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逃げ道なんて、ない


ジャラリ——。


 微かに響く金属音に、リリアはハッと目を見開いた。


(……もうっ!)


 反射的に手を動かそうとした瞬間、細い手首に絡みつく冷たい感触が、それを阻む。鎖が軋み、ベッドの柱に固定された手錠が、まだそこにあることを彼女に思い出させた。


(これ、いつ外れるの!?)


 思わずぎゅっと手を握りしめる。もう何日も経っているというのに、エドワードは一向に手錠を外す素振りを見せない。むしろ、彼は当然のようにそれを受け入れたまま、リリアとの甘い時間を過ごしている。


 ——そう、甘すぎるほどに。


 リリアは震える唇を噛み締めながら、ゆっくりと顔を上げた。


「……エドワード様」


 目の前には、まるで慈しむような微笑みを浮かべた彼の姿。いつものように優雅に整えられた金髪と、魅惑的な黄金の瞳が、彼女を覗き込んでいる。


「ん? どうしたの、リリア」


 すべてを見透かしているようなその瞳が、彼女の焦燥を愉しんでいるかのように輝いた。


「その……まだ、この手錠……」

「外してほしいの?」


 リリアはびくりと肩を震わせた。その声音が、やけに甘く響いたせいだ。


「そ、それは……っ」


 当然だ、と言いたかったのに、エドワードの指がすっと彼女の頬を撫でた瞬間、言葉が詰まる。

 ひやりとした指先が、肌をなぞる。まるで愛おしむようなその仕草に、心臓が強く跳ねた。


「リリアが……お利口さんにしていたら、すぐにでも外してあげるよ」

「……っ!」

「でも、まだ少し心配だからね……」


 くすくすと微笑む彼の顔が、すっと近づく。吐息が触れそうなほどの距離に、リリアの意識は嫌でも彼へと集中した。


「……逃げようとしたり、僕を拒んだりしないと、約束できる?」


 低く甘やかに囁かれる。その声音は、まるで誘惑するかのように優しいのに、同時に逃げ場を塞ぐ檻のようでもあった。


「私は……」


 答えようとした瞬間——


 ふわりと、唇に柔らかい感触が触れた。


 「んっ……!」


 戸惑う暇もなく、エドワードの唇が重なる。今まで何度も繰り返されたキス。けれど、今日のそれはいつも以上にじっくりと、そして深く——。


 唇が啄むように触れては離れ、またすぐに重なる。最初は浅く、確かめるようなキス。それが徐々に熱を帯び、舌先がそっと押し入ってきた瞬間、リリアの体がびくりと震えた。


(だ、め……っ、また……!)


 彼の舌が絡みつく。ぬるりと入り込み、ゆっくりと絡めとられる感覚に、意識が溶けそうになる。

 やめなきゃ。振り払わなきゃ。

 そう思うのに、抗う力はすぐに奪われていく。


「ん……っ、ふ……ぅ……」


 自分でも驚くほど、甘い声が漏れた。

 エドワードの腕が彼女の腰を引き寄せる。手錠の鎖がカシャリと音を立てたが、それすらも意識の端に追いやられるほど、彼の熱が強く感じられた。


「……ふ……っ、は……」


 やっと唇が離れる。息が乱れ、細く喘ぐような吐息が漏れる。

 エドワードはそんな彼女の様子を満足げに眺めながら、そっと指で濡れた唇をなぞった。


「ねえ、リリア」

「……な、ん……ですか……」


 彼の指が顎を持ち上げる。再び逃げられないように固定されると、彼は楽しげに微笑んだ。


「もう一度、聞こうか?」


 唇が耳元に触れるほどの距離で、囁かれる。


「まだ、手錠を外してほしい?」


 リリアの思考が、一瞬で真っ白になった。

 彼の指がそっと手錠の鎖を弄ぶ。外されるわけではなく、ただそれがまだ存在していることを意識させるように。


(い、いや、こんなの……ずるい……っ!)


 もはや彼が手錠を外すかどうかではなく、彼の言葉一つで自分の意思が揺らいでしまうことに、リリアは必死で抗おうとする。


「……や、やっぱり……今すぐに、外して……!」


 精一杯の抵抗の意思を込めて、そう言った。


 エドワードはふっと微笑み——


「じゃあ、もう少しお預けだね」


 すぐさま再び、唇を塞がれた。


「ん、む……っ!?」


 彼の舌が絡みつき、甘く犯していく。まるで、逃げる隙を与えないように。

 そして、リリアは悟った。


 ——これが終わるのは、きっと彼が満足するまでなのだ、と。


(ま、また逃げられない……!!)


 リリアの絶望は、甘く蕩けた熱の中に飲み込まれていった——。


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