準備 3
<準備 3>
2年前、母は病院のベッドに横たわっていた。その時、母は私にこう言った。
「スンウ、きっと幸せになるよ。」
どんな状況でも笑顔を失わなかった母。父の事業が失敗し、浮気をした時も、妹のスンアが母の病を受け継いだことを知った時も、母はいつも強い人だった。
私は涙をこらえて答えた。
「お母さん、僕の幸せはお母さんとスンアが元気でいることだよ。だから…絶対に良くなって。スンアが毎晩お母さんに会いたいって泣いてるんだ。」
スンアは私の背中を軽く叩きながら不満そうに言った。
「お兄ちゃん、余計なこと言わないで!」
母は優しく微笑みながら言った。
「孝行息子を産んだものね。さあ、私の幸せたち、こちらにおいで。」
「うん!お母さん!」
スンアが母の胸に飛び込んだ。
「スンア、お母さんつらいんだから、あんまりくっつかないで」と私がたしなめると、スンアは舌を出した。
「べーっ、嫉妬してるんでしょ?」
その瞬間、病院の中でもこんな時間がずっと続けばいいと思った。
「ほら、お兄ちゃんの言うこと聞かないの?」
私が冗談っぽく言うと、スンアが叫んだ。
「うわーん!お母さん、お兄ちゃんが私をいじめる!」
あの時が母との最後の時間だと知っていたら、もっとたくさん話していただろう。後悔が押し寄せた。
今、私は母とスンアの遺骨の前に立っている。
「母さん、スンア、来たよ。」
以前はスンアと一緒にここに来ていたけど、今は私一人だ。スンアが亡くなった後、ここにまた来るなんて想像もできなかった。あの時はスンアの後を追って死のうとしていたから。
納骨堂の冷たい空気が私の肌を撫でた。以前はその空気が私を嘲笑い、果てしない絶望に引きずり込むように感じた。でも今は違う。絶望は懐かしさに変わり、冷たい空気は熱かった頭を冷ますのにちょうどいい。
私を変えてくれた存在、シアを振り返った。シアは普段は誰の前でも頭を下げない生意気な子だけど、今は私の家族に静かに挨拶するように頭を下げていた。その姿は、私が一人じゃないことを教えてくれるようだった。
私は目を閉じ、心からの思いを込めて言った。
「母さん、スンア。怒られるかもしれないけど、私が死のうとしたとき、この子、シアが私を救ってくれた。二人ともいなくなって本当に辛かったけど、今は死にたいほど辛くはないよ。でも、恋しさは残ると思う。ちょうど二人が心配しないくらいにね。」
「そっちでは私を愛してくれた分だけ幸せになって。そしたら世界で一番幸せな人たちになるから。」
シアを思い浮かべながら続けた。
「いつかこの子を家に帰して、またここに来るよ。その時は一人でも大丈夫な気がする。」
その後も私は話し続けた。母とスンアに届いてほしいと願って。
どれだけ時間が経っただろうか、私が静かに言った。
「もう行く?」
私は手を差し出し、シアが明るく答えた。
「うん!」
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私たちは納骨堂を後にして遊園地に向かった。シアと過ごした時間は笑顔と温かさでいっぱいだった。
家に帰る階段を上っていると、聞き覚えはあるけど嬉しくない声が聞こえた。
「スンウ?」
シアと握っていた手に思わず力が入った。シアが心配そうな目で私を見た。
「ごめん、ちょっとびっくりしただけ。」
上がってみると、そこにはイジウンがいた。幼い頃の隣の家の幼馴染。突然の訪問に理由が気になったが、彼女の態度には何か下心があるように感じた。
とりあえず彼女を家に上げた。でも案の定、2年前と同じようにお金の話を持ち出した。
その時はおばさんが、今回はその娘か。
親子揃ってそっくりだな、と思いながらため息をついた。
その時、シアが眠そうな声で割り込んできた。
「スンウ、眠いよ。もう寝てもいい?」
時計を見るとまだ早い時間だったが、今日一日中出歩いたのだから、シアが疲れているのは当然だった。
「ジウン、今日は帰って。話は明日、おばさんと直接するよ。」
「何?そんな態度、うちの母さんに全部話すから!助けてやったのに恩を仇で返すの?スンアが喜ぶわね!」
スンアの名前が彼女の口から出た瞬間、胸にナイフが刺さるような感覚だった。今日、納骨堂で家族を思い出して恋しさが一層深まっていたところだった。
イジウンは怒ってドアをバタンと閉めて出て行った。私は疲れ果ててソファに倒れ込んだ。シアが心配そうな目で私を見た。
「スンウ、今日…遊園地、めっちゃ楽しかったよね?一緒に行ってくれて本当にありがとう。」
彼女の温かい言葉に心が少しほぐれた。
「スンウ、ずっとそばにいるよ。」
その言葉が私の胸を打った。一人だったら、きっと私は泣き崩れていただろう。
「うん、言葉だけでもそう言ってくれてありがとう。」
私の言葉にシアは少し拗ねた表情を見せた。その可愛さに思わず笑ってしまった。
「シア、寝る準備しないの?」と私が聞くと、
「うーん、なんか…急にチョコレート食べたくなって、コンビニ行ってくる!」
「一緒に行く?」
「ううん!私一人でサッと行ってくる!」
シアはそう言って家を出た。私は彼女が戻るのを待ちながら、今日の全ての瞬間—懐かしさ、温かさ、そして新たに始まった希望—を心に刻んだ。
#
「さて、どこにいるかな…近くにいるはずなんだけど…」
シアはコンビニに行くふりをして誰かを探していた。目で見つけるのが難しいと気づくと、静かに力を引き出した。白いオーラが四方に広がり、彼女の記憶の中の誰かへと向かっていった。
「見つけた。」
シアの目に喜びが走った。街をうろつくイジウンとその母親が見えた。
イジウンが言った。
「母さん!あの貧乏人がちょっと金持ったからって、生意気になってるよ!」
隣で濃い化粧の女が書類をひらひらさせながら答えた。
「娘、心配しないで。あいつは借用書の在処も知らないはずよ。これが私の手にあるんだから、黙って言うこと聞くしかないわ。」
二人はケラケラと笑った。誰が見ても三流の悪党のようだった。いや、それ以下かもしれない。
シアは素早く走って二人の前を塞いだ。
「こんにちは?」
突然の登場に驚いた母娘。イジウンが先に口を開いた。
「あなた、あの時スンウのそばにいた子…」
パチン—
その言葉が終わる前に、シアの手から白いオーラが放たれた。
「さっきから思ってたけど、あなたの口からスンウの名前が出るの、なんか気分悪いね。」
シアは無垢な笑顔で二人を見た。しかしそのオーラは母娘を一瞬にして幻覚の世界へと引きずり込んだ。果てしない恐怖と痛みが混じる地獄のような空間。腕が切り裂かれ、頭が割れ、足が腐るような痛みが二人を襲った。
「くっ…くはっ!何これ…!」
「ううっ—!」
ほんの数時間の幻覚だったが、二人には永遠に感じられたはずだ。シアは借用書を手に持って冷たく笑った。イジウンとその母親は恐怖に顔を引きつらせ、泡を吹いて倒れた。
「ちっ、エラリオンだったら一生幻覚の中に閉じ込められたのに。今は数時間が限界か。」
シアは少し物足りなさそうだったが、苦しむ二人の表情はなかなか見ものだった。
「ごめんなさい…お願い…」
イジウンが涙を流しながらシアの足首をつかんだ。さっきまでシアを軽視していた彼女が、今は敬語を使っていた。
シアは冷たく言った。
「謝る相手、間違えてるよ。あなたの謝罪を受け取る人も、謝るべき人も、もうこの世にはいない。」
彼女はイジウンの手を振り払い、続けた。
「正直、この程度の罰じゃ私には物足りないくらい。でもこの借用書、置いていくよ。そして二度とスンウの前にも、私の前にも現れないで。次は本当に消すから。」
シアは借用書を手に持ったまま最後の警告を残した。イジウンとその母親は恐怖に震えながら後ずさった。
「スンウにはすぐ戻るって言ったから、早くチョコレート買わなきゃ。」
シアは気分が晴れたように軽い足取りでコンビニに向かった。




