夏目漱石風に日記を書いてみた。
来月から学校は実習で埋まる。したがって、この拙文を読んで退屈している御仁は、その頃から読み始められるのが無難であろう。先んじて読むと損をする。
さて、朝である。運動をした覚えは毛頭ないのに、全身筋肉痛である。これはキックボクシングのせいらしい。だが、運動した気がしないのに痛むというのは、人類の歴史においても稀有な現象ではなかろうか。私は「不労筋肉痛」と命名したい。学会で採択される日は近い。
蹴りが下手なものだから、足の妙な箇所に痣が咲いている。手首はバンテージでぐるぐる巻き、さらにグローブまで重ねる。これでなお痛むのだから、人間の身体は信用ならぬ。結局ロキソニンテープを全身に貼った。ミイラのようである。
机に向かう。バイオリンのデッサンである。4Bで形を取り、HBに持ち替え、さらに6Hを振り回す。私は鉛筆の硬さに心を奪われた猿である。猿は6Hを持つと哲学者になる。だが画面には哲学よりも鉛筆の線が積もっていく。
豆乳を一口。着替えを済ませ、水筒に茶を入れて、再びジムへ。昼のクラスは三人。少数精鋭といえば聞こえはいいが、実際はインストラクターに逃げ場なく捕捉され、基礎を徹底的に叩き込まれる。ありがたいやら迷惑やらで、アトリエに戻る頃には体は早くも木製の人形のごとく硬直していた。
脱デブ、脱ブス、脱ダメ人間。三脱を果たした暁には、私にも友が出来るだろう。だが現時点では三重苦である。ゆえに私は、友達よりも先にスキルを得て、人に笑われぬ程度の人間になろうと企んでいる。
洗濯物を畳み、干す。これを済ませて、ようやく油絵に向かう。昨日までの画面にテンペラで白を重ねる。浮き上がるのは絵か、それとも私の虚栄心か。