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Ringwanderung  作者: 風早 遥
4/5

不良と少女

「俺はある犯罪者を追っている。

そいつの名はローランド・ヴァローネ。

魔術を使って非合法に稼いでいる、マフィアの首領だ。

俺の目的は、そいつと、その配下、傘下の組織を潰すことだ。

何か質問はあるか?」


 鋭い目で一瞥されると、アランは目に見えない重圧を感じた。


それに、場所も悪かった。


女性うけしそうな喫茶店で、柄の悪そうな二人組の男が顔をつきあわせているため、周囲からの視線にも耐えなければならないのだ。


だが、この場所を選んだ本人は、全く気にしていないようだった。


大魔術師になるには、肝も据わっていなければならないということだろうか。


「あんたの目的はわかった。

でも、なんで俺なん?

卒業もしていないひよっこなんか、お荷物にしかならんと思うけど?」


「知識など後から叩きこんでやる。

俺はスパルタだからな、覚悟しておけ」


「ちょっと待ってや。

一緒に行くなんて一言も言ってへんやろ」


「俺についてきたということは、了承したということだろう」


「ちゃうよ。

話を聞くだけ聞いたろって思っただけで――」


「ここまで聞いたんだ。

後には退けんぞ」


 アランはオレンジジュースの最後の一口を飲んだあと、ため息をついた。


「あんたのほうが、よっぽどマフィアに向いてるで」


 アランの返答をどう受け止めたのか、デュヴァルは満足げに頷き、伝票を持って立ち上がった。


「行くぞ」


「ほんまに本気なん?」


 アランは念のため確認をとった。


 デュヴァルが、実は暇つぶしにからかっただけだと言い出すのを期待したのだが、そんなことにはならなかった。


「当たり前だ。

奢ってやるんだから、働いて返せ」


「そんなこと言うんやったら自分で払う。

あんたの分も払うから、休学届は返せ!」


 アランは伝票を奪おうと手を伸ばしたが、デュヴァルはあっさりとかわして、伝票を持って行ってしまった。


「ほら、行くぞ」


 デュヴァルに引きずられるようにして、アランは喫茶店を出た。


 もうどうにでもなれという心境だった。


この世界には不思議な人種がいるということを、アランは知っていた。


傍若無人で自分勝手なのに、なぜか必ず自分の思う通りに事を運んでしまう人間だ。


ロワイエ・デュヴァルは間違いなくそういった人種だろう。


 それに、アランは旅というものに少なからず憧れを抱いていた。


面倒なことは嫌だと思う反面、本能が暴れられる場所を求めているのも、その狂暴な衝動が簡単には消えないこともわかっていた。


だから、多少の不満はあるが、このまま流されてみるのもいいかもしれない、と思ったのだ。


 喫茶店を出たとたん、アランは息を呑んだ。


いまだにアランの腕をつかんでいたデュヴァルの首に、ナイフが突きつけられていたからだ。


デュヴァルの背中から顔を覗かせると、ほっそりとした白い腕が見えた。


ナイフを持っているのは、セミロングの華奢な少女だった。


 アランは思わず目を覆った。


デュヴァルは不快そうに目を細めた。


「なんだ、この小娘は」


「うちのリーダーから離れてよ」


 ナディア・カロッソは勝気そうな目に殺気を漲らせて、自分より二十センチ以上背の高い男を、真っ向から睨みつけた。


ナディアは不良のナンバーツーで、その好戦的な性格は学校の誰をも凌ぐ勢いだ。


誰にでも牙をむく狂犬だが、アランにだけはよく懐いている。


「ナディア、ナイフを仕舞え。

そんな物騒なもの、簡単に出したらあかん」


「リーダー、この人誰?」


 デュヴァルはじろじろとナディアを観察し、ナディアはそれを「メンチを切られた」と思ったのか、同じようににらみ返した。


「こいつはしばらく大学を休む。

今から別れの挨拶でもしておくんだな」


「なんで? 私にはそんなこと一言も……」


「今決まったんや。悪いけど、他の奴らにも伝えておいてくれ」


「どこに行くの? 私もついてくよ」


 ナディアは捨てられた子犬のような目でアランの腕をつかんだ。


そうされると弱いということを、知っていてやっているのだろうか。


「トップがおらんのに、お前までおらんようになったらどうなる?」


「嫌だ。絶対についていくから」


 アランに言っても仕方がないとわかったのか、ナディアは方向を変えて、デュヴァルを挑戦的に見据えた。


「いいでしょう?」


「ああ、構わん」


「ほら、いいって言ってるじゃない」


 アランは状況についていくのが精いっぱいだった。


「いいんか?」


 アランはその返答が信じられなくて、恐る恐る尋ねた。


「喧嘩早いガキは好きだ。

昔、俺の手下にこういう奴がいたんだが……懐かしいな」


 ナディアは素早く反応して、噛みつくように言った。


「勘違いしないで。

私はアランにしか従わない」


「不良というのは、今も昔も変わらんな」


 全く会話が成り立っていないということに、二人とも気づいていないようだ。


アランはこっそりとため息をついた。


これから先、自分が気疲れするのは目に見えている。





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