の『爆発』の余波――爆風でより遠くまで吹き飛ばされてる最中である。
「ぐえっ」
ギャグ漫画よろしく、どっかの家の塀に正面からぶつかり、ようやくその勢いは止まった。
簡単に言っているが、痛くないわけがない。
例えるなら、飲酒運転中の車にぶつかったような、学校の屋上から飛び降りて運動場の硬い土にぶつかったような、テストで順調に答えを書いていくも、最後の問題だけがわからないという最後の難関という壁にぶつかったような――そんな感じである。
……無論、嘘だ。何一つ経験がない。
「くっそ……」
――辛うじて、そりゃ勿論痛みはあるが、滅茶苦茶に痛いのだが、起き上がれなくはなかった。
何とか――何とか、無事だった。
もし、爆発前に鬼頭内が押し飛ばしてくれなかったら、今頃はどうなっていたのだろうか……。
あんな『爆発』とか、滅多に経験出来ないもの――どれほどの威力があるなんて、中二の頭では想像出来ない。
……ああ、そうだ。そうだった。
少し離れた場所から爆風を受けた程度なら、何とか『この程度』で済んでいる。
……が、しかし。
鬼頭内は――いや、むしろ、アレは、鬼頭内そのものが『爆発』したようにしか――見えなかった。
どれほどの威力があるのかわからない俺でも、さすがにアレは――助かる道理がないように思う。
思って、しまう。
それでも、例え、助かる道理がないように思えたとしても、俺は、その現実を直視しなくてはならない。
或いはそれは、どういう思惑があったにせよ――俺を巻き込むわけにはいかないというような――如何にも俺を助けたような――そんな事をあの馬鹿が仕出かしたが故に。
俺は――顔を上げて、目を逸らさず、前を向いた。
前方、十メートル以上はあるその先を見て――
「――!?」
声は出なかった。
強烈な光景に――強烈な吐き気を催す。
だが、吐くわけにはいかなかった。
ここで吐いたら、それは何か、違うと思うんだ。
吐けば楽になるだろう。
だからこそ、俺は楽になってはいけない――決して、吐いてはいけない。
鬼頭内は――俺の友人は、楽になる事すらなく、なる事すら出来なく、同時に、苦しむ事さえもなかったかもしれないが、でも、最期の表情は――あの、『驚愕』したような顔は、誰が何と言おうと、『楽』ではなかった。
「んっ、んんぐっ……ふ、うっ……うぅ……あ、あぁ……はぁ……はっ、あぁ……はぁ……」
今の俺が、どれだけ情けない顔になって、どれだけ惨めな顔をして、どれだけこんな――
「ふ……ふ、ざぁけっ……やがぁ、って……」
悲しい顔をしているのかもしれないし、悔しい思いをしているのかもしれない。
でも、一番は、やっぱり、『わけがわからない』――その言葉に尽きるのであった。