甘やかに絆される
エドワードの囁くような声が耳に残る。
「君が、本当に僕のものになったら、かな」
その言葉が意味するところを、リリアはすぐに理解した。
(……つまり、それって……)
考えた瞬間、カッと顔が熱くなる。
(そんなの、そんなの……っ!)
彼の手の中にある手錠の鍵が、ひどく遠いものに思えた。
手錠が外れることを期待しながらも、その条件を考えると、なぜか心臓がうるさく鳴り始める。
「可愛いね、リリア」
エドワードは楽しそうに微笑んだ。
「そんなに赤くなって……。僕の言葉、そんなに気になった?」
「っ!! き、気になんて……!!」
「ふふ、それならよかった」
嘘だ。絶対に分かっていて言っている。
それがわかるほどには、リリアもエドワードのことを知っていた。
(なんでそんなことをさらっと言えるの!?)
目の前の男は、彼女の心を掻き乱すのが得意すぎる。
その彼が、ちらりとリリアの手首に視線を落とした。
「……でも、そろそろ手錠の跡が残りそうだね」
「え?」
その言葉に、リリアも自分の右手首を見る。
そこには銀色の手錠がくっきりと食い込み、赤くなっていた。
(……ずっとつけられていたから……)
「ま、まだ外してくれないのですか……?」
不安げに尋ねると、エドワードは少しだけ考える素振りを見せ——
「……じゃあ、特別に片方だけね」
そう言って、ゆっくりと鍵を取り出した。
カチャリ、と小さな音が響き、右手の手錠が外れる。
「っ……!」
解放された瞬間、リリアはぎゅっと手を握りしめた。
自由になった腕をそっと動かす。手首にはくっきりと赤い跡が残り、ほんの少しひりひりと痛む。
その様子を見たエドワードは、優雅に微笑みながら手を伸ばし——
「……痛む?」
リリアの手首をそっと包み込んだ。
「あ……」
彼の指が柔らかく、赤くなった部分を撫でる。
まるで宝物を扱うような、優しく慈しむような動き。
指先が肌に触れるたび、くすぐったいような感覚が広がる。
(……くすぐったい……のに、なんだか……)
胸の奥が、妙にざわめいた。
「っ……」
自然と、指がぴくりと震える。
「ふふ、やっぱり敏感だね」
「ち、違……っ、そんなこと……!」
リリアが反論しようとするが、エドワードは構わず指を滑らせる。
「大丈夫。もっと優しくするから」
「な、何を……!!?」
驚く間もなく、彼はそのまま手首へと唇を寄せた。
ちゅっ——。
「っ……!?」
リリアの目が大きく見開かれる。
手首に落とされた唇は、驚くほど熱かった。
舌先でそっと跡をなぞるように触れられ、リリアは思わず身体を強張らせた。
「ん……っ、や……」
「ふふ、可愛い声」
エドワードは満足げに微笑みながら、さらにもう一度、柔らかく口づけを落とす。
それはまるで、痛みを和らげるかのような優しさで——けれど、どこか、それ以上の意味を含んでいるようにも感じられた。
「……これで、少しは痛みが和らいだ?」
「……っ」
リリアは顔を真っ赤にしながら、何も言えずにこくりと頷くしかなかった——。