本当の意味での『お預け』
——カシャリ。
冷たい金属音が、静寂の中に響いた。
リリアは荒い息を整えながら、自分の手首を見下ろす。そこにはまだ、ベッドの柱へと繋がれた手錠が、しっかりと嵌まったままだった。
(……早く外してほしい……)
ほんの僅かでも期待してしまった自分が悔しくなる。エドワードは「お利口さんにしていたら外してあげる」と言った。でも、その”お利口さん”の基準がどこにあるのか、まるで分からない。
(もしかして……ずっと、このままなの?)
絶望的な考えが頭をよぎる。しかし、その思考を遮るように——
「そんなに残念そうな顔をしないで、リリア」
ふっと耳元に囁かれる。その声に驚き、彼の方を見た瞬間——
そっと頬を撫でる指先。
「……っ!」
ひやりとした感触が、火照った肌に心地よく触れる。その一瞬の隙を突くように、エドワードはリリアの顎を掴み、再び唇を塞いだ。
「ん……っ!? ふ、ぅ……」
重なる唇。
吸い付くように深く、じっくりと味わうようなキス。
舌先がそっと歯列をなぞり、リリアの口内へと入り込んでくる。ゆっくりと絡め取るように動くそれに、抗おうとする意思は簡単に溶かされていく。
(だ、め……拒めない……っ!)
心の中でそう叫んでも、彼の動きは緩むことなく、むしろ焦らすようにじっくりと深くなっていく。
「ふ……っ、ん……ぁ……」
息が苦しくなっても、彼はなかなか離してくれない。むしろ、リリアが軽く肩を震わせたのを見計らって、舌をより絡めてくる。
(や、やめて……こんな……!)
涙目になりながら、必死で唇を押し返そうとするけれど、彼の腕の中から逃れることはできなかった。
——カシャリ。
また、手錠の鎖が鳴る。
それが、自分の自由を奪っているのだと、嫌でも思い知らされた。
ようやく唇が解放された頃には、リリアはぐったりと力を失っていた。
エドワードはそんな彼女を満足げに見つめながら、指で濡れた唇をなぞる。
「リリア」
「……な、なんですか……」
未だに息が整わないまま、彼を睨みつける。
「……そんなに焦らなくても、ちゃんと外してあげるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。——ただし、その前に」
エドワードは優雅に微笑みながら、そっと彼女の手首を持ち上げた。
冷たい金属が肌に食い込む感覚。その手首に、彼はそっと唇を寄せる。
「……っ!」
リリアはびくりと肩を震わせた。まるでそこにキスを落とすことで、“拘束されていること”を意識させるかのように——。
「僕に”ちゃんと”誓えるならね」
「……誓う、って……?」
「もう二度と、僕から逃げないって」
耳元で囁かれる言葉に、背筋が震える。
「……っ!」
それがどういう意味を持つのか、リリアは痛いほど理解していた。
——彼のものになることを、完全に受け入れろと。
「……それは、無理です……」
ようやくの思いで、そう呟いた瞬間——
再び、深く、深く、吸い付くような口づけが落とされた。
「んっ……!!」
まるで、“お仕置き”のようなキスだった。
甘く、そして、支配するように。
エドワードに翻弄されるリリアは、抗う術を失っていく──