喧嘩
<喧嘩>
ドスドス。
シアと私は食堂に向かう廊下を歩いていた。カイレンの屋敷は目を見張るほど豪華だった。蝋燭が柔らかく瞬く壁、精巧な模様が刻まれた柱は、ファンタジー世界の屋敷らしい風景だった。
「やっぱり普通の人じゃないよね。でもこの屋敷、めっちゃ広いね。」
体はまだ完全に回復していなかったが、シアの治療のおかげで歩けるくらいにはなっていた。
「でしょ! 地球にあった私たちの家より何倍も広いよ!」
シアが琥珀色の目をキラキラさせながら言った。
「ん? 私が倒れてる間、探索しなかったの?」
「何!? スンウ、倒れてるのにそんな気分になれるわけないでしょ!」
「シア、もうすっかり大人だね。立派になったよ。」
感心した私は彼女の頭を撫でた。シアは「ヒヒヒ」と笑いながら「当たり前じゃん!」と付け加えた。
その言葉を見逃さず、私はさっき部屋で交わした会話を思い出しながら言った。
「じゃあ、大人のシアなら謝罪もちゃんとできるよね?」
「う… え? それって… 絶対しなきゃいけない?」
突然の話題に動揺したシアが目をパチパチさせた。私は目に見えるくらい血走ったふりをして、じっと彼女を見つめた。
「シア? さっきの会話とちょっと違うよね?」
「うっ… スンウ、ひどい… ちょっとふざけただけなのにそんな目で見るなんて!」
「ふざけてたって感じじゃなかったけど?」
「うぐ… 違うよ、ふざけてただけだよ!」
「ククッ、わかったよ。嘘だったら叱るところだった。」
騒ぎながら、いつの間にか食堂の扉の前に着いていた。シアが何かブツブツ言った。
「このままだとスンウに頭叩かれちゃうかな…?」
聞かなくてもいい言葉だと思って流した。
従者が扉を開けると、食堂の中は派手すぎない上品な豪華さで輝いていた。精巧なシャンデリアと柔らかな蝋燭の光が調和した空間は高級感に溢れていた。
『これがファンタジー世界の屋敷か。』
感嘆していると、カイレンの快活な声が響いた。
「スンウ! 話はうまくまとまったか?」
「え、はい。おかげさまで無事に終わりました。」
彼には最大限の礼儀を尽くした。3日間も私たちを屋敷に泊めてくれた人だ。どんな意図があっても、感謝していた。
その隣で、リスティアが私を睨みつけていた。赤い瞳はまるで私を飲み込むかのような威圧感を放っていた。どうやら彼女の機嫌はまだ悪いようだ。
「えっと… リスティアさん?」
彼女の視線が重たくて慎重に呼びかけると、カイレンが腹を抱えて笑った。
「プハハ! リスティアさんだって! ただのリスティアでいいよ! な、リス?」
「……うん。」
カイレンは100%外向的な性格のようだった。でも、リスティアは不機嫌そうに顔をさらに強ばらせた。
『やばい… カイレンさん、頼むから余計なことしないで…』
心の中でため息をついた。
「さ、立ってないで座れよ。腹減っただろ?」
『まだチャンスはある!』
私は切り札のシアをチラッと見た。シアも私の視線に気づいたのか、肩をすくめた。
『シア、頼れるのはお前だけだ!』
さっき部屋で交わした会話を思い出した。
「え? 神聖力がほとんどなくなったって?」
嫌なデジャヴを感じた。シアが言った。
「でもここはエラリオンだから、神聖力はすぐ回復するよ! 心配しないで!」
「その『すぐ』っていつ?」
「うーん… たぶん3週間… いや、1ヶ月?」
エラリオンに来るために1回、私を探すために2回、リスティアに攻撃しようとして3回。こうしてシアの神聖力は底をついた。
そもそもエラリオンに来るのに想像以上の神聖力を使ったのだ。
変数だった。最初に私が彼女と離れて移動してしまったのが原因だ。今悩んでも仕方ない。まずはシアがした無礼について話さなければ。
「シア、なんで知らない人にいきなり怒鳴ったんだ?」
「あのトカゲがスンウを殺そうとしたんだから! 殺気を放ってるくせに脅迫だなんて!」
「シア、お前の言うことも一理あるかもしれないけど、さっき聞いただろ。ただ脅そうとしただけだっ
て。悪い人じゃないと思うよ。」
「スンウ、どうして分かるの! 私の味方じゃなくてあの女の味方するんだ?」
シアは私がリスティアの味方だと誤解して、悔しそうに胸を叩いた。私は誤解を解かなければならなかった。
「シア、俺はあの人の味方をしてるんじゃない。むやみに人を判断するのは良くないよ。お前にはそうしてほしくない。」
「その二人は別に助けてくれなくてもいいのに助けてくれたじゃん。もちろん何か企みがあるかもしれないけど、少なくとも私たちを害するつもりはないと思うよ。」
社会では無償の親切は少ない。子供の頃、バイトをしていて骨身にしみた。でも、報酬を求めずに動く人もいる。そんな親切を思えば、疑ってばかりじゃいけない。
「スンウ、どうしてそんなに確信できるの? 出会って数時間も経ってないのに。」
シアが首をかしげて尋ねた。
「簡単だ。その人の周りの人を見れば分かる。」
「周りの人? あのドラゴン? まさか… そのドラゴンに惚れてるの?」
「何!? カイレンさんを見るリスティアさんの目、気づかなかったのか?」
「私はスンウしか見てなかったから気づかなかったよ。」
シアがじっと私を見つめて答えた。
これは喜ぶべきか、困るべきか。彼女にはもっと周りを見る力を養ってほしいと思った。
「とにかく、俺は見た。」
「何を?」
リスティアの目には、カイレンへの信頼、信仰、愛情が見えた。彼女にとって彼は大切な存在だった。そんな目で見られる人は信用できる。
シアにそのことを話すと、彼女は言った。
「うーん… なんとなく分かった。スンウの言うことなら信じるよ。」
まだピンと来てなさそうな表情だったけど、私を信じてくれて嬉しかった。これすべてはシアにリスティアへ謝罪させるための布石だ。
「信じてくれてありがとう、シア!」
私は大げさに彼女の手を握った。
「そ… そうなの? ヒヒ、スンウの言うことならなんでも信じちゃうよ。」
シアは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「そう? 何でも信じてくれる? じゃあ、俺の頼みも聞いてくれる?」
「スンウ? なんか今の顔、ちょっと怖いよ…」
怯えたシアがベッドの上で少し後ずさった。
そして現在。
私はシアを信じている。彼女ならできるはずだ。まず私が切り出そう。
「ねえ、リスティア、うちのシアが謝りたいことがあるって… 聞いてくれる?」
「……?」
リステイアは意外そうに動揺した様子だった。
「おお、子神獣様に何か話があると?」
カイレンも興味深そうにあごを支えて言った。
リステイアが彼を見ると、カイレンは頷いた。リステイアが口を開いた。
「何を話したいの…」
まだ疑わしそうに尋ねた。
「いきなり突っかかったのは謝るよ。でも、あなたもスンウに殺気を放って襟首をつかんだよね。私にも謝ってほしいな。」
「は?」
「……」
静寂が流れた。
今、私の目から流れているのは汗か、涙か、雨か。
台本でも書いておけばよかったと後悔していると、カイレンの笑い声が響いた。
「プハハハ! それが謝罪か? クク、スンウ、お前の神獣、めっちゃ面白いな!」
カイレンは腹を抱えて笑った。
リステイアは呆れたように唇を噛み、両手を震わせた。赤いオーラが見えるようだった。
『ああ、終わった。』
シアは「私、うまくやったよね?」という顔で褒められるのを期待していた。
それでも謝罪はしたのだから、地球でも他人と必要以上に話さなかった彼女にしては大きな進歩だ。
バン!
リステイアが怒りを抑えきれずテーブルを叩いて立ち上がった。
「今のが謝罪なの?」
「じゃあ、これが謝罪じゃなくて、君の目には脅迫に見えるの?」
「この… 幼稚な! こんなオオカミ以下のやつの話を聞こうとした私がバカだった!」
「またオオカミって? 切られたトカゲの尻尾から再生した欠陥トカゲみたいなくせに!」
「何? カイレン! 今すぐこの二人を追い出して! なんでこんな下等な生き物を世話しなきゃいけないの!」
「世話? この家の従者が世話してるんでしょ。それも分からないの… あっ!」
シアが毒舌を続けようとしたが、事態が悪化する前に私が彼女の口を塞いだ。
「シア、頼むからやめて…」
「落ち着け、リス。まあ、謝罪はしたんだからさ?」
カイレンがリステイアをなだめる姿に、私はさらに気まずくなった。
「それに、私もお前にスンウに謝れって言うつもりだったんだ。」
リステイアが驚いて反発した。
「私がなぜ? 私の説明聞いてなかった? あの人間が私の花を踏みつけたって言ったでしょ!」
カイレンは真剣な顔で言った。
「リス、花を踏みつけたのは確かに彼のミスだ。でもそれは故意じゃなかったし、謝罪もしただろ?」
カイレンさん、すぐには謝れませんでしたけど… 私は心の中で思った。
「それなのに、お前は怒りを抑えきれずに殺気を放った。それは人間だろうと生き物だろうとやってはいけないことだ。」
「……うっ。」
「何? ちゃんと喋れよ、リス。」
ショックを受けたリステイアは涙目で彼を睨んだ。
「嫌い! 大嫌い! この二匹の生き物も、そしてカイレン、あんたが一番嫌い!」
彼女は感情を抑えきれずテーブルを叩いて食堂を出て行った。
「リス? リス!」
カイレンが追いかけようとして止まった。
『ちょっと追い詰めすぎたんじゃないか。』
彼らは出会って数時間しか経っていないのに、さっきの状況は私から見ても異常だった。
「スンウ、私、やりすぎちゃった…?」
やっと状況を察したのか、シアが慎重に尋ねてきた。うん、こうやって空気を読まずに喋っても、カイレンの前でシアを叱ったりはしない。
「え、う、スンウ。そして子神獣様。悪いな、俺が雰囲気ぶち壊しちゃったよ。」
「いえ、大丈夫です、カイレンさん。もしよろしければ、今日一日だけでもこの屋敷に泊まらせていただけますか?」
「う… ああ、そうだな。そうしてくれ。いや、ぜひそうしてくれ。部屋はさっきのところでいい。食事は従者に運ばせるから、今日の集まりはここで終わりだな。」
彼は頭が痛そうに眉間を押さえて目をぎゅっと閉じた。
「はい、ご配慮に感謝します。」
「ハハ、最後までカッチリしてるな。はぁ… 頭痛いよ。」
そんな彼の姿がなんだか気の毒に見えて、私は彼にできる言葉をかけた。
「カイレンさん、時には心を開いて話せる相手も必要です。そしてそういう相手が一度きりの出会いなら、秘密を守るのにもいいですよね。」
「ハハ、そうだな… 確かに。」
「では、私たちはこれで失礼します。」
「 わかった、そうしろ。」
私はシアの手を握って部屋に戻ろうとした。
「シア?」
「う… うん?」
とりあえずこの子も叱らなきゃ。約束と違ったよね。
「部屋に戻ったら二人でじっくり話そうか?」
「スン… スンウ! 私が… 私が悪かったよ!」
「ハハ、シア、その話は上でしよう。」
部屋に戻ろうとした瞬間、カイレンの心配そうな顔が気になった。リステイアとの言い争いが彼を重く圧迫しているようだった。
『あんなに後悔するなら、なんでああしたんだろう。』
少し迷ったが、シアの手を握って階段を登った。




