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Ⅹ:鎖蛇

浅い眠りを呼び醒ます衣擦れの音に、女は重たい(まぶた)を持ち上げた。仄暗い小部屋の窓辺に蝋引き紙を透かしたような琥珀の朝灼けが滲んでいる。大きなぬくもりが慎重にゆっくりと離れ、その隙に入り込んだ冷気に身を縮めると、すぐさま、やさしい手がシーツを手繰り寄せて肩まで包み、頬を(くすぐ)る髭を押しつけた。立ち上がりざまに、隅のひとり掛けのソファに投げてあったシャツを被り、気忙しく着替えを進める様子を微睡(まどろみ)の中で見護っていた女は、性急を嫌うその表情に珍しく不穏な焦りを見た。


「─── 何か、あったのね」


問い掛けると、男は締めかけていたベルトを開け放したまま、途端に穏やかな動作に変わってベッドに戻って来た。自覚のある大きな身体を少しだけ(もた)れかけ、枕に掛かるやわらかに波打つ髪を撫でながら、名残惜しそうに留まる人の()さそうな瞳に、微かな憂いが映っている。


「仲間がやられた」

「まさか、ルイス?」

「─── あいつは・・・連絡は途絶えたままだが、まだそうと決まったわけじゃない」

「じゃあ誰なの?」

「俺が引き取った新入りだよ。獲物(クァリー)の自宅で襲撃に遭って、搬送された」

「良かった、生きてるのね」

「ああ、だが・・・発見が遅れて、重症だ。誰かついてやってたら、こんなことには───」


男は、沸々と(たぎ)るものを悟られる前に、安らぎから身を離して立ち上がった。煮え返る(はら)の中で様々な要因が()ねていた。地下巣本部(ケイヴ)の追跡任務の怠り、補佐不足、人員不足、教育不足、何より、期待と熱を注いでいた純朴な青年を過剰に(あお)り、窮地に追い込んでしまったのではないかという後悔が、自らの胸の内を手酷く()いていた。

男の肩を落とす背中から立ち昇る悔恨の熱に、永いあいだ抑え込んでいた感情が呼び起こされ、女は情熱のままに跳ね起きた。


「バーナード、お願い、私も力になりたいの」


陰鬱さを晴らそうとカーテンを半分だけ開き、既に扉に向かって歩き出していた男は、朝陽に晒された女の露わな姿に、もう一度身を引き返した。シーツを持ち上げ、その滑らかな肌を丁寧に包んでゆくあいだ中、女は切実な橄欖石(ペリドット)の瞳で、目と鼻の先にありながら、すれ違う男の顔を追いかけた。


「彼にはもう伝えてくれたんでしょう?」

「───ああ、解ってる。だが今はダメだ」

「私にも生きる意味が欲しいの。ジーンを亡くして、このまま独りで、わたし───」


すべてを言い終える前に、唇が髭に埋もれて塞がれた。また甘い愛撫で(はぐ)らかされることを疑う視線の先で、駄々をこねる子どもに向けたような困り顔が躊躇(ためら)いの間を置いて、しかし、確かに頷いた。


「この一件が片付いたらシリウスに逢わせる。フェンリルにも話を通す。約束するよ、ノーマ」


揺るがない瞳の意識をじっと確かめ、それでもなお確証のない物憂さを沈め、ノーマはようやく男を見送る決意に頷いた。やさしさが恐い───。別れ際はいつも、この交わす言葉が、この笑顔が最期になるのではと、そんな孤独な不安がつき(まと)う。

しかし、この日は違った。男はベッドに腰を(うず)たまま枕元の方へ腕を伸ばし、ナイトテーブルの真鍮の取手を摘んで、二段目の引き出しから白貝に北極光オーロラを映した美しい乳白色の小箱を取り出した。それを目にしたノーマは、また失望と落胆に激しく見舞われた。


「やめて、私は本気なのよ」


痛切な視線が向けられた。棘のあるため息を吹きかけられても、誤魔化しの常套句は振るわず、男は頑なに開こうともしない小箱を仕方なく開けてやり、もう一度女の目の前に置いた。白い綿に滴ったひと粒の血液のような深紅の宝石がふたつ、気高く煌めいている。


「無線だ。これなら本体の部分は髪に隠れるだろう。直感通信端末(ICD)はまだ用意できないが、これで受信はできる。俺とジャッカルの分だけ設定しておいた」

「バーナード・・・」

「─── その名を呼ぶのは今日で最後だ。お人好しの間抜けな“バーナード”はもう居ない。それが望みの代償だ。───“ノーマ”を殺す覚悟があるか、ノーマ・モーテンセン」


ノーマは、微弱な震えも見逃さないであろう審判のような深緑(しんりょく)の瞳を力強く圧し返し、一糸もサイドテ(まと)わぬ偽りのない姿で、確固たる意志を示した。


「覚悟はできてるわ。私はもう何度も死んでるのよ、レフ」




突然、()たたましい叫び声が長閑な静寂を(つんざ)き、男は足を止めた。中庭に差し掛かる渡り廊下の中腹で耳を(そばだ)て、風雨に荒れた白肌の柱が取り囲む回廊を見渡してゆくと、ただ独り、しんと佇む林檎の樹に視線を惹きつけられた。すると、たちまち甲高い悲鳴が沸き上がり、どたどたと床を踏み鳴らす騒動が、四面の壁中に反響して穏やかな中庭を震撼させた。愉しげな声も無く、奉賛者ディアコニアであろう成人たちのただならぬ様子も混じっている。

どうやら、悪趣味な遊戯というわけでもなさそうだ───。

何よりも、獣の断末魔のようなこの悲痛な絶叫が侵入者である男の理性を切迫させた。人目を避け、辺りを警戒しつつ進めていた足取りが、次第に大股になり、小走りになり、しまいに跳ぶように中庭を横切った。声が徐々にに近づいている。しかし、焦りは禁物だ。男は角を曲がると、尖塔を(かたど)った窓が並ぶ壁を睨んだ。幾何学的に彩られたステンドグラスに動揺の影が動いた。あの建物に違いない。

回廊を抜けて細い廊下へ出ると、一旦柱廊玄関の方へ大回りして、男はあたかも今到着したばかりの客人を装い、両開きの扉の隙間から覗き込むように慎重に開いた。


「待ちなさい、シビル!」


その途端、腹に重い突進を受け、男は思わず衝撃を片腕で抱えて後退(あとずさ)りした。(どよ)めきに目を遣る余裕もなく、頬や手を掻き殴られながら、男は何故か本能的に少年の前に立ち塞がり続けた。唸り、叫び、押し付けられている腹を切り裂こうと振り乱す腕を何とか捕えに掛かるも、(すね)を蹴り飛ばされて敢えなく手を離れたが、咄嗟に肩口のシャツを掴み上げて繋ぎ止めた。痩せた子どもとは思えないほどの暴発的で凶暴な力だった。


「おい、おい、落ち着け、落ち着くんだ」


声はまったくの無意味だとすぐに悟った。視点は定まらず、涙を流すその痛哭(つうこく)の瞳は今この場所に居ない。おそらく興奮が痛みを超えている。このままでは、自らの骨をも砕きかねない。苦闘の末、止むを得ず、男は暴れ狂う少年の腕を素早く捻り、首元を捕まえて床に()じ伏せ、膝で背を抑え込むと、観客から新たな響動(どよめ)きと悲鳴が上がった。


「何をするんです・・・乱暴な!」


動きを封じ終え、ようやく顔を上げると、両腕を広げて子どもたちの前に立ちはだかっていたサーロスが、眉間に(しわ)を刻み愕然(がくぜん)と目を(みは)って進み出た。その背後の遠巻きには、怯え、(おのの)き、まるで異形の獣を(なじ)るような眼差しが並んでいる。

その無垢な視線に(なぶ)られ、男は恐々と自らの(とが)を見下ろした。苦痛に呻き、掠れる声を漏らす、涙に汚れた少年の細い(くび)を押さえつける自らの手は、過ちを切り離したいかのように無意識に力が失われていった。そこへ駆け寄って来た衝撃に押し除けられ、男は力無く横倒しに座り込んだ。さらに、その放心する眼前で、男が最も恐れる、何よりも耐え難く、何よりも眼を背けていたかった残酷な光景を目の当たりにした。


純潔な白い背中には白金の髪が流れ、清廉な白い腕は、荒ぶる非道に虐げられた尊い生命いのちを、救い上げた───。


「シビル、シビル!お願い眼を開けて───」


だらりと気を失った少年を見つめたまま蒼褪(あおざ)めている男を振り返ると、少女は哀しみにその頬を強く叩いた。鮮烈な音と張り裂けるような痛みが弾けた。

澄み渡った瞳は潤みを湛え、あの日、あの金色(こんじき)の景色に甦る、白群(びゃくぐん)の怒りと哀しみに重なり青く燃えていた。


「その子どもは狼に憑かれているのだ。ともすれば、獣が目醒める。しかし、ここに暴力は相応しくない。暴力は、暴力を呼ぶ。だからこそ、存在してはならない。力づくでは、何事も解決へと導かれない」


地を這うような間延びした声が響き渡ると、啓蒙所(プリトヴォール)の微かな騒めきは示し合わせたようにぴたりと止んだ。追憶の深傷(ふかで)に翻弄される意識を引き戻し、男は鋭い眼光でついに獲物(クァリー)を視角に捉えた。寄り固まり肩をぶつけ合って、おどおどと右往左往する仔羊たちの間を割って、金糸の装飾を施した黒袖を翻し、堂々たる闊歩で君主(モナク)ブラトヴァは、悠然とその姿を現した。


首長(メテル)サーロス、カティヤ、みんなを講堂(アウディ)へ。イリーナ、シビルを処置室へ、ソーニャも共に連れて行きなさい」


ブラトヴァの眼線を追って背後を振り返ると、先ほど食糧庫で独り作業をしていたはずのイリーナが戸口に立っていた。騒ぎを聞きつけ給仕を中断して現れたらしく、袖を肘の辺りまで捲り上げている。状況を呑み込めないのか、床に座り込む男の顔に何かを訴えていたが、向こうからサーロスが子どもたちを引き連れて来たため、二人は同時にそれを見遣った。サーロスは両手を前で組み、露骨に苦言を(つぐ)んだ非難の目つきで、好奇の視線を散らす子どもたちを庇うように隅を歩いて廊下へ出た。それを尻目に、男は細い腕でシビルを抱き起こそうとするソーニャの横から、そっと少年を抱き上げた。少女は尖った横顔で抵抗する素振りを見せたが、仕方なく名残惜しそうに男の手に任せた。少年を抱えて片膝を立て、ゆっくりと立ち上がると、撓垂(しなだ)れた頭の重たい前髪が払われ、まだ、あどけさの残る少年の(けが)れのない素顔が無防備に眠っていた。両腕に伝う、その重さとあたたかな体温が、すべての過去を問い(ただ)し、胸の中枢をきつく締めつけてくる。


“もしあの教会(エクレシア)が閉鎖されたら、あの子どもたちはどうなるんだ”


険しい顔で見つめていた少年の上にふと影が伸び、気づくとイリーナの黒衣が目の前にあった。顔を見るなり預けた仔ネコのことが口を突いて出かけたが、ブラトヴァの眼を懸念して呑み込んだ。イリーナは無言のまま腰を落として少年の背に両腕を回した。額に掛かる黒いヴェールと淑やかに伏した(まぶた)が、戦禍に焼け遺ったピエタの像を思わせた。

その時、少年の下で意図せず肌が擦れ合ったかと思うと、イリーナは不意に顔を上げ、男は、ひたと凍りついた ───。目深に額を覆う黒衣の陰から覗くその眼は、突如蛇のように豹変し、男の両目に毒の滴る牙を向けていた。


─── 油断した。

 

塞がれた両腕を悔やみ、諦めに奥歯を噛み締める男の眼前で、イリーナは少年の身体を受け取ると、寄り添うソーニャを促して何事もなかったかのように廊下の方へ立ち去った。



(ひず)んだ()き声を引き摺って轟音ごうおんと共に大扉が閉まると、この禍々しく成れ果てた教会(エクレシア)の厳かな啓蒙所(プリトヴォール)には、壁を埋め尽くす聖者の加護を前に、ただひとり獲物(クァリー)だけが天窓から堕ちる光梯子を浴びて舞台の贋物(がんぶつ)の王のように佇んでいた。敬虔(けいけん)とは程遠い尊大な腹を突き出し、ブラトヴァは優位の余裕を浮かべて頭を(もた)げた。


「ここへ立ち入ったことを咎めるつもりはない。訪問者(ゴォスト)ルイス・フェニックス───フェニックス・・・良い名だ。不死、復活、再生、太陽の象徴とされる神話も存在する・・・そして時に、悪魔としての呼び名もあるようだな」


芝居じみた大仰な口調に辟易(へきえき)しながら、男は鳩尾(みぞおち)の奥深くから立ち昇ってくる胸焼けに片眼を細めた。獰猛(どうもう)かつ無感情に見開かれたあの眼を撃ち抜きたい本能と、子どもたちの無垢な眼差しとが意識の(もや)の中で交錯していた。しかし皮肉なことに、未来はおそらく、この傲慢な虚像が言うとおりだ。“力づくでは、何事も解決へと導かれない”。


「ブラトヴァという響きにも聞き憶えがある。その君主(モナク)兄弟たち(ブラトヴァ)というのは、医療機関(カミーユ・マナール)の人間か?─── それとも、地下の(とり)か?」


ブラトヴァは顔色ひとつ変えず、贅肉の垂れ下がった頬をわずかに持ち上げ、ステンドグラスが落とす伸びた影絵を悠長に見下ろした。


訪問者(ゴォスト)フェニックス、自らを救世主だと感じたことはあるかね。または、自らを憎み、恐れ、悪魔だと(ののし)ったことは?─── 君は何も特別ではない。無論、私もそうだ。多くの生命(いのち)を奪い、多くの魂を救った。人間と云うものは誰しも、皆、同じなのだ。“大いなる(ちから)”の前ではな」


「口上は結構だ、質問に答えろ」


ふと、静止したブラトヴァは思い立ったように黒いマントを翻し、苛立ちを募らせる男を背に緩慢な動作で講壇に上がった。そして、酔いしれた充分な間をもって高々と昇る穹窿(ヴォールト)の天窓を仰ぎ、たったひとりの空々しい聴衆に向けて、鼓膜を波うたせるような低声で仰々しく語り出した。


「─── 平等を(うた)集結共和都市(クラスター)は、残酷なことに生命(いのち)を選別する。限られた食料で健全な人々の未来を築くためなのだ、仕方がない。女は子どもを産み、ペアは養子を迎えることを是非とする。技能も知能も満たず、不健全で繁殖能力のない者は“人間”と見做(みな)されない。───ここで暮らす彼女たちは排斥され、本来ならば地下(した)で人形や慰み者になるはずだった者たちだ。それがどうかね、ここでは皆、未来の希望となる子どもたちに慈悲を与え、愛を教え、共に支え合って生きている。子どもたちとて同じことだ。親が無くとも、幼くして無能と見限られようとも、私は、彼らに愛と存在意義を説き、“役割”を与えているのだよ。─── 私を失えば、彼らは路頭に迷うことになる。・・・君を寄越したのは議会(パーラメント)の差し金だろう。カヴァスか?ワーグか、それとも、高飛車のフェンリルか?───戻って、彼らに伝えるがいい。この私の“公平さ”を受け入れなければ、いずれ集結共和都市(クラスター)は内側から崩壊するとな」


内部崩壊、それが目的か ───。


「見せ場を邪魔して悪いが、野良犬の俺を相手に、ご立派な御託(ごたく)をいくら並べても無意味だ。俺は俺の意志で動く。もう一度、単刀直入に訊く、冥獄の禽アヴィス・インフェリスの目的は何だ」


次第に肩で息をしはじめた男の異変を認めると、ブラトヴァは昂然と顎を持ち上げ、悠揚に様子を眺め見ながらゆったりと言葉を継いだ。


「言っただろう、“大いなる(ちから)”だ。我々人間は機械ではない。システムでもプログラムでもない。“欲”は健全なる動物の生ける動機だ。君の欲は何だ。血か?肉か、それとも愛か?─── 訪問者(ゴォスト)フェニックス、もしも君が心から望むのなら、ソーニャを連れ帰っても構わんのだよ」


左腕の感覚は、既に失われていた。視界の端から黒い(すす)が迫りはじめ、男は冷たい息を忙しなく吸い込み、痺れかけている脳を震い起こし続けた。催眠のように朗々と響く声が余計に意識を惑わせる。

ブラトヴァは頬肉に勝算の窪みを植えたまま向きを変えると、腐食した床を片足ずつ踏み締めながら、一歩、一歩と執拗に時間をかけて、蒼い額に冷や汗を浮かべる男の方へと(にじ)り寄ってきた。


「彼女は自ら集結共和都市(クラスター)を辞退した美しく稀有な魂だ。あと二、三年もすれば、ペアとして正式に受け入れられるだろう。そうすれば君も、大手を振って陽の(もと)を歩ける。ソーニャは、実にやさしい娘だ。自らの犠牲も厭わず、寛容で、慈愛に満ちている。まるで、聖母のように。─── そして、()しくも、君を特別に慕っている。彼女なら、その手にある罪や穢れも受け入れ、いずれすべてを癒してくれるだろう」



“銃を抜け、ジャッカル!”


“力づくでは、何事も解決へと導かれない“


“撃つのか、ルイス”


“その眼が、何もかも見て来た。その耳は、すべてを憶えているだろう“


“自分からは逃げられない、永遠に、何処へも、逃げられない─── “



「代わりと言っては何だが、この孤児養護施設(オルフェス・テッサ)の、用心棒にならないか。等価交換(フェアトレード)だよ。私は君たちの平和なルールに従うつもりだ。どうかね?─── 君は何故ここに来て、銃を使わないのだ。自分でも理解できていないのか?─── 私には解る。今の“役目”に迷いがあるのだ。そうだろう?」


血の気のない唇を固く引き締め、揺れ動く獣の瞳で必死に睨みつけている男と真近に対峙すると、ブラトヴァは、金縛りに遭ったように正気に獅噛(しが)みつき、小刻みに痙攣(けいれん)している金色の毛先から爪先までをじっくりと()め回して、(おもむろ)に上着に手を差し込んだ。肩と胴に巻き付いた硬いサスペンダーを撫で、品定めするような手つきでナイフの柄や小型機器にひとつひとつ触れてから、腰のベルトを後ろへなぞって冷たい金属に指が触れると、満足げに笑みを浮かべ、その燻銀(いぶしぎん)のずっしりと重たい銃を引き抜いた。

その途端、男は糸が切れたように崩れ堕ち、激しく打ちつけた身体が啓蒙所(プリトヴォール)の空洞を轟音で満たした。


「講義を聴いてくれて感謝する。私の“欲”が満たされたよ 、訪問者(ゴォスト)フェニックス。─── いや、“ジャッカル”」


煤に塗り潰されてゆく朧げな視界に銃を弄ぶ黒い姿が映っていたが、やがて残響と共に、意識は虚空の彼方に掻き消えた。

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