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決心 2

<決心 2>



シアがスンウにエラリオンへ一緒に旅立とうと提案する数時間前のこと。


シアは地球での生活にすっかり慣れていた。時折、ひとりで近所を散歩し、自由を満喫していた。最初は心配でいっぱいだったスンウの気持ちを知りながらも、シアはそんな心配に縛られるような女ではなかった。彼女はコンビニで大好きなホットチョコを買ったり、近所の書店で本を眺めたりして時間を過ごす。その自由なひとときは、彼女にとって小さな冒険だった。


その日も、シアは鼻歌を歌いながら、スンウからもらったお小遣いを手にコンビニに向かった。「フン〜フン〜」と軽快な声が、彼女の心の喜びをそのまま映し出していた。雪が積もった道を歩きながら、スンウと初めて雪を見た時の記憶が蘇る。あの時の笑い声と冷たい雪の感触が、彼女の足取りをさらに軽くした。


コンビニの入り口にたどり着いた時、見覚えのある顔が目に入った。シアは首をかしげた。普段なら、スンウ以外の人間の顔など覚えない彼女だった。それでも、その女性の姿はどこか見覚えがあった。シアがじっと見つめていると、女性が顔を上げる瞬間、記憶が閃いた。スンウと初めて外食したラーメン屋の店員。スンウの妹、スンアの小学校の先生だった。


シアは迷わず女性に近づいた。何か閃くような直感が彼女を突き動かした。「こんにちは! もしかして、スンアの小学校の先生ですか?」スンウが以前、彼女を「先生」と呼んでいた記憶が蘇った。


女性、シヨンはシアを認めたように目を丸くして、温かく微笑んだ。「あら、あなたはあの時、うちのお店に来た子ね!」「はい、こんにちは! シアと言います!」シアは腰を下げて丁寧にお辞儀をした。スンウに教わった礼儀だった。「もしお時間があるなら、ちょっとお話ししませんか?」


シヨンはくすっと笑って頷いた。「ほんと、礼儀正しい子ね。私はシヨンよ。おばさんがジュースをおごるから、カフェでも行く?」「はい、いいですね!」スンウは知らない人についていってはいけないと口酸っぱく言っていたが、シアにはそんな心配は必要なかった。地球上で彼女に害を及ぼせる者などいなかった。彼女は自信満々の笑みを浮かべ、シヨンについていった。


「さて、私とどんな話がしたかったの?」シアは飲み物の甘さに一瞬うっとりして、シヨンを呼んだ理由を忘れそうになった。彼女はグラスを置いて、口元を手で軽く覆い、「んー」と小さく咳払いをした。シヨンを引き止めた理由ははっきりしていた。彼女が最も信頼し、頼りにしている人、スンウについてだった。


スンウは普段、自分のことをほとんど話さなかった。家族の話が出ても、いつもシアのことばかりだった。その態度に、シアはもどかしさを感じていた。だから、スンウを知る人なら誰でもいいから、彼の話を聞きたかった。シアは迷わず本題に入った。「シヨン先生、スンウの家族について、どこまでご存知か教えてください!」


シヨンはシアのストレートな質問に少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。「スンウの家族について気になるのね。スンウは話してくれなかった?」「はい… 聞いてもはぐらかすんです…」シアはしょんぼりした声で答えた。スンウのそんな態度に、内心、寂しさを感じていた。


シヨンは少し考え込むようだった。「うーん… 確かにそうかもしれないね。本来は本人の同意なしにこんな話はしないんだけど、あなたはスンウと深く繋がってるみたいだから… 話してもいいよね。」


「ありがとうございます! じゃあ、まずスンアのことから教えてください!」シアは目を輝かせ、スンアの話を持ち出した。スンアの話が出るたび、スンウの口元に浮かぶかすかな笑みを思い出した。でも、その瞳はガラスにヒビが入ったように揺れていた。その不安げな目から、シアは彼の痛みを感じ取り、その痛みを共有したかった。


「スンアは小さい頃から体が弱かったの。母親から受け継いだ病気だったからね。実はその時、私もスンアが元気だと思ってうっかり話を振っちゃって… 本当はそうじゃなくて、スンウに申し訳なかったわ。」シヨンの顔には後悔と悲しみが滲んでいた。「その時」とは、シアもよく知る瞬間だった。ラーメン屋での出来事だ。


「スンアは9ヶ月前に亡くなったの。私は遠くに行ったんだと思って、ほんと鈍感だったわ。スンウの顔を見るのが恥ずかしいくらい…」シアはスンアが亡くなったことは知っていたが、その時期までは知らなかった。9ヶ月前。彼女とスンウが初めて出会った日だ。スンウが彼女を抱きかかえて病院に走ったあの夜。「そんな辛いことを経験しながら… スンウは私を助けるために病院まで行ってくれたんだ…」


シアはあの時を思い出した。彼女を抱えて息を切らしながら走ったスンウの姿、普段は泣かない彼の顔に浮かんだ冷たい涙。あの時の彼は、今と比べるとあまりにもやつれていた。スンアを失った悲しみのせいだろうと、シアは思った。でも、彼女にはまだ知りたいことがあった。あの深夜、なぜスンウが屋上にいたのか。「いつかスンウに直接聞いてみよう。時間はいっぱいあるから。」シアは気持ちを切り替え、尋ねた。「じゃあ、スンウのお母さんは?」


「お母さんは7年前に亡くなったの。その後はスンウがいつも学校が終わるとスンアを迎えに来てたわ。その時にスンウの顔を初めて見たのよ。」シヨンの声は落ち着いていたが、深い愛情が込められていた。幼い頃から見ていた子たちだからか、目がどうしても彼らに向かってしまうのだと言った。


「じゃあ… お父さんは?」シアはこの質問が一番気になっていた。スンウの家には女性の物は多かったが、男性の物はスンウのものだけだった。それに、彼は父親については一度も口にしなかった。「お父さん」という言葉に、シヨンの体がわずかに固まった。シアはその微妙な反応を見逃さなかった。今までの話とは違う、重い話が出てきそうだった。


シヨンは少し躊躇してから口を開いた。「こんな話を若い子に言うのはどうかと思うけど… スンウの父親は家族に暴力を振るう人だったの。そして2年前に事故で亡くなったのよ。」シヨンは「因果応報」という言葉を言いかけて、目の前に幼いシアがいることに気づき、咳払いで言葉を飲み込んだ。


「家族への暴力…」その言葉を聞いた瞬間、シアの胸に怒りが込み上げた。スンウの父親に会ったこともないのに、彼をズタズタに引き裂きたい衝動に駆られた。彼女にとって、スンウ以外の人間はただの喋る下等な生き物に過ぎなかった。もしその父親が生きていたら、彼女の手で即座に始末されていただろう。


シアは突然押し寄せる感情を抑えながら、自分の家族である神獣の群れを思い出した。彼らは家族愛と仲間意識で強く結ばれていた。スンウのような悲劇は想像もできなかった。「だから… スンウを私たちの群れに連れて行ったら…」ふと頭をよぎった考えだった。すべてを失った彼にとって、今、そばにいるのは自分だけだという事実。スンウは、いつの間にか彼女にとってあまりにも大切な存在になっていた。彼が視界から消えると不安が押し寄せるほどに。自分勝手だとわかっていても、彼がこれからも自分のそばにいてくれたら… その想像だけで、彼女の心臓は激しく鼓動した。


表面上は平静な表情を保とうと努力したが、目元には隠しきれない喜びの震えが揺れていた。その震えは、止めようとしても止められない波のように、彼女の心を飲み込んだ。その後、シアはシヨンといろいろな話を交わした。飲み物を飲み終え、店を出ようとした瞬間、シヨンがシアを呼び止めた。


「ねえ、シア。こんなことを若い子に言うのはどうかと思うけど、今はあなたにしかできないと思うから言うね。スンウを… ちゃんと見ててあげて。」


シアはその言葉を聞いて、今まで以上に明るく笑って答えた。「もちろんです!」彼女は輝く笑顔で答え、心の中で固く決意した。スンウは今、この世界でひとりぼっちだ。ならば、自分が彼のそばでしっかり支えなければ。心の中でその決意を繰り返しながら、彼女は思った。今日、家に帰ったら、スンウに自分の世界、エラリオンに一緒に行こうと提案しよう。そこでなら、自分の群れと一緒に、スンウはもう孤独じゃないはずだ。


「断られたら無理やり連れて行くしかないね。スンウって、意外と私に弱いから、泣きわめけば絶対聞いてくれるよ。もしそれでもダメなら…」シアは自分の手から溢れる力を眺め、固く決意した。「今日、スンウに絶対言うんだ!」


だが、現実は彼女の思い通りには進まなかった。家に帰ったシアは、緊張のあまりもじもじしながら、エラリオンに一緒に行こうとやっとの思いで切り出した。肝心の「私の群れと一緒に暮らそう」という、彼女の心の奥に秘めた言葉は、結局口に出せなかった。


それでも、それがなんだというのだ。彼女はスンウを絶対にひとりにしないという固い決意を胸に刻んだ。幼い彼女の決意は、どんなものよりも強く、熱かった。

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