誘惑に負けちゃいそう
名前借りました
主人公とヒーローの出会いのシーンは、「覆面作家は二人いる」を参考にしました
フィクションです
私はヘルセ・アナンケは、お菓子作りが趣味である。
公爵家の子息としての勉強の合間に、お菓子を作る。
幼い頃に、母が作ってくれたのが美味しかったから、一緒に作るようになった。
その後、父がカフェを経営し、私はカフェで出すお菓子を選んだり、開発するのを任されている。
今も、カフェに向かって馬車に乗っている。
王都でも有名なクヌム菓子店の前で、美味しそうにお菓子を食べる令嬢を見かけた。
馬車の中からだから、声を掛けられなくて残念だ。
あんなに幸せそうな顔で、私が作ったお菓子を食べてもらいたい!
貴族の令嬢のように見えたが、誰かは分からなかった。
今度会ったら、うちのカフェのお菓子を食べてもらおう。
どんな顔をするだろうか?
探していた令嬢と、招待されたお茶会で会えた。
バレトゥードー侯爵家のお茶会。
庭園にテーブルが置かれ、沢山のお菓子が並んでいた。
有名店のお菓子もあるし、うちのカフェのお菓子もある。
ここの料理人が作ったお菓子もあるらしい。
令嬢は、今日も、お菓子を美味しそうに食べている。
周りの花壇や薔薇のアーチなんか目じゃない。
彼女だけが目を引いた。
「貴女は…」
思い切って、令嬢に声を掛ける。
「はじめまして」
「はじめまして」
令嬢がこちらを見た。可愛い…
「お菓子美味しいですね」
私が言うと
「とても美味しいです」
彼女はニコリと笑った。可愛い…
「私はヘルセ・アナンケといいます。貴女は?」
「私はアイトネ・カレです」
可愛い名前だ。
「貴女は先日、クヌム菓子店の前でお菓子を食べていませんでしたか?」
「…はい」
微妙な顔をされた。言ってはいけなかったか?
「お菓子が好きなんですか?」
気を取り直して聞いてみた。
「はい」
今度は笑顔で返事をされた。可愛い。
「では今度、美味しいお菓子がある店に一緒に行きませんか?」
「え?」
きょとんとした顔も可愛い。
その時、横から
「ヘルセ様〜!ご機嫌よう!お会いしたかったわ!」
令嬢が割り込んできた。
私の腕に絡みついてくる。
「それでは私はこれで」
せっかく会えたアイトネ嬢が離れていく…
「あ…」
邪魔されなければ、デートの約束を取り付けられたのに!
腕に絡みついてくる令嬢に
「貴女は婚約者でもない男に抱きつくなんて、恥ずかしくないんですか?」
と、冷たく言った。
「え…?」
「貞淑が求められる令嬢が、赤の他人の男に抱きつくなんて、どういう教育を受けてきたんですか?許可無く触るなんて無礼です!」
段々と声が大きくなる。
やっと会えたアイトネ嬢に、デートに誘おうとしていたのに邪魔されたのだ。許し難い。
「私は、婚約者でもない令嬢に名前を呼ばれたくないし、抱きつかれたくありません。不愉快です。家から抗議させてもらいますね」
愕然とする令嬢。何で問題無いと思ったんだ。お前嫌い。どっか行け。二度と話しかけるな。目の前に現れるな。
令嬢の腕を振り解き、主催者に挨拶してから帰る。
早く、アイトネ嬢の家に婚約の申し込みをしないと!!
父に頼んで、婚約申し込みの手紙をカレ家に出してもらった。
そして、明後日、我が邸に来る事になった。
父であるカレ伯爵と、アイトネ嬢が来た。
ドキドキしながら挨拶した後。
カレ伯爵が言った。
「言いにくいのですが、何故に、我が娘なのでしょうか?」
「一目惚れしました」
私は即答した。
「え?」
「街で偶然にお見掛けしまして、その後、バレトゥードー侯爵家のお茶会で、偶然再会しました。そこで挨拶をして、名前を聞けたので、婚約の申し込みをしました」
「そうでしたか…」
「もしかして、既に婚約していましたか?」
調べたが、婚約者はいなかった。
だが、水面下での取引があるかもしれない。
「いえ、まだです。私としましては、この話はありがたくお受けしたいのですが…」
カレ伯爵は、娘を見た。
「驚いてしまって…」
アイトネ嬢が言った。
突然だったから、驚いても仕方ない。
そうだ。
「君に贈る為にお菓子を作ったんだ」
「…?」
メイドに指示を出し、フィナンシェを出す。
「婚約の事は一旦置いて、お菓子を食べてみて」
アイトネ嬢は、遠慮していたが、いい匂いにつられて、手を伸ばした。
「美味しい…」
アイトネ嬢が微笑んだ。天使だ。
この笑顔を見る為なら、いくらでもお菓子を作れる。
「実は、カフェを経営していてね、店に出すお菓子の研究をしているんだ」
アイトネ嬢が首を傾げた。可愛い。
何をしても可愛い。どうしてくれるんだ。
「良ければ、試食して、感想を聞かせてほしい」
「…」
お?迷っているみたいだ。
「まだ、お互いに知り合ったばかりだろう?少し交流してからで良いから、婚約の事は前向きに考えてほしいな」
悩む顔も可愛い。もう一押しかな?
「ほら。もう1個食べて」
フィナンシェはまだ残っていたから、勧めた。
「ありがとうございます」
「気に入ったならお土産に持たせよう」
「え!?」
「そういえば、先日話した美味しいお菓子の店に行く話」
「あ…」
思い出してくれたかな?
「うちのカフェなんです」
「…あの…あの時にいたご令嬢は…?」
あのお邪魔虫の事か?
「あれは、しつこく付き纏ってくる迷惑な令嬢で、近付くなとハッキリと注意してます。私は貴女に一目惚れしました。貴女以外は考えられない」
これだけはハッキリと言っておかないと。誤解されたらたまらない。
っていうか、もしかしなくても誤解してた?あの女、許すまじ。
「…そうですか…それなら…」
「一緒に行ってくれますか!?」
やっぱり誤解してた〜!!あのクソ女、地獄に落とす。
「私でよろしければ…」
「やった!…あ…失礼しました…」
嬉しくてつい、叫んでしまった。恥ずかしい。
父と、令嬢の父が、ニヨニヨしていた。恥ずかしい…
※※※
前世で、付き合おうと言ってきた男が浮気していた。
いや、私が浮気相手だったのかもしれない。
だから、男は嫌いだ。
父と兄は浮気しなかったので、まだ良かった。
友人の婚約者が浮気した時は、本人よりも怒り狂った。
「女を何だと思っているのよ!お前を飾る宝石じゃないんだよ!」
と、叫んでしまった。
だから、男嫌いだけど、ヘルセ様が美味しそうなお菓子を毎回持って来るから、負けちゃいそう…
アナンケ公爵邸で、お茶会をしている時に、カルデネ王子が来た。
ヘルセ様の従兄弟らしい。
公爵邸の庭は、とても広く、この一角は薔薇園となっていた。
赤やピンクの薔薇が咲き誇っていた。
ヘルセ様がどこかへ呼ばれている隙に、カルデネ王子が声を掛けてきた。
「ヘルセのお菓子食べた?」
「はい」
「ヘルセがお菓子を作るのどう思う?」
どう、とは?
「楽しそうに作ってました」
「見たの?」
「見ました」
私は真顔で頷いた。
「それで?」
「きちんとやる事をやっているのだから、文句を言われる筋合いは無いと思います」
「え?」
「悔しいけど、美味しいんですよ」
本当に美味しいから、断れない。
「え?」
「誰とも結婚する気が無かったのに『毎日美味しいお菓子を作るよ』って言われて、とても困っています」
「困る?」
「お菓子が美味しいので」
私はあくまで、真顔である。
「いくら趣味とはいえ、毎日…私の為に…」
揺れてしまう。
「君は、公爵子息の婚約者になりたくないの?」
カルデネ王子が言った。
「…できるなら、誰とも婚約したくなかったんですよ」
「どうして?」
「友人の婚約者が浮気しまして」
「うん。でもヘルセは浮気しないよ」
そうかなぁ?
「あの顔で!公爵子息で!令嬢にモテモテのヘルセ様ですよ!よりどりみどりじゃないですか!」
つい、力説してしまった。
「アイツは昔、ある令嬢に、お菓子を作るのが好きと言ったら『公爵子息がお菓子を作るなんて変!』と言われたらしい」
従兄弟だから知ってるのかな?
ってか酷い。人の趣味に文句言うな。お前は余程高尚な趣味を持っているんだろうな?
「それ以降、誰にも、お菓子作りの話はしなくなった」
そうだろうなぁ…
「しばらく落ち込んでいたな。でも、兄上が、お茶会のお菓子を何にするか相談したら、元気を取り戻していった」
兄上って、王太子殿下の事?
「それから、公爵が、カフェの経営に乗り出した。ヘルセに、カフェで出すお菓子を選ばせた。今は開発担当をしている」
それは本人からも聞いた。
「君は、ヘルセがお菓子を作るのを、否定しなかった」
むしろ、餌付けされています。
「できれば、ヘルセと仲良くしてほしい」
「え?私てっきり、ヘルセ様とは釣り合わないから断れと言われるのかと…」
「そんな意地悪じゃないよ」
だから、こっそり話し掛けてきたのかと思ったのに。違うのか。
「今、とても楽しそうにしているんだ。アイツには幸せになってほしい」
あら?意外と良い人なのかな?
マジマジと王子を見つめてしまった。
「何をしているんだ!!」
ヘルセ様が戻ってきた。
「俺の婚約者だぞ!」
ヘルセ様が、カルデネ王子を威嚇している。不敬罪にならないの?従兄弟だから良いのか?
「嫉妬は醜いぞ」
カルデネ王子がニヤリと笑った。
「まだ婚約してませんよ」
私は普通に突っ込んだ。
「…!!まだ…ダメ…?」
おおっと!ヘルセ選手、上目遣いです!
これは強い!あざといです!
イケメンを有効に使っています!
これはちょっと…ダメージが大きいです!
「ぐっ…」
私が喰らったダメージに耐えていると
「あれ?どうしたの?カルデネに何かされた?」
心配そうに見てくるヘルセ様。
あざといお前のせいだぞ。
「あっ!ほらアイトネ。美味しいタルトを食べよう?自信作なんだ」
「食べる」
ヘルセ様がタルトを一切れ私の皿に乗せた。その隙に、カルデネ王子は逃げた。
「おぉ〜!ブルーベリー?」
「そうだよ」
「わぁい!」
私は、一気にテンションが上がった。
「ブルーベリー好き?」
「うん!」
一口食べる。
「ん〜!」
モグモグしながらウットリする。
美味しい…
嬉しそうな顔をして見つめているヘルセ様には気付かないで、もう一口食べる。
「ん〜!」
「私と結婚したら、毎日美味しいお菓子が食べられるよ」
ヘルセ様の言葉を聞き流し、もう一口食べる。
「ん〜!」
「私と結婚したら、毎日美味しいお菓子が食べられるよ」
催眠術でも掛けるみたいに、何度も繰り返すヘルセ様。
「ロールケーキとクレープが食べたい」
思わず呟いた。
「…何かな?それ」
こっちの世界には無かったか。
「ケーキのスポンジにクリームを乗せて、クルクル巻く」
「何それ美味しそう」
ヘルセ様が言った。
「クレープは…どうだっけ?忘れた」
たぶん、小麦粉と砂糖と卵と牛乳を混ぜるんだな。
「思い出したら教えて」
「うん」
「じゃあ、ロールケーキについて詳しく」
ロールケーキの説明をさせられた。
お礼にもう1個タルトをもらって食べた。
ちなみに、残りは毎回お土産だ。両親も餌付けされている。
先触れが来て、ヘルセ様がやって来る事になった。
一体どうしたんだろう?
緊急事態か?
メイドにお茶の準備をしてもらう。
今日は晴れているから庭でお茶会だ。
アナンケ公爵邸とは違って、あまり広くない庭であるが。
小さな花達が、そこかしこで咲いている。
「突然ごめんね」
ヘルセ様が挨拶もそこそこに言った。
「ロールケーキができたよ!」
さすがである。
壁画みたいな怪しい絵で解説したが、きちんと正解を叩き出してきた。
「おぉ〜!!」
シンプルなロールケーキ。
生クリームがある世界で良かった!
ヘルセ様は、カットされているロールケーキを、私の皿に乗せてくれた。
「さぁ、どうぞ」
ヘルセ様に言われるままに、スプーンで掬って口に入れる。
「ん〜」
生クリームは正義。
甘過ぎず、くどくない。
私はスプーンで掬ったロールケーキをヘルセ様の口元に持っていった。
ヘルセ様は目を丸くして固まっていた。
食べなかったので、ロールケーキは私が食べた。とても美味しい。
私はまた、スプーンで掬ったロールケーキをヘルセ様の口元に持っていった。
今度は我に返ったヘルセ様が、一瞬で食べた。
「美味しいですね」
味わっているヘルセ様に言うと
「美味しいね…って言いながら一緒に食べるの、幸せだね…」
ヘルセ様がウットリとして言った。
色気がダダ漏れです!!止めてください!!
「私と結婚したら、毎日美味しいお菓子が食べられるよ」
また言ってる。
…誘惑に、負けちゃいそう…
読んでいただきありがとうございます




