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Ⅴ:山猫

「俺は何でも屋じゃないんですよ」


白衣の青年はシリンジの押子(プランジャー)を押し込みながら、遠慮がちにぼやいた。ひと仕事終えた仮眠中に、突然「救急搬送車(スロンバス)を一台寄越せ」と連絡を受け、同じく寝不足のカレロを叩き起こして、緊急用の高速道路(スカイヴェッセル)を滑走し、高層集合住宅(アントヒル)の外れまでひと息に飛んできた。それにも関わらず、現場に居たのは待ちくたびれてガレージの前に座り込んでいる無線の男と、眼もろくに開けられない小さな仔ネコだけだった。その上助手席から降りたカレロを見るなり「酒でも好きに飲んで来い、店主は不在だ」と露骨に追い払い、救急搬送車(スロンバス)をガレージに入れるよう促し、さらにはシャッターまでも締め切った。


左手は翼状針を押さえ、右手の押子(プランジャー)にかける力を微かに強めて薬液の減り具合を確かめていると、あまりの慎重さに自然と首が傾いた。普段はタフな二足歩行の“獣たち”ばかりを相手にしているため、わずか五百グラムほどの仔ネコの扱いには慣れていない。片手にすっぽりと収まるほどか細い腹の肋骨の下で鼓動する小さな心臓を想像すると、ふとした瞬間に握り潰してしまわないよう終始手元が緊張した。そもそも、この処置自体も最善かどうかの確証はない。元より、この道の専門というわけでもないのだ。中央都市(セントラル)社会基盤施設(ソサイエティ)に属していた頃はヒトの外科治療が主だった。先の第三次世界大戦(WWⅢ)で衛生兵を務めた父に影響され、物心ついた頃から灰の下に眠るあらゆる文献を見つけ出しては夢中で読み漁ったものだ。その頃、北の大地に頭角を現しはじめた、新たな集結協和都市(クラスター)の発足を風の噂に聞きながら、時には、孤立した貧しい居住区域(コロニー)を旅し、“実践経験”を等価交換として、各地で実力の成長度合いを試して回った。まるで既に在る未来を手繰り寄せるかのように、一本気で医療を学び続けていた。満を持して、(ようや)くインフラの安定した集結協和都市(クラスター)が大手を広げて居住者を募り始めると、いよいよ、未来の姿と重なるその時を確信した。果ての、小さな居住区域(コロニー)からの合同移民にも関わらず、迷い無く固い決意と共に医療機関(カミーユ・マナール)への所属を志願した。ところが、高壁との衝突を覚悟していた気負いは肩透かしを喰らうこととなった。思いもよらず“貢献者”の子孫として議会(パーラメント)からの優遇に(あやか)り、あっさりと集結協和都市(クラスター)の心臓部である高層ビルの一員となった。そして、理想通りの安寧の人生を歩んでゆくはずだった。


しかし、安全と健康を保証された、整然とした日々に違和感を憶えはじめたのは、社会基盤施設(ソサイエティ)のパーツとなって、そう間もない頃だった。ある時、中央都市(セントラル)で平穏に暮らす人々が、かつての文明を温存する目的で発展した地下街やシェルターに生きる人々を総じて“地下都市(マリス)”と呼んでいることを知った。そして忌み者を遠去けるように、陽の当たる自らの世界を“地上都市(フィロス)”と称した。誰もが平和と平等の仮面を被り、高らかに声を上げる者は無かったが、争いを極端に嫌う、端々に見えるその態度は、まるで暗黙的に彼らを(おとし)めているかのように映ったのだ。それはいつしか、兵役に殉じた父を(さげす)まれていると云う幻惑めいた暗喩となり、いつもその(わだかま)りが付き纏っていた。その頃から胸の奥底の方で密かに何かが目醒めていた。従順な人造人間(ホムンクルス)と、多くのヒトに囲まれていたが、いつも落ち着かず居場所がなかった。ここではない何処かに呼ばれているような、そんな迷いに揺さ振られながら、繰り返す微温湯(ぬるまゆ)の平穏を遣り過ごした。しかし、世界は変わらず、割り振られた役割を(こな)すパーツとしての日常が続くと思っていた、そんなある日、ふと、耳慣れない、不気味な言葉を耳にした。


“|冥府の禽《アヴィス・インフェリス 》 ─── ”


慌ただしい夜に担ぎ込まれた傭兵のような男が、事切れる寸前に意識朦朧とその言葉を(こぼ)して逝ったのだ。まるで業火に燃える(とり)が地獄の蓋を開け放ったかのように、その一瞬から運命が怒涛の如く思いもよらぬ方へと流れはじめた。その出来事は、張り巡らされた監視網を廻り、やがて議会(パーラメント)にまで知れ渡り、遂にはフェンリルと名乗る議員から、名指しで直々に呉天室(クイン・セル)へ招かれる事態となった。天空へ昇り続ける永い永いエレベーターの中腹あたりで、廻り疲れた不安な思考は観念し、辿り着く頃には心は既に無の境地に至った。そして、中央都市(セントラル)の最上階に位置する防音遮蔽の密室で、高貴な白髪の議員と顔を突き合わせるや否や、突然、とある選択を迫られた。


“彼ら”の仲間として生きるか、それとも元の世界に戻るか ─── 。


それは、大きな運命の分かれ道となった。


平和と友愛を象徴する地上都市(フィロス)に、“彼ら”は存在しない。陰ながら、その噂を知る人々は“彼ら”を(おそ)れた。特定の巣を持たず、統率者も無く、時に集い、時に(まばら)に、闇に紛れ、影に潜み、夜霧に浮かぶ星々のように、各々が確かに存在し、無数に暗躍する名も無き“架空の”組織。ある者は野獣と(ののし)り、ある者は夜蜂と怯え、そしてある化学者は、謎多き素粒子に(なぞら)Quark(クォーク)(たと)えた。その話が“彼ら”の耳に入ると、あまりに的を得ていると気に入り、今となってはそれらを好んで自称するようになった。


その選択は、高層ビルに組み込まれ自動化されていた、機械のような安泰の人生を一変させ、鮮烈な刺激と(たぎ)る情熱を(もたら)した。というのも、何よりも自由を愛する“彼ら”の実態は、粗暴で身勝手で奔放な獣たちの寄り集まりで、いつも、心底手が焼けるのだ。


しかし“彼ら”は、自らのその生命(いのち)()して、見返りも無く、今も人知れず闘っている。


父が遺した影響は、誰かを救いたいという独善的な意欲だけではなかった。決して闘いを辞めず、長く戦場に生きた父から受け継いだ本当の想いは、共に闘い、共に助け合える同朋たちとの出逢い、そのものだったのだ。そして、誰もが自由でありながら、あるいは血よりも濃い(えにし)を胸に、共に在り続けるということ。


それこそが、真に、この世界を“生きる”ということだ。


“彼ら”は何も語らず、その生き様で、その人生を教えてくれた。


「どこで拾ってきたんです」「お前のその“軍隊訛り”は治らないな」「はぐらかさないでください」


救急搬送車(スロンバス)の狭い車内で大股を広げて寛いでいる男は、肩を(すく)めて戯けて見せた。


相伴動物(パルテル)には、生体も人造動物(アニマクルス)も関係なく個体識別用集積回路(IDチップ)を皮下に埋め込むことが義務付けられているんです。集結協和都市(クラスター)に暮らす以上、扱いはヒトと同じです。たとえ、生まれたての仔ネコでも例外なく。でも、この仔には無い」「そうだな」「俺の言っていることが、どういうことか解ってますか、ジャッカル。検査も予防接種も受けずに生体を連れ込んだことがバレたら、もしこの仔が伝染病にでも感染していたら、一大事ですよ」「だからお前を呼んだんだ」


シリンジの薬液はまだ残っていたが、青年は反射的に手を止めて、終始片頬に余裕の薄笑みを浮かべている無責任な男を睨んだ。しかし、目尻に(まぶた)のかかる鋭い眼光に圧されて、すぐに俯き仔ネコの膨らんだ背中に視線を逃した。


「 ───放浪者(トランプ)にでも遭遇したんですか?」「いつも飢えて涎を垂らしてるような連中が、生かしておくわけないだろ」「太らせて食べるつもりだったのでは?」「いや、だが、いい線だ」


大人しく伏せている仔ネコの水膨れになった皮膚を解すように撫でながら、青年は成長しない自分に半ば呆れていた。気づけば、すっかりいつもの調子でこの男の誘導尋問に付き合わされている。


「 ─── 自然保護回復強化区域(サンクチュアリ)で野生化したイエネコたちは、とっくに淘汰されているはず。つまり、“地下の(とり)”たちと取引を・・・?」「冴えてるな、パンサー。念のために言っておくが、俺じゃないぞ」


青年は自分の推理が導き出した答えに驚き、蒼みがかった淡褐色の眼を大きく(みは)った。見つめる先の男もまた事の厄介さを今一度思い知らされて、ため息を吐きながら胸ポケットに手を入れた。取り出した直感通信端末(ICD)のスクリーンに、あらかじめ転送しておいた録画データが再生されると、その様子を逐追っていたパンサーの硬直した顔を見ながら、(うつぶ)せの仔ネコの横へ無造作に置いた。


「見憶えはあるか?」「すごい、路面走行(オフロード)車両(ヴィークル)じゃないですか、旧型の石油・走行発電車(ハイブリット)ですか?まだこんなのが走ってるなんて」


藪から棒に突拍子もない台詞を言い出した青年に呆気に取られたが、その悪気のない声に短気を引っ込め、代わりに冷めた愛想をくれてやった。


「いい車だよな。だがそっちじゃない。よく見ろ」


パンサーは、左手で仔ネコを固定したまま、アンダーリムのブリッジを指で持ち上げ、顔を近づけて眼を凝らした。言われるがままに小さなスクリーンをじっと眺め、中央の運転席から中年らしき見知らぬ男が出て来たところで“所属・医療機関(カミーユ・マナール)”の文字を眼にした途端、すぐさま険しい眼つきで顔を上げた。


「この男のIDを調べてくれ」「おそらく、時間の無駄ですよ ───」「その“無駄”こそが、大事な手掛かりだ」


要するに、確証を得るための(しらみ)潰しに付き合え、ということのようだ。


「シリウスには?」「これからだ。オヤジには顔を見て話したい。もう戻ってるんだろ」


そう訊ねると、実直な青年は応える代わりにすっと視線を逸らし、口を(つぐ)んだまま顔を伏せて仔ネコの背中を撫で続けた。その態度は下手な嘘を聞くよりも、男が揉み消そうとしていた不安を色濃く浮き彫りにした。救急搬送車(スロンバス)の車内が無音に包まれると、その空気を察してか、白い仔ネコが掠れた声でひと声「にゃあ」と鳴いた。


「そうだ、ついでに、これも頼む」


ジャッカルは(おもむろ)にムートンジャケットの片腕を脱ぎ、無造作にシャツを捲り上げて分厚い腹を露わにした。羨ましいほどに、硬い筋肉が透けて見えそうな男の腹をぽかんと眺め、何のことかと問いかけたところで、脇腹にまだ新しい二点の小さな赤みを見つけて、パンサーは改めて呆れ返った。


「どうやったらそんな所を噛まれるんですか」「俺の方が訊きたいね」


青年が視線で合図するとジャッカルは重い腰を上げて、天井にぶつけそうな(くび)を低く曲げながら気怠げに寝台に寄り掛かった。すると、傍に気配を感じた仔ネコが、腫れと涙で眼も見えない顔を上げて、また「にゃあ、にゃあ」と健気に鳴いた。治療の間の暇潰しなのか、気紛れなのか、気のない様子で仔ネコを見下ろし、人差し指で小さな顎を掻いてやっている。その顔は、憐れみでも慈しみでもなく何処か空虚で、生命(いのち)の無常さへの諦観をただ見つめているような、遠い表情を浮かべていた。


「その後の、島の様子はどうだ?」


視線を落としたまま唐突に意識を向けられ、パンサーは思わず気を取られていた手を、また機敏に動かしはじめた。


「クラウドの報告を見てないんですか? ─── 悲惨ですよ、実情を知れば知るほど嫌になる」「“白い悪魔”が現れた原因を突き止めたのか」「生存者は、地熱開発中に吹き出したガスが原因だろうと言っていましたが、放射線の残存濃度から核爆発であることは間違い無い。一部の研究者たちによる原子力発電復活信仰の話も耳にしました。目的は何にせよ、あの研究所に“それ”があったとしか考えられません」「信仰か、ものは言いようだな」


ジャッカルは吐き捨てるように鼻を鳴らした。


「知識と技術に溺れて(おご)った人間たちにとって、神や悪魔と言われるような脅威的な力は嫉妬の対象でもあり、反対に、喉から手が出るほどに魅力的ですから。─── 俺が言うのも変ですが、利便性や快適さの提供はただの口実です。人間の、その本質は、ただ称賛を浴びたい、誰かに求められたい。それだけです」


ジャッカルは、常に口角の上がっている清純な青年の顔が卑屈に(かげ)り、歪んでいく様子を、苦く見据えていた。何がそうさせるのか、いつの間にか矛先を自分の胸に突き刺そうとしている。


「お前は、自分の信念に従って生きてるんだろ。それを疑うな」


「 ─── 揺らぐ時だってありますよ」


直向(ひたむ)きで純粋だった青年は、そこで何を見て来たのか、在り来たりな励ましでは届かないほど深い所まで、その傷は及んでいるようだ。パンサーは消毒に浸したガーゼを傷口に当て、そのまま記憶の情景に取り込まれるように語り出した。


「救難者は全員“方舟”に乗せて運び出しました。でも、受け入れられなかった人たちも大勢います。─── あの人たちは、放浪者(トランプ)として過酷な環境で生きるか、地下都市(マリス)に送るしかなかった・・・中には、それを望んでいる人もいました」「それは議会(パーラメント)の判断だ。お前は充分、責務は全うしたんだ。後のことは忘れろ」


助言も虚しく、ますます(たかぶ)り、興奮に翻弄されてゆく青年を見て、ジャッカルは最後まで反対していたフェンリルのある懸念を思い出した。


彼は若い。若さ故に未熟。まだ闇を知らないのだから、ともすれば、いとも簡単に壊れてしまう─── 。


「みんな、地下都市(マリス)を知らないんだ。あの人たちは娼館(ブロッセル)に売られるか、権力と暴力に虐げられながら死ぬまで奴隷のように働かされる・・・使えない子どもたちなんて、もっと残酷な ─── 」「もう、その辺でやめておけ、他人の運命までお前が背負う必要はないだろ」


ジャッカルはついにパンサーの襟元を掴み上げた。乾いた海綿のように無防備な精神のこの青年に、一体誰が吹き込んだのか、今すぐそいつを殴り飛ばしてやりたい気分だったが、衝動は何故か目の前に居る当人に向かっていた。驚いて頬までずり落ちた細い金属フレームのメガネを直すことも出来ず、パンサーは目を丸くして、その噛み殺されそうな剣幕を、ただ眺めているしかなかった。


「全員がそうとも限らないだろ、順応してるヤツらもいるし、のし上がるヤツだっている。それに、地下(した)に送れと言われたなら、シリウスが口を利かせたはずだ。あの人なら悪いようにはしない」


ふと、冷静になったジャッカルは眼を逸らしながら手を離し、(しわ)になった青年の襟元を適当に(なら)した。殴りたかったのは、自分自身だったのかもしれない。全くの真逆のような性質に思える青年の中に、男は自分の弱さを見た気がした。脳裏にナイフを突きつけたレフの忠告が甦る。


飼い慣らしておけ。さもないと喰われるぞ、お前自身にな ─── 。


「─── インフェリスの人間と面識があるんですか?」


まだ眉間に(しわ)を彫り込んではいるものの、鎮まった男にパンサーは控えめに訊ねてみた。そして、シャツが捲れ上がったままの男の横腹が目に入り、思い出したように慌ててドレッシングパッドを眼で探した。


「俺は古参だからな。まだ境界が曖昧だった頃、コルクスという男を傍で見たことがある。陽の当たらない闇に堕ちても、欲に喰われず誇りと威厳を失わない、話の解る人格者だったよ」「話が分かるなら、いっそのこと、彼に直接確認したらどうです?あの男のこと」


すると、ジャッカルが一度大きく顔を背けたので、パンサーはまた掴み掛かられるのではないかと(いささ)か逃げ腰になった。しかし振り向いた男は眉根を寄せて、あからさまに口を曲げていただけで、何処ともなしに車内を見回して黙りこくっていた。不思議に思いながらも下手な追い討ちはかけず、着々と治療器具を片付けていると、しばらくして男は(ようや)く応える気になったようだ。


「ルールを破ったヤツが居るぞと、わざわざ蛇の巣に出向いて告げ口しようってのか?内乱目的かと疑われるぞ。オヤジならともかく、俺の出る幕じゃないさ」


その珍しく歯切れの悪い口振りに、青年は思わず笑みを浮かべた。


「あなたにも怖いものがあるんですね」「ひとを何だと思っていやがる」


ジャッカルは腰を屈めてバックドアを開けると、窮屈な車内からガレージに降り首を回して大きなため息を吐いた。積もる話は見晴らしのいい場所でしたいものだが、レフの用心深さが伝染(うつ)ったのか、今は電波遮断設備(ステルスシールド)が唯一信頼のおける安心材料だ。パンサーは最後にもう一度目ヤニを拭いて、幾らか綺麗になった仔ネコを、やさしく両手で持ち上げ男の前に差し出した。


「ニ、三週間様子を見てください。何かあったらすぐに連絡を。発熱や発疹が出たら鼠咬症(そこうしょう)です」「俺に言ってるのか?」「ふたりともですよ」


我が身に降りかかりそうな嫌な予感を、首を振って掻き消しながら、ジャッカルは仔ネコを受け取った。パンサーは後部ドアを閉めて、既に運転席のドアを開け片足を掛けている。脳裏に澄み切った後悔を語るパンサーの熱い言葉を思い返した。(けが)を知らない青年との対話は、まだ自分は正気なのだと気づかせてくれる。決して口には出せない有り難みを廻らせながら、若い背中を見送ろうとしたその時、突然、それは直感の鈴を鳴らした。


「“子どもたち”と言ったな」


顔を引っ込めたパンサーは、もう一度半身を覗かせた。


「はい、年齢の幅はありますが二十人ほど保護しました」「データは取ってあるか?」「いえ、集結協和都市(クラスター)に拒否されたので、情報保管庫(コーパス)には何も・・・顔は少し憶えていますが・・・そうだ、あの時、舟から飛び降りて逃げた子がいました。ショック症状が酷くて、時々発作を起こしていたので注意していたんですが・・・触られるのを極端に嫌がるので・・・可哀想なことをしました」


ジャッカルは何かを確信した目つきで、表情の見えないパンサーの細い肩に、ある少年の姿を重ねていた。


「─── その子どもは、名乗ったか?」


「いいえ。すべてを失い、声まで失くしてしまったようで。顔は憶えています。冷たい眼をした、珍しい黒髪の少年でした」

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