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Ringwanderung  作者: 風早 遥
1/5

prologue

【Ringwanderung】

 

 吹雪や濃霧のために方向を見失い、同じ場所を歩き続けること。






プロローグ




 自分はけっこう真面目なほうだ、とアランは思っている。


授業には毎回出席しているし、期限は守らないが、宿題だって提出している。


 一人で廊下を歩いていると、数人のグループとすれ違いざまに目が合った。


その瞬間、全員の口からひっと息をのむ音が漏れた。


夏の暑さに辟易して、いつもより少し険しい顔をしていたことは認めるが、いくらなんでも失礼ではないか。


 なんやねん、とひとりごち、教材で汗ばんだ首筋をあおぎながら、アランは屋上のほうへと歩いていった。


学校の中で、アランが一番気に入っているのがこの屋上だった。


と同時に、柄の悪い少年たちのたまり場でもあった。


 アランが屋上のドアを押したとき、そこにはすでに先客が四、五人いて、いわゆるヤンキー座りをしていた。


どの生徒も、札付きのワルとして学校中に顔が知れ渡っている。


タバコは吸っていないが、地毛でピアスをしていないのは、この場ではアランだけだった。


 風がアランの黒髪を撫ぜていく。


やっぱり、ここは気持ちが落ち着いていい。


 アランが近づいていくと、少年たちはいっせいにアランを見た。


「呼び出し、どうだった?」


 不良たちのナンバースリーであるカークが、じろりとアランを睨みつけながら言った。


威嚇しているわけではなく、無意識にやっているのだから性質が悪い。


「特別課題を出された」


「なにしたんだよ」


 アランが答えると、ピンク色の髪の少年――ジルベルトがニヤニヤしながら聞いてきた。


習いもしない魔法で無理に染めたせいか、光の加減でオレンジや紫にも見えたりする。


「風を起こしてみろっていうから、その通りにやっただけや。

呪学の授業中に、やれって言われたことをやって、なにが悪いねん」


 アランは腹いせに教材を丸めて、ぐしゃぐしゃにしようか――と思ったが、想像だけでやめておいた。


テストが近いからだ。


「それだけじゃ、説明不足だな。

こいつ、教授のカツラをわざと吹き飛ばしたんだ」


 カークが付け加えた。


「あのおっさん、やっぱりヅラだったか」


「例えばやけど、俺がリカルド・ダヴィアやったら、教授はどうしたと思う?」


 アランは学年一の優等生の名前を出した。


「次からは気をつけなさい、だろうな」


 カークは肩をすくめてみせた。


「差別や。なんで俺やったら課題やねん」


「そりゃあ、お前が不良だからだろ」


 カークはあっさりと答えたが、アランにとっては心外な回答だった。


「俺がいつ、不良やって言った?

こんな真面目な不良いるか」


「確かにお前は、不良にしては勉強するが、喧嘩するだろ」


「俺は喧嘩を売ったことはない」


「必ず買うじゃねえか」


「正当防衛や」


 いつものやり取りを交わしていると、ドアが開いて、アランの知らない生徒がおそるおそる顔をのぞかせた。


「うん? なんか用か」


 アランが愛想よく声をかけると、少年は少し安堵したようだったが、早くこの場を去りたいというのが顔に出ていた。


カークが舌打ちすると、少年は肩を震わせた。


「あの、先生が呼んでるよ」


 ジルベルトが口笛を吹いた。


「教授にモテるな、アラン」


「覚えがない」


 アランは髪をかきながら思案した。


「そうや、どこに行けばいいん?」


「校長室だって」


「おい、お前」


 ニーノが凄みのある声で少年に呼びかけた。


「敬語を使え。アランさんにそんな口をきくな」


「いらんことを言うな。ああ、気にせんでええよ」


 アランは固まっている少年の背中を押して、一緒に階段を下りた。


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