不良と大魔法使い
ロワイエ・デュヴァルは黒いローブの裾を靡かせながら、大学の廊下を颯爽と歩いていた。
多忙のため、母校に立ち寄ることはほとんどないが、今日は特別な用があってここに来ている。
普段から近寄りがたい雰囲気を振りまいているデュヴァルだが、あまりの暑さに、目つきの鋭さが増していた。
少年時代に不良をやっていたせいか、なにもしなくても凄みがある。
夏だというのに全身黒づくめというのも、いっそう禍々しく見えた。
骨のある生徒はいないかと観察していたが、デュヴァルは二十人目で諦めてしまった。
目を合わせるどころか、小さく息を呑む始末だ。
今日は無駄骨かと思っている時、向こうの角から一人の少年がやってきた。
黒髪で、教材を持っているところを見ると、まっとうな生徒のようだが、遠くからでも威圧的な気配を感じることができた。
すれ違う生徒も、目を合わせないようにしている。
少年の目の前で立ち止まり、じっと見下ろすと、射殺されそうなほど鋭い眼が返ってきた。
ほとんど条件反射のような素早さだった。
「――邪魔や」
デュヴァルは興味を覚え、大人しく道を譲った。
十六歳ぐらいだろうが、かなり背が高い。
デュヴァルも高いほうだが、三十代のデュヴァルと並んでも、二、三センチしか変わらないのではないかと思う。
デュヴァルは去っていく背中を品定めするように観察した。
服の上からではわかりにくいが、かなり鍛えているようだ。
魔力も申し分ない。
それに、あの覇気。
精神の強さと魔力は密接につながっている。
デュヴァルは少年の顔を頭に焼き付け、再び歩き出した。
「お待ちしておりました、デュヴァル様」
校長室の扉を叩くと、数秒もしないうちに校長が現れた。
「どうぞ、お座りください。
今日は暑いですね」
返事の代わりにちらりと視線を送るが、それをどう勘違いしたのか、校長の顔色が悪くなった。
デュヴァルは舌打ちしたいのを抑えて、ソファに腰を下ろした。
「ここの生徒の名簿を見せてくれ」
「誰か、気になるのがいましたかな?」
校長が、今度はそわそわしながら言った。
「勧めたい生徒がいるのか」
「ええ、この生徒なんですが――リカルドといって、学年一の秀才です」
デュヴァルは写真を一目見ただけで、校長に書類を突き返した。
「どうでしょうか」
「駄目だな。覇気が足りん」
デュヴァルは他に選ぶ気はなかった。
さっきすれ違ったあの少年、あれは見所がある。
「――こいつを借りていこう」
ようやく見つけた書類を校長に見せると、今度こそ真っ青になった。
「いけませんよ、これは。
大学一の問題児です。
不良グループのトップで、喧嘩は必ず買うと豪語しているほどです」
「売らないのか」
「売りはしませんが」
「ふん、愚かなことはしないか」
「それと、自分が不良だとは思っていません。
授業にも必ず出席していますが、よくわかりませんよ」
「面白いな」
デュヴァルは純粋にそう言った。
「こいつをここに呼んでくれ」
校長は反論しかけたが、デュヴァルの顔に浮かんだ猛禽類のような笑みを見て、慌てて部屋を飛び出した。