川端康成風に日記を書いてみました。
昨夜、鳥影社へ送った絵本が、郵便にて静かに戻ってきた。
人の世は、思うようにはならぬ。
気に入られなかったということだ。
胸の奥にかすかな痛みが走る。
けれども、それに押し沈むほどの弱さを持ってはならぬ。
夜はロキソニンの湿布を身に貼り、眠りに落ちた。
朝、海老カツのパンを食した。
実習の用意に取りかかる。
前半は版画。リトグラフと銅版。
絵皿三枚。すでに手元で使っているので、新たに買い求めねばならぬ。
後半は人物──裸婦と植物。
男か女か、ひと言書いてくれればよいのに、と心の中でつぶやく。
気を改め、午前のキックボクシングへ赴く。
ミットを打ち、連打の果てに身体は動かぬほどとなる。
帰途、ダイソーで薔薇水を入れる醤油さしと、版画用の手袋を買い求める。
車に乗り換え、府中市立美術館へ。
菱田春草の猫を見る。
「猫は好まぬ」と言った画家の筆が、猫をこの国に初めて描いた。
その矛盾の不思議に、ただ感嘆する。
そして、藤田嗣治。五人の裸婦。
説明文を読み、思わず微笑む。
展を終え、常設へ。
前とすっかり入れ替わり、また新しい。
ここは学びと喜びに満ちている。
無料であるのもまたうれしい。
ただひとつ、学生証を示した折、
「武蔵美の学生さんはそのままどうぞ」と声高に告げられる。
人々の視線が自分に集まる、その一瞬だけは、心がざわめく。
美術館を出て、ケーキを求める。
石川の辻口の菓子を食して以来、心は甘味に惹かれている。
府中に評判の店があると聞き、車を寄せた。
ケーキを持ち帰り、カフェインレスの珈琲とともに口にする。
特に旨くもなく、不味くもなく。
ただ、甘さが今日をやわらげる。
もう、ケーキなんて食さないと心に誓うた。
夜は、テンペラの白浮き出しの続きを描く。
静かな筆が、日を終わらせる。