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10-3 神とか
すべての推移を冷めた眼差しで見ていた男は、驚きに腰掛けていた欄干から落ちかけた。
「ウッソだろおいッ、自力で権能定めやがった!」
赤い橋の縁、背後には一方通行で車が走り抜けていく。普通ならその場に人などいるものではないが、車に乗る人物は誰一人男を気にもとめない。
「後ろ盾もなしにどっから持ってきやが──」
言葉の半ばで銀髪の男は、少しの違和感に気づいた。左手、指先、小指の先。爪が剥がれて血が滲んでいる。それは本来異なる姿の男に分かりやすく視覚的に示される欠如だった。
「オヤジの権能盗っていきやがったのかッ!?」
借りていたはずのものがない。例えば水底のカキアをここに吊るす力。例えば今カキアからロエを引き剥がす力。
カキアを関連させて作用する力がことごとく見つからない。カキアにまつわるすべての力が、権能として奪い去られた。
「クソがァッ!!」
神とは呼び難いほど極小な権能。だが超局所的権能がゆえに、誰も手出しできない強固さに至っている。
元より眷属でしかない男では、神そのものには太刀打ちできない。
怒りに全身を震わせながら、男は一瞬にして姿を消した。
消えたことにも、また誰一人気付かない。何事もなくただ、赤い橋を渡る車は、永遠に続いていた。




